駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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2.吹き荒れるは、春疾風

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「――ただいまぁ」

 帰宅したのは午後十一時。結構な時間だ。両親はもう寝ているのか、廊下もその先のリビングも静まり返っていて、私はそのまま自分の部屋へ直行した。

 六時にみんなで一斉に上がり、羽瑠ちゃん以外の四人で飲みに行った。
 グルメで、いち早く美味しい店を探してくれる紗里ちゃんは、こぢんまりとした多国籍料理の店を予約してくれていた。そこから散々飲んで、食べて、騒いで。楽しくて、ほんの束の間モヤモヤした気持ちを忘れることができた。
 けれど一人になるとまた思い出してしまう。午前中までの悩みなど消え去り、今は別のことが頭から離れない。
 どうしてこんなに気になってしまうのか、自分でもわからない。結婚する気などない相手のことを。
 そもそも相手が誰であろうと、結婚なんて考えたことはなかった。一人暮らしもしたことがなく、今は専業主婦の母に身の回りのことをしてもらっている状態だ。結婚すれば自分だけなく、相手のこともしなくてはいけないだろう。それができるとは、到底思えない。それに結婚すれば、今まで築き上げたキャリアを失ってしまうんじゃないかと怖くなる。
 こんなことを考えていても、堂々巡りなだけだ。先にお風呂に入ってしまおうと用意をしだす。忘れないうちに明日のアラームをセットし直そうと、バッグからスマホを取り出しそれに気づいた。

(依澄……さん……)

 スマホの画面に、メッセージが届いたとの通知が表示されている。いったい何と書いてあるのだろう。深呼吸を一つすると、意を決してそれを開けた。

"多忙で連絡できずすまない。次の日曜日に会いたい。予定を空けておいてくれないか?"

 相変わらず文面は素っ気なく、まるで業務連絡だ。けれどその内容に戸惑っていた。

(次の……日曜日……)

 誘いがあるとしても、土曜日なのだと思っていた。まさかこの日が何の日なのか、祖父から聞いたのだろうか。そんなはずはない。きっと、偶然だ。
 四月七日。その日は私の二十代最後の誕生日。今年はちょうど日曜日だ。かと言って、特別用事を入れているわけでもなく、美味しいケーキでも買ってきて、両親と食べようか、くらいしか考えていなかった。まさか依澄さんに誘われるなんて、思いもしなかった。
 断るのは簡単だ。でも気持ちが揺れ動く。祝って欲しいなんて言わない。誕生日だということは黙っているつもりだ。けれど一年に一度だけ訪れる特別な日を、彼と過ごしてみたい。
 そんな気持ちが湧き上がっていた。
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