俺様カメラマンは私を捉えて離さない

玖羽 望月

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 この店で会う確率は、0%ではなかった。ここは、社長が教えてくれた店。『昔から通っててね。思い出の店なんだ』と、一番初めに連れて来てもらったとき聞いていたのだから。
 けれど、まさかと言う気持ちのほうが強かった。

(同じ日の同じ時間に同じ店にいる確率なんて、いったいどれくらい?)

 そんなことを思い、私は溜め息を吐いていた。それに……。

(何でこんなことに……)

 店の前で別れるつもりが、今は手首を掴まれたまま大通りを歩いている。とてもカップルには見えないだろうけど、道行く人は気にもしていないようだ。気にしているのは、目の前を歩くこの人のことだけ。すれ違う人のほとんどがこの人を見ている。男性女性問わず、下手をすれば自分が腕を組んでいる人そっちのけで。
 なのに、そんな不躾な視線など感じないように、堂々と道を歩いている。だから余計目を引くのだろう。そして、その強烈な光に映し出されたわたしのことは、誰も気にしていない。

(それで……いい、けど)

 大人しく従い連れて来られたのは、バーからそう遠くない老舗高級ホテルだった。まさか、今からいきなり部屋を取る、なんてことはないはずだ。そういえば予定より早く帰国して、荷物が届くのはまだ先だと言っていた。だとすれば、ずっとここに泊まっているのか、と考えついた。

 当たり前のようにエレベーターに乗り、迷うことなく長い廊下の途中で長門さんは立ち止まるとカードキーを挿した。

(どうしよう……)

 今更怖気付く。
 誰でもいい、この体だけを満たして欲しい。そう思っていたけれど、に、見知った人は含んでいない。
 けれど、拍子抜けするようなことをこの人は言い出した。

『何がなんでもやろうなんて思っちゃいねえよ』

 本当だろうか? でも、この人は私なんかを相手にしなくても、周りにはもっといい人がたくさんいるはずだ。

 足を踏み入れた部屋は意外にも、ごく普通のダブルサイズのベッドが一つあるだけだった。外の灯りが反射する窓際のソファに座ると考えた。

 もし、私が抱いて欲しいと言ったら、この人はどうするのだろうかと。

 ぼんやりとテーブルに乗るグラスを眺めていると、「飲まねぇの?」と声が聞こえた。長門さんは、すでにちびちびと琥珀色の液体の入るグラスを傾けていた。

「いただき……ます」

 お酒は嫌いじゃないし、たぶん弱くもない。可愛らしいカクテルなんて物足りなくて、いつも飲むのは度数キツめのもの。それを見透かされているような気がして戸惑いながらグラスに口をつけた。

「美味しい……」

 まろやかで香りが高くフルーティーなウィスキーの味に思わず声を漏らした。

「へえ……。やっぱ、結構飲める口、なんだな」
「どうして……そう思うんですか?」

 自分に納得するように言う長門さんのほうを見ることもなくグラスを傾けた。

「いや? さっき溢されたのがウィスキーだったみてぇだし」

 その通りだった。さっき、よろけたふりをして倒されたグラスは二杯目の、持ってきてもらったばかりのウィスキーだった。手っ取り早く酔えればそれでいいと、なんのこだわりもなくオーダーしただけのものだったけれど。

「さすが、ですね」

 褒め言葉のようで、淡々と言う声色に賛辞されていないのは伝わるはずだ。つまらない女だと、放り出してくれればいいのに、と淡い期待をしてしまう。

「なぁ」

 テーブルに視線を落としていた私の耳に短く呼びかける声が届くと、コトリと音を立てて置かれたグラスが目に映った。

「こっち。向けよ?」

 ソファが体重移動によって少し軋んだかと思うと、もうその顔は私の耳元に近づいていた。手に持っていたグラスは攫われ、同じようにテーブルに並べられると、その手は私の頰を撫でた。強い力ではない。けれど、抗えない。私は促されるようにそちらを向いた。

(琥珀……みたい……)

 私をじっと覗き込む瞳はオレンジがかった深い琥珀の色をしていた。その瞳が揺らめくのを見ながらそんなことを思った。

「お前……。したいんだろ?」

 近づいた顔は、私のすぐそばで止まる。その息遣いが唇に伝わるくらいの距離に。

「何……を……?」
「ん? ……セックス」

 フフッと笑うその唇が、ほんの少しだけ自分の唇に触れる。それだけで体の奥からじわじわ感覚が呼び覚まされた。
 そして私は悟った。もうこの人の手の内にあるのだと

「……したい。……です」

 その答えが合図のように、唇は塞がれていた。
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