駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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3. 夏の兆しとめぐる想い

2.

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 依澄さんは助手席を開けて、エスコートしてくれる。紅潮しているだろう顔を見せることはできず、顔を背けてシートに乗り込んだ。
 そのあと依澄さんは、なぜか私のいる助手席側に頭を突っ込む。私の前に体を横切らせると、持っていたペットボトルを真ん中にあるドリンクホルダーに入れていた。
 彼の色っぽい首筋が前にあり、目のやり場に困る。爽やかなコロンの香りがほのかに鼻に届き、その首筋に縋りついたときと同じ香りだ、なんて思い出して心臓の音が早まる。
 彼を見ないように視線を泳がせていると、不意に視界が遮られた。顔を上げたその瞬間、唇には温かな感触が伝わっていた。

「今はこれで我慢する」

 唇はすぐに離れ、目の前には笑みを浮かべた彼の顔が現れる。ほんの少し触れただけなのに、惚けたように目を開いていた。彼はそんな私を見て、息を漏らし笑ったあと、助手席から出てドアを閉めた。
 しばらくして運転席のドアが開くと、彼は流れるようにそこに乗り込む。まるで、何もありませんでした、みたいな澄ました表情の彼に悔しくなってくる。
 きっと自分ばかりがドキドキして、舞い上がって、翻弄されて、全く冷静になんてなれないのに。彼はそんな私を手玉に取って、楽しんでいるのかも知れない。
 車のエンジンが掛かると、小さく漏らした溜め息は、そのスポーツカーらしい爆音にかき消された。

 走り出した車の中で、依澄さんは行き先を教えてくれる。

「この前、言ってただろ? 日本に帰って来て、刺身が食べられるようになったって」

 この前とは、依澄さんの家でご馳走になったときのことだ。そのとき話題に上がったのが、そんな話だった。
 アメリカには生で魚を食べる文化がなく、その上住んでいた場所が海から離れていたため、私は日本に帰るまでほとんど刺身を食べたことがなかった。しばらくは食べず嫌いのままだったが、両親と海沿いの観光地で食べた海鮮丼がとにかく美味しくて、それから刺身を食べられるようになったのだ。

「俺も食べてみたくなって。美味い海鮮丼ってやつ。予約しておいたし、着いたらちょうど良い時間になるはずだ」

 そういうところはさすがと言うべきなのか、そつがない。ある程度賑わう観光地なら、予約しておくのがベストだ。なにしろ両親と行ったときも一時間以上並んだのだから。

「ありがとうございます。楽しみです」
「俺も。食べたあとは、海も見に行こうな」

 依澄さんは子どもみたいに無邪気に笑う。それにつられて、自然に笑顔になると「はい」と頷いた。
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