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2 side T

4.

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「悪い。知り合い見つけたから今日はこれで」

俺はそう言って立ち上がる。

「えっ?長門さん?」

男は慌てているが、「じゃあ」と後ろも振り返らずそう声だけかけてその場を去った。

あの女がどうでるか、何となく見たくなった。顔を見て好みじゃなけりゃ素通りすればいいと俺は死角から近づいた。

「──いつ来るか分からないし、あの人……怖い男だから」

女が男にそう言っているのが俺の耳まで届く。

……は?

一瞬自分の耳を疑った。喋りかたこそ違うが、この声はほんの数時間前俺を拒絶して去って行った女の声。

声を掛けていた男がスゴスゴ帰って行くのをチラ見すると、後ろから女を眺める。

女は残っていたウィスキーを一気に煽ると、はぁっ……と溜め息をつき、グラスをバーテンダーに見せるように持ち上げた。

チャンスとばかりに俺は後ろからそのグラスを拐うと口を開いた。

「一人?」

まあ、待ち人なんて最初からいないのは分かっていた。
オーダーを聞こうと近づいたバーテンダーに「同じものちょうだい。俺にも」と声をかけ横に座る。

絶対俺だって気付いてるな、こいつ。俯いたまま顔を上げようとしない。
まあ、逃れようなんて無理だけどな。

俺は髪に触れて耳にかけ、顔をこちらに向かすように顎を持ち上げた。
いつもとは全く違う化粧をした顔で、いつものように不機嫌そうにこちらを見ていた。

見るたびに新しい一面を見せる女。
もっとこいつの事を知りたい。純粋にそう思った。

その後も瑤子は予想もしない顔を俺に見せた。

珍しく俺は、こいつなら朝までいてもいいかぁ……なんて思っていたが、目が覚めると消えていた。

朝の6時前にはもういないってどう言うことだよ。
しかも、ご丁寧に俺の服がシワにならないよう気を使ったのか椅子にかけてあり、置きっぱなしだったはずのグラスも片付けられていた。

そんな気配にも全く気づかず眠りこけてたって事か。バカじゃねーの?俺。

何だか無性に負けた気分になった。



その後も、瑤子からは何事も無かったように仕事のメールが入った。
相変わらずの可愛げのないお堅い文面。それでも、分かりやすく、回答しやすいように作られた内容になっていて、無駄に考えなくていいのは助かる。

また、すっごい顔してこれを打ってんだろうなと思うとつい口元が緩んだ。
この頃は忙しくて事務所へ寄る事も出来ない。
次瑤子に会った時、一体どんな顔をするだろうかと、何となく楽しみにしている自分がいる。

ま、そんな時は自分から行くより相手を呼び寄せた方が早いわな。

俺はスマホを開くと淳一に電話をかけた。

「俺だ。頼みあるんだけど、聞いてくれるよな?」
『何?滅茶苦茶怖いんだけど……』
「簡単な事だ」

そう笑いながら俺は言うと、用件を伝えた。

『えー……』
「専属の件考え直してもいいって言えばいい」
『何それ?長森さん専属にするの?』
「だから考え直してもって言ってるだろ。じゃあな。頼んだぞ」

俺は淳一の返事も聞かず電話を切った。

さあ、どうするかね。あいつは。
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