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「イメージ通りだな。これだったら髪上げてる方がいいかもな」
と言いながら、司は後ろから私の髪を一つに纏めている。オフショルダーになっていて、髪に隠れていた肩が露わになった。鏡越しに盗み見すると、仕事モードになりかけている視線で私を眺めていた。
「もういいでしょ。気は済んだ?」
恥ずかしくて、視線を下に向けてそう言うと、髪を持ち上げたままの司が、唇で私の背中に触れる。
「あっ!ちょっと!」
触れられところから電流が走り、思わず払い除けるように振り返る。
「脱がすまで気は済まねーな」
なんて意地悪く含み笑いをしながらこっちを見ている。
「自分で脱ぐから出て行って!!」
私は扉を勢いよく開けると、司を押し出した。
にしても……やっぱりプロは違うんだなぁ……なんて、ちょっと感心する。
今まで敬遠しがちだったものから、私に似合うものをちゃんと見つけ出すんだから。
元の服に着替えて外に出ると、司がそこに立っていた。
店員さんからお客さんまで、遠巻きにチラチラ見てるのが分かる。
まあ、黙ってるといい男だしなぁ……と思いながらその顔を見た。
「それ、買うだろ?」
「……そうね。せっかくだし、ちょっとは冒険してみないと」
と言う私に司は手を差し出す。
「何?」
「俺が払うから寄越せ」
なんでこうも上から来るかなぁ。
「自分のものは自分で払います!」
「はあ?俺が買ってやるっつってんだ。早く寄越せよ」
「結構です!!」
レジのすぐ近くでしょうもない押し問答を繰り広げる私達に、周りの視線が痛い。でも、買ってもらうなんてされたくない。だって私は恋人でもない、ただのセフレで可愛げのない女なんだから。
私は司の腕を引き、耳元に唇を寄せて小声で耳打ちする。
「私に払わせないと、脱がさせてあげないわよ」
司から離れると、眉間にシワを寄せて、もの凄く不満気な顔でこちらを見ている。
「本当に可愛げねーのな!」
と、ソッポを向いた顔を見ながら、私は勝ち誇った気分でレジに向かった。
不貞腐れ気味の司と店を後にすると、まるでそれが当たり前のように司は私から紙袋を拐い、また手が重ねられる。
だんだんと居心地の悪さも感じなくなってきて、逆に少しずつ優越感が湧いてくる。
だって、すれ違う女子達が添え物の私など目もくれず、みんな司を見てる。
こんな経験もう2度と出来ないかも知れないし。
「どうかしたか?」
不意に上機嫌になった私に司が尋ねる。
「なんでもない」
笑いながら見上げると、司が目を細めて笑いかけてくれた。
この人は、こんな顔を皆に見せるのか、そうじゃないのか……今は考えないでおく。
ただ、今だけを楽しめばいい。そんな関係を望んだはずで、多分同じことを司も思っているはずだから。
「他にも寄りたいお店あるんだけど、付き合ってくれる?」
「……仰せのままに」
戯けたように笑顔で答える司の手にもう少しだけ力を入れて、私は司と並んで歩いた。
寄りたい、とは言ったけど、特に何か買う予定はなくて、いつも一人でするようなウィンドウショッピングを楽しんだ。
着るものは可愛い系を敬遠し続けたけど、実は持ち物は可愛い物が大好きな私は、お気に入りの雑貨屋さんで延々と可愛い物を物色した。
いいなって思ったポーチの柄を猫にするかウサギにするか散々悩んでみたり、家で使う入浴剤の香りを全部嗅いでどれにするか悩んだり……。
今更取り繕う理由もないから、本当に素のままの自分を曝け出した。どこかで根を上げて「帰る」って言い出すんだろうな、って思いながら。でも、意外にも司はそんな暇つぶしのような行為に付き合ってくれた。
ポーチの柄には、「俺はこれがいい」ってあえて犬を指してみたり、入浴剤の時は「今度はこれ入れて一緒に入る?」って耳打ちされてみたりと、司は司なりに私を揶揄って楽しんでいる。
店を出るたび増える袋を当たり前のように持ってくれて、見上げるといつも私の方を見ていて、こんな事されると勘違いしそうになる。
ねぇ。あなたは今、何を思ってるの?
って、聞きたいけど、聞く事は出来ない言葉を、私は飲み込んだ。
と言いながら、司は後ろから私の髪を一つに纏めている。オフショルダーになっていて、髪に隠れていた肩が露わになった。鏡越しに盗み見すると、仕事モードになりかけている視線で私を眺めていた。
「もういいでしょ。気は済んだ?」
恥ずかしくて、視線を下に向けてそう言うと、髪を持ち上げたままの司が、唇で私の背中に触れる。
「あっ!ちょっと!」
触れられところから電流が走り、思わず払い除けるように振り返る。
「脱がすまで気は済まねーな」
なんて意地悪く含み笑いをしながらこっちを見ている。
「自分で脱ぐから出て行って!!」
私は扉を勢いよく開けると、司を押し出した。
にしても……やっぱりプロは違うんだなぁ……なんて、ちょっと感心する。
今まで敬遠しがちだったものから、私に似合うものをちゃんと見つけ出すんだから。
元の服に着替えて外に出ると、司がそこに立っていた。
店員さんからお客さんまで、遠巻きにチラチラ見てるのが分かる。
まあ、黙ってるといい男だしなぁ……と思いながらその顔を見た。
「それ、買うだろ?」
「……そうね。せっかくだし、ちょっとは冒険してみないと」
と言う私に司は手を差し出す。
「何?」
「俺が払うから寄越せ」
なんでこうも上から来るかなぁ。
「自分のものは自分で払います!」
「はあ?俺が買ってやるっつってんだ。早く寄越せよ」
「結構です!!」
レジのすぐ近くでしょうもない押し問答を繰り広げる私達に、周りの視線が痛い。でも、買ってもらうなんてされたくない。だって私は恋人でもない、ただのセフレで可愛げのない女なんだから。
私は司の腕を引き、耳元に唇を寄せて小声で耳打ちする。
「私に払わせないと、脱がさせてあげないわよ」
司から離れると、眉間にシワを寄せて、もの凄く不満気な顔でこちらを見ている。
「本当に可愛げねーのな!」
と、ソッポを向いた顔を見ながら、私は勝ち誇った気分でレジに向かった。
不貞腐れ気味の司と店を後にすると、まるでそれが当たり前のように司は私から紙袋を拐い、また手が重ねられる。
だんだんと居心地の悪さも感じなくなってきて、逆に少しずつ優越感が湧いてくる。
だって、すれ違う女子達が添え物の私など目もくれず、みんな司を見てる。
こんな経験もう2度と出来ないかも知れないし。
「どうかしたか?」
不意に上機嫌になった私に司が尋ねる。
「なんでもない」
笑いながら見上げると、司が目を細めて笑いかけてくれた。
この人は、こんな顔を皆に見せるのか、そうじゃないのか……今は考えないでおく。
ただ、今だけを楽しめばいい。そんな関係を望んだはずで、多分同じことを司も思っているはずだから。
「他にも寄りたいお店あるんだけど、付き合ってくれる?」
「……仰せのままに」
戯けたように笑顔で答える司の手にもう少しだけ力を入れて、私は司と並んで歩いた。
寄りたい、とは言ったけど、特に何か買う予定はなくて、いつも一人でするようなウィンドウショッピングを楽しんだ。
着るものは可愛い系を敬遠し続けたけど、実は持ち物は可愛い物が大好きな私は、お気に入りの雑貨屋さんで延々と可愛い物を物色した。
いいなって思ったポーチの柄を猫にするかウサギにするか散々悩んでみたり、家で使う入浴剤の香りを全部嗅いでどれにするか悩んだり……。
今更取り繕う理由もないから、本当に素のままの自分を曝け出した。どこかで根を上げて「帰る」って言い出すんだろうな、って思いながら。でも、意外にも司はそんな暇つぶしのような行為に付き合ってくれた。
ポーチの柄には、「俺はこれがいい」ってあえて犬を指してみたり、入浴剤の時は「今度はこれ入れて一緒に入る?」って耳打ちされてみたりと、司は司なりに私を揶揄って楽しんでいる。
店を出るたび増える袋を当たり前のように持ってくれて、見上げるといつも私の方を見ていて、こんな事されると勘違いしそうになる。
ねぇ。あなたは今、何を思ってるの?
って、聞きたいけど、聞く事は出来ない言葉を、私は飲み込んだ。
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