6 / 27
1
5
しおりを挟む
結局その日、社長は長門さんを連れ立って外出して行き、夕方にはニコニコしながら帰って来た。
『メールはばっちり見れるようになったから、返事が遅れるようだったらまた言ってね』
そういうところはさすがだ。伊達に二十年近く社長業をやっていない。
気が弱そうに見えて本当は締めるところは締めるし、理不尽なクレームにも毅然とした態度を取れる人だ。かといってワンマンではなく、社員の意見もちゃんと聞いてくれる。
スケ管には残業はほぼないし、休みも結構取りやすい。転職するときに一番重要視したのが残業の有無だったけれど、本当に全くなくて最初は少なからず驚いた。
明日は金曜日で祝日。その日から十一日間もある長期休暇に入る、という日の前日夕方六時。本当ならもう定時。けれど、もう少し仕事を片付けて置きたいと、私はまだパソコンに向かっていた。
「瑤子さん、まだ帰らないんですか?」
「もうちょっとだけね。本田さん、私、来週休むけど何かあれば遠慮なく連絡ちょうだい?」
向かいの席でバッグを持ち立ち上がった本田さんに声を掛けると彼女はニッコリ笑う。
「大丈夫ですって。いざと言うときは社長を使いますから! 気兼ねなく休んでくださいね」
「そうですよ、長森さん。僕もいるんですから安心してください!」
横で帰り支度をしている園田君は威勢よくそんなことを言った。
「二人ともありがとう。心置きなく休ませて貰うわね。どこかに行く予定はないけど、行けたらお土産買ってくるわね」
「やった! リフレッシュしてください。瑤子さんは普段働きすぎです」
「そうね。そうするわ。じゃあ、お疲れ様」
笑顔で手を振る二人を見送ると一息吐きだす。
(働きすぎ、か……)
自覚はもちろんある。定時に帰ると言う自分にかけた枷はなかなか外せなくて、時間中に食べることも忘れて熱中していることはままある。
だからと言ってプライベートに何があるわけでもない。独りの時間をただなんとなく過ごすようになってもう五年。そんな生活にもすっかり慣れた。
なのに……。心の中にぽっかりと空いた隙間を、時々無性に埋めたくなる瞬間はあるのだ。
『メールはばっちり見れるようになったから、返事が遅れるようだったらまた言ってね』
そういうところはさすがだ。伊達に二十年近く社長業をやっていない。
気が弱そうに見えて本当は締めるところは締めるし、理不尽なクレームにも毅然とした態度を取れる人だ。かといってワンマンではなく、社員の意見もちゃんと聞いてくれる。
スケ管には残業はほぼないし、休みも結構取りやすい。転職するときに一番重要視したのが残業の有無だったけれど、本当に全くなくて最初は少なからず驚いた。
明日は金曜日で祝日。その日から十一日間もある長期休暇に入る、という日の前日夕方六時。本当ならもう定時。けれど、もう少し仕事を片付けて置きたいと、私はまだパソコンに向かっていた。
「瑤子さん、まだ帰らないんですか?」
「もうちょっとだけね。本田さん、私、来週休むけど何かあれば遠慮なく連絡ちょうだい?」
向かいの席でバッグを持ち立ち上がった本田さんに声を掛けると彼女はニッコリ笑う。
「大丈夫ですって。いざと言うときは社長を使いますから! 気兼ねなく休んでくださいね」
「そうですよ、長森さん。僕もいるんですから安心してください!」
横で帰り支度をしている園田君は威勢よくそんなことを言った。
「二人ともありがとう。心置きなく休ませて貰うわね。どこかに行く予定はないけど、行けたらお土産買ってくるわね」
「やった! リフレッシュしてください。瑤子さんは普段働きすぎです」
「そうね。そうするわ。じゃあ、お疲れ様」
笑顔で手を振る二人を見送ると一息吐きだす。
(働きすぎ、か……)
自覚はもちろんある。定時に帰ると言う自分にかけた枷はなかなか外せなくて、時間中に食べることも忘れて熱中していることはままある。
だからと言ってプライベートに何があるわけでもない。独りの時間をただなんとなく過ごすようになってもう五年。そんな生活にもすっかり慣れた。
なのに……。心の中にぽっかりと空いた隙間を、時々無性に埋めたくなる瞬間はあるのだ。
2
あなたにおすすめの小説
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる