手向け花を捧ぐーREー

井上なぎさ

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第88話

「嫌な顔一つせず笑顔で歓迎してくれるって」

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「私、君のお父さんとは古くからの付き合いだったのですよ。貴方は知らないかもしれないですが。まさか、貴方が生きていたとは、驚きでしたね」

キキョウ「・・・何?」

「貴方のお母さん、美人だそうですね。
まるで人形のようで、肌も白く、美しい。言葉で表すとすれば、そう、一輪の花のように。その方に、私は恋してしまったのです。
あいつ・・・・ジングには勿体無いくらいに」

キキョウ「!」










これはまだキキョウがこの世に誕生してない時、人形屋の店主とジングは同じ同僚だった。



「なぁジング。今日どっか飲みに行かないか?」

「どうした?なんか元気ないじゃないか」

「いやぁまた失敗しちゃって・・・もうこうなったらやけ食いしようかなって」

「また女の子に振られたのか。そこは慎重にまず手順踏んでからいかないと女の子のハートは掴めないぞ。俺はちゃんと手順踏んだらOK貰ったぞ」

「なんだよジングのくせに手順なんか踏んじゃ・・って、え?
お前・・・彼女居んの?」

「ん?あぁ、言ってなかったな、そう言えば。付き合い始めたのが1年半は経つかな。うちの妻がさーめちゃくちゃ可愛くてな」


「え、は、初耳だよ。お前なに私より一歩先行ってんだよ。しかも黙ってさ!
今度紹介しろよ!」

「いいぜ。あー、それならさ・・飲みには行けんが今日仕事終わったら家にきて飲まないか?」

「邪魔じゃないか?」

「なに言ってるんだよ。うちの妻は誰に対しても優しいぜ。嫌な顔一つせず笑顔で歓迎してくれるって」

「・・・まぁ、いいけど」


なんかそれだと余計自分が惨めになるわ。
私は女からは逃げられるし、同僚のジングには女がいる。
それももう妻になってるなんて・・・。



ーーー

その日の夜。


「ただいまー」

「ジングさん。おかえりなさい。あら?」

「今日はうちの同僚と飲もうかなって思って家に連れてきたんだ」

私は「お、お邪魔します」と顔を下げて言えば、
ジングの妻が優しい声で
「いらっしゃい。
すぐ食事の準備をしますから、ゆっくりしていってくださいね」と笑いかける。
私はその声に顔を上げた。








・・・え。








その優しい声に、私は惹かれたんだとおもう。
だけど、その人はもう・・・



奥の方へパタパタ走っていくジングの妻の後ろ姿を見ながら、ボーッと玄関に突っ立っていると
「ほら、遠慮しないで中に入れよ」とジングに言われる。

「に、妊娠してた・・・」

「あ、それも言ってなかったな。もうとっくに式も上げて晴れて夫婦になったんだ、俺たち」

「わ、私式に呼ばれてないが!?」

「なんか、あん時忙しくて呼ぶ暇もなかったっていうか。ごめんな。お詫びに今日は美味しい妻の手料理食わせてやるから。な?そんなしょげるなよ」

「悄気てねぇ!」


そんなこんなで妻の手料理が食卓に並び、


「さぁ、いっぱい召し上がってね」

「よし!今日はこいつの失恋祝いに乾杯だ!」

「おい、違うだろ。式に呼ばなかったそのお詫びにだろ!?」

「あはは、わかったわかってるって。それじゃかんぱーい!」

ビールを乾杯し二人は勢いよくビールを飲み干す。


「ぷはー!うめぇ!ほらお前も遠慮しないでどんどん食えよ!」

そしてご飯を口にするジング。

「もう、あなたったら、お客さんの前で行儀が悪いですよ。子供みたいに口の周りを汚さないの」

そう言ってジングの口の周りを拭いてあげる妻。それを見ていた私がぼーっとしてたら手にしてたビールをいつのまにか自分のズボンの上に溢してしまっていた。

「冷た!」

「あら大変!大丈夫ですか!?」

「なにしてんだよー」

「いやー、あははは・・・」

妻は私のズボンを布巾で一生懸命に拭いていた。


「す、すいません」

「なにも謝る必要ありませんよ」

そう言って私に微笑む、奥さん。
それを近くで見た私は惚れてしまったんだ・・・。











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