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chapter 3
途切れた想い、繋ぐフレーズ(1)
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「私、あの頃浅野さんの事が本当に好きで付き合い始めたわけじゃないんだよね。リナと浅野さん、二人の距離がどんどん近くなっていって、浅野さんがリナの事を「エリナ」って呼ぶのが嫌で、二人が私の知らない話をするのが嫌で、でもそのままにしてたら浅野さんは絶対リナの良さに気付いてリナの事を好きになる気がしてて、今ならまだ私の方を向いてくれている、私が付き合えば二人が付き合う事はないって、そんなくだらない理由で付き合い始めた」
理香子さんは、理香子さんと英理奈さんと浅野さんの大学の頃の話を掻い摘んで話してくれた。
「それでも、浅野さんは私の事本当に大切にしてくれたし、一緒にいるうちに私もちゃんと浅野さんの事好きになってた。だけど気持ちが強くなる分どんどん辛くなっていった。付き合ってても基本的に自由で自分を曲げない人だったから、やっぱり私じゃ理解してあげられない部分が、多すぎて……」
英理奈さんの方がもっとはっきり言っていたな。
口も性格も酒癖も女癖も悪かったって。
理香子さんはオレが知る限りでは真面目で几帳面なタイプだから相当苦労しただろう。
「リナにはなんでもないフリしてたけどね。私が就活始めた頃からすれ違いも多くなって、何度ももう別れようって思ったけど、別れられなくて、浅野さんも何も言わないし、でも、私の卒業間近になって、浅野さんの態度がおかしくなった。二歳年上の浅野さんはとっくに卒業してたからリナも一緒に会う事はほとんど無くなってたんだけど、たまにリナと一緒にいると、明らかにリナの事目で追ってて、なのに私がリナの話をすると不機嫌になった。絶対なんかあったんだろうなとは思ったけど、二人とも何も言わないし、私からも聞けなかった。でも、やっぱりなって、私が最初に思ってた通りだなって、もうその頃には私の気持ちは冷めてたから、それでやっと別れを切り出せた。その後、二人付き合うのかなって思ってたけど、結局付き合わなくて、それから三年後、浅野さんは……」
理香子さんが言葉を詰まらせる。
「私は、ちゃんと付き合って、向き合って、納得して別れたからそういう意味での後悔は無い。けど、リナは苦しかったんだと思う。あの子、浅野さんが亡くなってから、大好きだった音楽、全く聴けなくなったから」
「そうなんですか?」
けど、オレといた時は。
「だから私はあの店で働き始めたの。私に会いに来てくれたらリナが必然的に音楽に触れられるように、私に音楽を教えてくれたのは浅野さんじゃなくて、リナだから。一度だけ店に来てくれてもう大丈夫なのかなって思ったのに、あの子は結局レコードも全部置いて行った」
「英理奈さん、レコード聴いてましたよ、少なくともオレといた時は。そういえば聞いた事がある。大学の頃友達と一緒に自分の部屋でレコードかけて、くだらない話してた時が一番楽しかったって、あれ、理香子さんの事だったんですね」
「……ほんとに?」
理香子さんの目が少し潤んでいる。
「はい」
「……そっか」
オレとレコードの話や音楽の話をしている時の英理奈さんは本当に楽しそうだった。
それに間違いは無い。
オレたちの関係は、間違いだらけだったとしても。
「ごめんね、長々と話しちゃって。こんな話聞かされてもどうしようもないよね。おかしいな、こんな事言いに来たはずじゃなかったんだけど、なんだっけ。あ、そうだ、杉浦くんの不調の原因の話だ。……やっぱり、リナなの?」
急に話の矛先を変えられて少し焦る。
オレの話よりオレの知らない英理奈さんと理香子さんの話をもう少し聞いていたかった。
「突き詰めればそうなのかもしれません。もともとは英理奈さんがオレに浅野さんを重ねてたって事を知って、英理奈さんとの関係が終わって、もう英理奈さんに観てもらうことも無いのに、ステージに立つとどうしても意識してしまって、観たことも無い浅野さんの幻想に取り憑かれたようになって、それまでの自分のパフォーマンスが出来なくなった。無理にスタイルを変えようとすればする程おかしくなって、それでもバンドのメンバーや阿部さんや、観に来てくれる人、いろんな人に支えて貰って何とかやって来れた。……なのに、理香子さんに出会って、一目見て、英理奈さんに似てるって思ったら、もう全部思い出してしまって」
「あー、何か、ごめん。私とリナ似てるよね、お互い自覚してる。というか、似てたから私がリナに声をかけて仲良くなって一緒にいるうちにますます似てきて本気で双子に間違われたこともある」
「見た目だけじゃなくて、レコードのチョイスも、ビートルズが好きなところも、あとビールの泡の対比の好みとかも、少し寂しそうに笑うところも、ちょっと引くくらい似てて、でも今までの話聞いて何か、納得しました」
「ほんとにリナの事好きだったんだね、今言ったのは全部リナの事だな。私もリナのそういうところが好きで、リナの真似をしてた。どうして言ってあげなかったの?」
理香子さんは、理香子さんと英理奈さんと浅野さんの大学の頃の話を掻い摘んで話してくれた。
「それでも、浅野さんは私の事本当に大切にしてくれたし、一緒にいるうちに私もちゃんと浅野さんの事好きになってた。だけど気持ちが強くなる分どんどん辛くなっていった。付き合ってても基本的に自由で自分を曲げない人だったから、やっぱり私じゃ理解してあげられない部分が、多すぎて……」
英理奈さんの方がもっとはっきり言っていたな。
口も性格も酒癖も女癖も悪かったって。
理香子さんはオレが知る限りでは真面目で几帳面なタイプだから相当苦労しただろう。
「リナにはなんでもないフリしてたけどね。私が就活始めた頃からすれ違いも多くなって、何度ももう別れようって思ったけど、別れられなくて、浅野さんも何も言わないし、でも、私の卒業間近になって、浅野さんの態度がおかしくなった。二歳年上の浅野さんはとっくに卒業してたからリナも一緒に会う事はほとんど無くなってたんだけど、たまにリナと一緒にいると、明らかにリナの事目で追ってて、なのに私がリナの話をすると不機嫌になった。絶対なんかあったんだろうなとは思ったけど、二人とも何も言わないし、私からも聞けなかった。でも、やっぱりなって、私が最初に思ってた通りだなって、もうその頃には私の気持ちは冷めてたから、それでやっと別れを切り出せた。その後、二人付き合うのかなって思ってたけど、結局付き合わなくて、それから三年後、浅野さんは……」
理香子さんが言葉を詰まらせる。
「私は、ちゃんと付き合って、向き合って、納得して別れたからそういう意味での後悔は無い。けど、リナは苦しかったんだと思う。あの子、浅野さんが亡くなってから、大好きだった音楽、全く聴けなくなったから」
「そうなんですか?」
けど、オレといた時は。
「だから私はあの店で働き始めたの。私に会いに来てくれたらリナが必然的に音楽に触れられるように、私に音楽を教えてくれたのは浅野さんじゃなくて、リナだから。一度だけ店に来てくれてもう大丈夫なのかなって思ったのに、あの子は結局レコードも全部置いて行った」
「英理奈さん、レコード聴いてましたよ、少なくともオレといた時は。そういえば聞いた事がある。大学の頃友達と一緒に自分の部屋でレコードかけて、くだらない話してた時が一番楽しかったって、あれ、理香子さんの事だったんですね」
「……ほんとに?」
理香子さんの目が少し潤んでいる。
「はい」
「……そっか」
オレとレコードの話や音楽の話をしている時の英理奈さんは本当に楽しそうだった。
それに間違いは無い。
オレたちの関係は、間違いだらけだったとしても。
「ごめんね、長々と話しちゃって。こんな話聞かされてもどうしようもないよね。おかしいな、こんな事言いに来たはずじゃなかったんだけど、なんだっけ。あ、そうだ、杉浦くんの不調の原因の話だ。……やっぱり、リナなの?」
急に話の矛先を変えられて少し焦る。
オレの話よりオレの知らない英理奈さんと理香子さんの話をもう少し聞いていたかった。
「突き詰めればそうなのかもしれません。もともとは英理奈さんがオレに浅野さんを重ねてたって事を知って、英理奈さんとの関係が終わって、もう英理奈さんに観てもらうことも無いのに、ステージに立つとどうしても意識してしまって、観たことも無い浅野さんの幻想に取り憑かれたようになって、それまでの自分のパフォーマンスが出来なくなった。無理にスタイルを変えようとすればする程おかしくなって、それでもバンドのメンバーや阿部さんや、観に来てくれる人、いろんな人に支えて貰って何とかやって来れた。……なのに、理香子さんに出会って、一目見て、英理奈さんに似てるって思ったら、もう全部思い出してしまって」
「あー、何か、ごめん。私とリナ似てるよね、お互い自覚してる。というか、似てたから私がリナに声をかけて仲良くなって一緒にいるうちにますます似てきて本気で双子に間違われたこともある」
「見た目だけじゃなくて、レコードのチョイスも、ビートルズが好きなところも、あとビールの泡の対比の好みとかも、少し寂しそうに笑うところも、ちょっと引くくらい似てて、でも今までの話聞いて何か、納得しました」
「ほんとにリナの事好きだったんだね、今言ったのは全部リナの事だな。私もリナのそういうところが好きで、リナの真似をしてた。どうして言ってあげなかったの?」
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