駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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4.五月闇に、忍び寄る

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 ワンコールで応答があり、先に向こうから声が聞こえた。

『恵舞、総務課長に呼ばれたんですって?』

 羽瑠ちゃんは席に戻っていて、紗里ちゃんから話は伝わったようだ。それなら早いと話し始めた。

「それが明日から、急なアテンドが入ったの。相手は、ウィリアム・ハワード。羽瑠ちゃん、知ってる?」

 これだけは確認しておきたかった。彼女は、依澄さんの異母弟の名前くらい知っているはずだ。彼はハワードの一族は多いと言っていたけれど、万が一がある。

『ううん? 知らない名前。……兄には、聞いた?』

 周りに対する配慮からか、羽瑠ちゃんは誰か特定できないよう兄と言いながら話す。
 とはいえ、私たちが付き合っていることは他の誰にも言っていない。それに、噂になるほどの接点もない。きっと大丈夫なはずだ。

「まだ……。ついさっきだったし、今から打ち合わせ入ってて。依……、ルークには、今日の夜聞いてみる。じゃあ、しばらく席外すから」
『わかった。何かあればスケジュール組み直すから、言って』

 一番気掛かりだったことを知れて、とりあえずホッとしながら応接室に戻る。
 二人はソファに腰掛け、タブレットを眺めながら会話をしていた。

「お待たせしました」

 二人の向かいに座ると、Mr.スミスがタブレットをテーブルに置き、こちらへ差し出した。

「ではさっそくですが。今回のスケジュールです」

 無表情で淡々とした声。ビジネスに徹するタイプなのだろう。
 差し出されたタブレットの画面には、視察の行程が表示されている。
 本社のエネルギー関連事業部をはじめ、同じ業種の子会社、関連会社など。かなりの数を視察するようだ。それは問題ないのだが、その会社が全て首都圏にあるとは限らない。案の定、宿泊を要する視察の日程も組まれていた。

「エマ、どう? 対応できそう?」

 難しい顔をして考え込んでいた私に、リアムが心配そうに話しかけた。

「え、ええ。問題ないわ」

 ぎこちない笑顔を浮かべてリアムに答える。
 ここで対応できないなどと言えば、総務部長が飛んでくるだろう。それに、社内通訳がいながら外部に委託するなど、宮藤の信用も失墜しそうだ。それだけはなんとしても避けたい。
 不穏な空気が流れる私とは裏腹に、リアムは陽だまりのような穏やかな笑顔でニコリと笑う。

「楽しみだなあ。エマと旅行だなんて」
「ウィリアム。遊びではない、仕事だ」

 呑気な口調のリアムに、Mr.スミスはピシャリと放つ。

「でも、あいだに休日もあるし。エマに案内して欲しいな」

 屈託なく言われると、断れる気はしなかった。
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