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chapter 1
Wonderwall(2)
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「それでも、言わなくて良かったんだよ、オレの場合は。英理奈さんと彼氏との関係だけじゃない、浅野さんていう存在があったから、オレの本当の気持ちなんて知ったら英理奈さんは余計苦しんだと思う。それに、オレといると英理奈さんは、ずっと過去に囚われ続ける事になるから」
「けど、都合の良い相手だったとしても、お前と一緒にいたかったんじゃないの?本当に無理だったらわざわざトラウマ呼び起こすようなヤツと一緒にいないって普通」
「だから、多分それは、過去に叶えられなかった事をオレといて満たそうとしてたんじゃない?」
自分で言っててまぁまぁ虚しくなる。
「……まぁ、それも一理ある気はする、けどさ、浅野さんて人の事はひとまず置いといてだな、おまえはあの人の気持ち、知りたくなかったわけ?」
英理奈さんの気持ちなら散々考えた。
「オレの気持ちを言ったところで、ってのと同じだよ。英理奈さんがもしオレの事を好きになってくれてたとしても、結果は変わらないし、彼女が前を向いて誰かと一緒に生きて行きたいならそれは、……オレとじゃ無理だから」
「そう言われたわけ?何でおまえが向こうの気持ち勝手に決めつけてんの」
湊が語気を強めて言う。
「……それは」
「おまえは本当の事知って自分が傷付くのが怖かっただけだろ。実際浅野さん?の事知って逃げ出したわけだしな」
「別に逃げたわけじゃ、」
「まぁまぁ、あ、お鍋少なくなってきたね。もうちょっと足そうか。ビール空いてる?ついでに持ってくるー」
オレと湊が険悪なムードになりかけると斉藤はいつもこうやって間に入ってくれる。
「……逃げたつもりはない、けど、いまだに浅野さんの事を想って泣いてしまう英理奈さんを見てたら、オレじゃ無理だって、そう思ったらもう諦めるしか、それが逃げてるって言うんなら、そうなんだと思う」
「……あのさ、みんなの話聞きながら思い出してたんだけど、ちょっと自分の話していい?」
ずっと黙っていた小原が急に話し始めた。
「あぁ、いいけど」
「オレさ、高校一年の時、二個上の女の先輩にすげぇ可愛がってもらってて、その理由が親が離婚してから離れて暮らしてる弟にオレが似てるとかだったんだけど、それでもオレはその先輩の事が好きだったの。家が同じ方向だったから一緒に帰ったりしたくらいで、結局告白も出来ず先輩は卒業して、それきりなんだけど……。当時は何も出来なかったの結構後悔してしばらく引きずってた。さすがにいまさら会いたいとか付き合いたいとかは無いけど、嫌いになって会わなくなったわけじゃないから、好きか嫌いかで言うとやっぱ好きなままで、だから今その先輩にもしもの事があったら、ちょっとオレ正気でいられないかも、って思った。だから、その、英理奈さん、の気持ちも何となくわかるし、おまえの気持ちもわかると言うか、何も変わらないにしても後悔だけはしてほしくない、かな。ごめん、何が言いたいのか、よくわかんないね」
そう言うと小原は照れ臭そうに残っていたビールを一気に流し込む。
「へぇ~、小原くんもそんな切ない恋してたんだね」
「まぁ、そうだよな。誰もが自分の身近な人とか大切な人が簡単に死ぬなんて思って日々生きてないもんな。何があるか何てわかんねーし、その、英理奈さんだって、明日死なないとも限らないわけだしな」
縁起でもない事言うなよ。……けど、そうだ。湊の言う通り、そうやって英理奈さんは浅野さんと二度と会えなくなってしまったんだ。
「……あのさ、オレもちょっと思ったんだけど、いい?」
長田が手を挙げて言う。
「何?」
「いつかの賭け、あれオレの一人勝ちだったんじゃね?」
何の話だ、あ、アレか。オレと英理奈さんの初めての日のか。
「全員金返せ」
「えー、今更?もういいじゃん、いくらだったか覚えてないよ」
「そう言うわけにいくか。だいたいおまえが隠すからだろ」
オレのせいか?
まぁ全く関係無いとは言い切れないな。
「もう面倒くさい。じゃもう今日の鍋代今までの分は無しでいいよ。ところでもうお酒無くなりそうなんだけど、みんなペース速すぎ。長田くん買って来てー」
斉藤が心底面倒くさそうに言う。
「何でオレなんだよ、別にいいけど」
何だかんだ文句を言いながらも基本人の良い長田はこうやっていつもおつかいに行かされる。一人暮らしの湊のアパートには昔からこんな風に集まる機会が多くこの辺の地理もみんな把握済みだ。
「何だよ、雨降ってんじゃん最悪」
長田が玄関のドアを開けると確かに外から雨の音がした。
「あー、オレの傘使って」
湊が玄関に置いてある自分の傘を長田に渡す。
「この雨の中誰も一緒に行くとは言ってくれないのな、まぁいいけどさ。適当に買って来るわ」
独り言のようにブツブツ言いながら雨の中長田が一人出て行った。
――夜に降る雨がダメで。
何かに付けて英理奈さんの事を思い出すのが癖になってしまっている。彼女と出逢ってからはまだ数ヶ月しか経っていないというのに。
夜に降る雨がどうして苦手なのか結局聞けなかったな。それだけじゃない、聞けなかった事、まだ知らない事、たくさんあったはずだ。
今頃どうしているんだろう。彼女の部屋に初めて行った、あの雨の日を思い出す。濡れた髪、潤んだ瞳でオレを見ていた彼女はあの時何を思っていたのか。
少しくらいはオレを想ってくれていたのかな。
こんな雨の夜に、もしまだこの街にいるのなら、一人で平気だろうか。
唐突に玄関のドアが開き長田が帰って来た。
開かれたドアの向こうで救急車がサイレンを鳴り響かせ通り過ぎて行く。
――明日、死なないとも限らない。
ついさっきの会話を思い出す。
もし、もしもまだ、間に合うのなら……。
「……オレ、行ってくる」
「けど、都合の良い相手だったとしても、お前と一緒にいたかったんじゃないの?本当に無理だったらわざわざトラウマ呼び起こすようなヤツと一緒にいないって普通」
「だから、多分それは、過去に叶えられなかった事をオレといて満たそうとしてたんじゃない?」
自分で言っててまぁまぁ虚しくなる。
「……まぁ、それも一理ある気はする、けどさ、浅野さんて人の事はひとまず置いといてだな、おまえはあの人の気持ち、知りたくなかったわけ?」
英理奈さんの気持ちなら散々考えた。
「オレの気持ちを言ったところで、ってのと同じだよ。英理奈さんがもしオレの事を好きになってくれてたとしても、結果は変わらないし、彼女が前を向いて誰かと一緒に生きて行きたいならそれは、……オレとじゃ無理だから」
「そう言われたわけ?何でおまえが向こうの気持ち勝手に決めつけてんの」
湊が語気を強めて言う。
「……それは」
「おまえは本当の事知って自分が傷付くのが怖かっただけだろ。実際浅野さん?の事知って逃げ出したわけだしな」
「別に逃げたわけじゃ、」
「まぁまぁ、あ、お鍋少なくなってきたね。もうちょっと足そうか。ビール空いてる?ついでに持ってくるー」
オレと湊が険悪なムードになりかけると斉藤はいつもこうやって間に入ってくれる。
「……逃げたつもりはない、けど、いまだに浅野さんの事を想って泣いてしまう英理奈さんを見てたら、オレじゃ無理だって、そう思ったらもう諦めるしか、それが逃げてるって言うんなら、そうなんだと思う」
「……あのさ、みんなの話聞きながら思い出してたんだけど、ちょっと自分の話していい?」
ずっと黙っていた小原が急に話し始めた。
「あぁ、いいけど」
「オレさ、高校一年の時、二個上の女の先輩にすげぇ可愛がってもらってて、その理由が親が離婚してから離れて暮らしてる弟にオレが似てるとかだったんだけど、それでもオレはその先輩の事が好きだったの。家が同じ方向だったから一緒に帰ったりしたくらいで、結局告白も出来ず先輩は卒業して、それきりなんだけど……。当時は何も出来なかったの結構後悔してしばらく引きずってた。さすがにいまさら会いたいとか付き合いたいとかは無いけど、嫌いになって会わなくなったわけじゃないから、好きか嫌いかで言うとやっぱ好きなままで、だから今その先輩にもしもの事があったら、ちょっとオレ正気でいられないかも、って思った。だから、その、英理奈さん、の気持ちも何となくわかるし、おまえの気持ちもわかると言うか、何も変わらないにしても後悔だけはしてほしくない、かな。ごめん、何が言いたいのか、よくわかんないね」
そう言うと小原は照れ臭そうに残っていたビールを一気に流し込む。
「へぇ~、小原くんもそんな切ない恋してたんだね」
「まぁ、そうだよな。誰もが自分の身近な人とか大切な人が簡単に死ぬなんて思って日々生きてないもんな。何があるか何てわかんねーし、その、英理奈さんだって、明日死なないとも限らないわけだしな」
縁起でもない事言うなよ。……けど、そうだ。湊の言う通り、そうやって英理奈さんは浅野さんと二度と会えなくなってしまったんだ。
「……あのさ、オレもちょっと思ったんだけど、いい?」
長田が手を挙げて言う。
「何?」
「いつかの賭け、あれオレの一人勝ちだったんじゃね?」
何の話だ、あ、アレか。オレと英理奈さんの初めての日のか。
「全員金返せ」
「えー、今更?もういいじゃん、いくらだったか覚えてないよ」
「そう言うわけにいくか。だいたいおまえが隠すからだろ」
オレのせいか?
まぁ全く関係無いとは言い切れないな。
「もう面倒くさい。じゃもう今日の鍋代今までの分は無しでいいよ。ところでもうお酒無くなりそうなんだけど、みんなペース速すぎ。長田くん買って来てー」
斉藤が心底面倒くさそうに言う。
「何でオレなんだよ、別にいいけど」
何だかんだ文句を言いながらも基本人の良い長田はこうやっていつもおつかいに行かされる。一人暮らしの湊のアパートには昔からこんな風に集まる機会が多くこの辺の地理もみんな把握済みだ。
「何だよ、雨降ってんじゃん最悪」
長田が玄関のドアを開けると確かに外から雨の音がした。
「あー、オレの傘使って」
湊が玄関に置いてある自分の傘を長田に渡す。
「この雨の中誰も一緒に行くとは言ってくれないのな、まぁいいけどさ。適当に買って来るわ」
独り言のようにブツブツ言いながら雨の中長田が一人出て行った。
――夜に降る雨がダメで。
何かに付けて英理奈さんの事を思い出すのが癖になってしまっている。彼女と出逢ってからはまだ数ヶ月しか経っていないというのに。
夜に降る雨がどうして苦手なのか結局聞けなかったな。それだけじゃない、聞けなかった事、まだ知らない事、たくさんあったはずだ。
今頃どうしているんだろう。彼女の部屋に初めて行った、あの雨の日を思い出す。濡れた髪、潤んだ瞳でオレを見ていた彼女はあの時何を思っていたのか。
少しくらいはオレを想ってくれていたのかな。
こんな雨の夜に、もしまだこの街にいるのなら、一人で平気だろうか。
唐突に玄関のドアが開き長田が帰って来た。
開かれたドアの向こうで救急車がサイレンを鳴り響かせ通り過ぎて行く。
――明日、死なないとも限らない。
ついさっきの会話を思い出す。
もし、もしもまだ、間に合うのなら……。
「……オレ、行ってくる」
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