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嘘でしょ?

そう思いながら突っ立っていると、その人は助手席から降りて私に手を振った。

「やっぱり瑤子ちゃん!お久しぶりね」
「ごっ!ご無沙汰してます、まどかさん」

相変わらずの迫力ある美人ぶりに圧倒されながら私はそう返す。よく見れば、運転手はご主人の尊斗さんだ。

「今日は1人?今からお仕事かしら?」
「あ、さっき終わらせて、今から買い物に行こうかと」
「そう!良かったらお茶でもどうかしら?せっかく会ったんだし」

私の手を取りイキイキと言うまどかさんに、私は「はい」と言うしかなく、促されるままに車の後部座席に乗る。

そこでふと思った。

そっか。司の事なら他でもない、まどかさんに相談すればいいんだ!

行こうと思っていたデパートの前で車から降ろされ、尊斗さんは「また後で迎えに来るね」とその場を後にした。そして私はまどかさんと、デパートの中にあるティールームに来ていた。

「ごめんね。またお茶でもって言っておいて何も連絡出来なくて。少し仕事が立て込んでて」

まどかさんが申し訳なさそうに私に言う。

「いえ、私も忙しかったので、気にしないでください」

慌てて手を振って、打ち消すように私は答えた。

「あの子、ちゃんと仕事してる?あなたに迷惑かけてないか心配だわ」

ほうっと溜息を吐きながら言うまどかさんは、さすが司と姉弟きょうだい。目の保養と言っていい美しさだ。

「大丈夫です。ちゃんと仕事してくれていますよ?……それより……あの、お聞きしたい事があるんですが……」

私が遠慮気味にそう口にすると、まどかさんの方は目を輝かせて私を見た。

「なぁに?私に答えられる事なら何でも聞いて?」
「え……と。今度、司にクリスマスプレゼントを渡そうと思ってるんですが、何がいいのか分からなくて……」

実のお姉さんにこんな事聞くのは少し恥ずかしいが、背に腹は変えられない。

「あら、そうなの。あの子だったら、その辺に落ちてる石ころでも喜びそうだけど?」

意味ありげな笑顔で言われて、思わず私は「へっ?」と変な声を出してしまう。

「あなたからだったらね?」

そう付け加えられて、顔がさぁっと熱を持つ。

「まどかさん⁈真面目に答えて下さいよ!」

揶揄われているのを自覚しながら、私はまどかさんに言う。

「あはは。ごめんごめん!」

楽しげに笑う美しい顔を見て私は思う。

うん。やっぱり姉弟きょうだいだなと。

まどかさんは、優雅にコーヒーカップを持ち上げると口をつける。

「あの子、あんまり物にこだわりってないわよね。使えればそれでいい、みたいなところあるけど、それは変わってない?」

まどかさんにそう尋ねられて、今までを思い返してみる。
確かに、絶対にこれじゃないと、みたいなものはたぶん無い。育ちからか、それなりに質のいいものを長く使うタイプなのかも知れない。かと言って、それに執着している訳でもなさそうだ。

「確かに……。こだわりは無さそうです。だから余計に悩んじゃって」
「そうねー……。そう言えば……」

宙を見て何かを思い出したようにそう言うと、まどかさんは私を見る。

「あの子小さい頃、お気に入りのタオルが手放せない子でね。ずっとそれを握りしめてたわぁ……。あれよね。なんとかの毛布みたい」

そう言ってクスクスとまどかさんは笑っている。そんな司は、私には想像すら出来ない。

「ちなみに、それって一体何才くらいだったんですか?」

私が恐る恐る尋ねると、笑顔のまま「たぶん3才くらいね!」と返って来た。

まさか、もう40になる男の人に渡すプレゼントを、タオルにするって訳にはいかないよぉ……

私は余計に頭を悩ませてしまう。

「もしかしたら、手触りの良い物が好きだったのかもね」

不意にまどかさんはそう言った。
そう言われてみれば……それは何となく心当たりがあるかも知れない。家にあるリネン類も肌触りがいい上質なものばかりだ。着ている服にしてもそう。

「何かヒントになったかしら?」

私がしばらく考えていたのをしばらく眺めて、まどかさんはそう口を開いた。

「はい。ありがとうございます」

凄くベタな物になってしまうけど、司が今持っていないもので、手触りのいい物。なんとなくいくつか思い浮かんだ。寒い時期しか使えないけど、それでもいいか、と一人納得する。
それなら今日のうちに買っておける。なにしろ、ニューヨークに出発するまであと2週間程だ。
ようやく考えが纏まり、私が顔を上げると、まどかさんはニコニコとしながら口を開いた。

「良かった。……ところで、あなた達、一体いつ結婚するの?」
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