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12 side T
2.
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空港の駐車場に着くと車から降り、トランクからスーツケースを取り出すと、車の横に立つ瑤子の元へ向かう。
そして、当たり前のようにその手を引こうとすると、瑤子は俺の手を思い切り払い退け小声で耳打ちする。
「何してんのよ!大江さんいるのに!」
「別に気にしなくてもよくね?」
「気にするに決まってるでしょ!!」
面倒くせぇ……と思いながら、俺はクルッと反対を向き、希海に向かい合う。
「もー帰っていいぞー。希海」
ぶっきらぼうに言う俺に、隣で慌てたように瑤子が声を上げる。
「そんな言い方ないでしょ!すみません大江さん」
なんでお前が謝るんだと思っていると、希海の方も
「こちらこそ、すみません。司をよろしくお願いします」
と深々とお辞儀をする。
まあ、こっちの謝罪はあながち間違いじゃない。
「では失礼します」
いつも通りの淡々とした口調で希海は瑤子にそう告げると、車に乗り込みあっと言う間に走って行った。
「ほら、行くぞ」
半ば呆然とそれを見送った瑤子に俺は声を掛ける。
「あ、うん……」
次は手を振り解く事なく、俺に手を引かれ瑤子は後をついてくる。
「にしても希海のやつ、帰っていいって言われた途端嬉しそうな顔しやがって」
「えっ!そんな風には見えなかったけど?」
駐車場を抜けて、ターミナルに向かいながら俺が思い出したように言うと、瑤子は隣で心底驚いたような顔を見せた。
まあ、身内だから分かるが、あの無表情からそれを拾うのは難しいか。
「ま、どうせ響の迎えに行きたかったんだろ~。それより飯、食うだろ?俺も軽くなんか食いたい」
「そうね……任せる」
俺は荷物を預けて身軽になると、また瑤子の手を引いて歩き出す。
瑤子は物珍しそうに辺りを見渡しながら歩いている。
そう顔を眺めながら、
このまま一緒に連れて行きてーな……
なんて、俺が考えてるなんて、カケラも思ってないんだろうな、と思った。
「わ~……」
軽めの食事を終えて、そのまま展望デッキまでやって来た。
俺にとっては見慣れた空港の景色も、瑤子にとってはそうじゃないようで、心なしか嬉々としながらデッキの端に寄っていく。
そこに轟音を立てて飛行機が飛びたって行き、それを瑤子は追うように見上げた。
もう少しすれば、俺もあっち側か……
俺は、多分瑤子とは全く違う気持ちで同じように見上げた。
正直、数ヶ月前の自分を呪いたい
日本に帰ると決めたのはいいが、ずっと向こうでのスケジュールも詰まっていて、本格的な引っ越しはまた時間を置いてすればいいか、と借りていた部屋も引き払う事なく戻って来た。
今回はそれだけの為に帰るつもりが、なんだかんだで色々な奴から仕事をねじ込まれ、まあまあ忙しい。それに加えて各方面に挨拶もしなければならない。
だからこの一月の間、とてもじゃないが隙間に日本に戻るなんて事は出来そうもない。
俺だって、まさか自分に片時も離れたくない女が現れるなんて、思ってもいなかった。ずっと誰か顔も思い出せないような女と適当に遊んでやり過ごしていくんだと思っていた。それなのに、俺はコイツに出会ってしまった。
隣で滑走路の飛行機を目で追っている瑤子の顔を見下ろす。
それに気づいて瑤子は「何?」と俺を見上げた。
「俺のこと、忘れるなよ?」
「……さすがに1ヶ月じゃ忘れないわよ?」
と可笑そうに笑う。
「俺の体を、だぞ?」
そう言って耳を擽るように囁いて、そこに触れる。
「んっっ」
少し反応して漏らす声に、追い討ちをかけるように息を吐き出しながら「分かった?」とその耳に触れて言った。
「ぁ……っ。……忘れられるわけ、ない……」
小さくそう答えた瑤子に、俺の方が煽られる。
そのまま滑走路の方を向く瑤子の顎を持ち上げて、そのまま唇を塞ぐ。
瑤子なら、『こんなところで!』と怒りそうだが、幸いな事に今はすぐ近くに人はいない。
いたとしても俺は止められねーけど。
そう思いながら、一月触れることのできない瑤子の唇を味わった。
そして、当たり前のようにその手を引こうとすると、瑤子は俺の手を思い切り払い退け小声で耳打ちする。
「何してんのよ!大江さんいるのに!」
「別に気にしなくてもよくね?」
「気にするに決まってるでしょ!!」
面倒くせぇ……と思いながら、俺はクルッと反対を向き、希海に向かい合う。
「もー帰っていいぞー。希海」
ぶっきらぼうに言う俺に、隣で慌てたように瑤子が声を上げる。
「そんな言い方ないでしょ!すみません大江さん」
なんでお前が謝るんだと思っていると、希海の方も
「こちらこそ、すみません。司をよろしくお願いします」
と深々とお辞儀をする。
まあ、こっちの謝罪はあながち間違いじゃない。
「では失礼します」
いつも通りの淡々とした口調で希海は瑤子にそう告げると、車に乗り込みあっと言う間に走って行った。
「ほら、行くぞ」
半ば呆然とそれを見送った瑤子に俺は声を掛ける。
「あ、うん……」
次は手を振り解く事なく、俺に手を引かれ瑤子は後をついてくる。
「にしても希海のやつ、帰っていいって言われた途端嬉しそうな顔しやがって」
「えっ!そんな風には見えなかったけど?」
駐車場を抜けて、ターミナルに向かいながら俺が思い出したように言うと、瑤子は隣で心底驚いたような顔を見せた。
まあ、身内だから分かるが、あの無表情からそれを拾うのは難しいか。
「ま、どうせ響の迎えに行きたかったんだろ~。それより飯、食うだろ?俺も軽くなんか食いたい」
「そうね……任せる」
俺は荷物を預けて身軽になると、また瑤子の手を引いて歩き出す。
瑤子は物珍しそうに辺りを見渡しながら歩いている。
そう顔を眺めながら、
このまま一緒に連れて行きてーな……
なんて、俺が考えてるなんて、カケラも思ってないんだろうな、と思った。
「わ~……」
軽めの食事を終えて、そのまま展望デッキまでやって来た。
俺にとっては見慣れた空港の景色も、瑤子にとってはそうじゃないようで、心なしか嬉々としながらデッキの端に寄っていく。
そこに轟音を立てて飛行機が飛びたって行き、それを瑤子は追うように見上げた。
もう少しすれば、俺もあっち側か……
俺は、多分瑤子とは全く違う気持ちで同じように見上げた。
正直、数ヶ月前の自分を呪いたい
日本に帰ると決めたのはいいが、ずっと向こうでのスケジュールも詰まっていて、本格的な引っ越しはまた時間を置いてすればいいか、と借りていた部屋も引き払う事なく戻って来た。
今回はそれだけの為に帰るつもりが、なんだかんだで色々な奴から仕事をねじ込まれ、まあまあ忙しい。それに加えて各方面に挨拶もしなければならない。
だからこの一月の間、とてもじゃないが隙間に日本に戻るなんて事は出来そうもない。
俺だって、まさか自分に片時も離れたくない女が現れるなんて、思ってもいなかった。ずっと誰か顔も思い出せないような女と適当に遊んでやり過ごしていくんだと思っていた。それなのに、俺はコイツに出会ってしまった。
隣で滑走路の飛行機を目で追っている瑤子の顔を見下ろす。
それに気づいて瑤子は「何?」と俺を見上げた。
「俺のこと、忘れるなよ?」
「……さすがに1ヶ月じゃ忘れないわよ?」
と可笑そうに笑う。
「俺の体を、だぞ?」
そう言って耳を擽るように囁いて、そこに触れる。
「んっっ」
少し反応して漏らす声に、追い討ちをかけるように息を吐き出しながら「分かった?」とその耳に触れて言った。
「ぁ……っ。……忘れられるわけ、ない……」
小さくそう答えた瑤子に、俺の方が煽られる。
そのまま滑走路の方を向く瑤子の顎を持ち上げて、そのまま唇を塞ぐ。
瑤子なら、『こんなところで!』と怒りそうだが、幸いな事に今はすぐ近くに人はいない。
いたとしても俺は止められねーけど。
そう思いながら、一月触れることのできない瑤子の唇を味わった。
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