駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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4.五月闇に、忍び寄る

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 会議は一時間ほどで終わり、忘れないうちに報告書を作成する。それが終わると予想通り八時になっていた。

 外へ出ると、雨は上がっているものの、漂う空気にはまだ、その気配が残っている。所々に散らばる水たまりを避けながら、指定された場所に向かった。
 宮藤の本社ビルと、隣接するビルの間にある一方通行。業者用の搬入口に通じるその道は、ビルを一周し、幹線道路に出るように作られているようだ。
 時間が時間だからか人気はなく、見覚えのある真っ赤な車が一台、止まっているだけだった。

「すみません、お待たせして」

  助手席側に立っていた依澄さんに駆け寄る。街灯にほんのり照らされた彼は、さっきまでのスリーピーススーツに、歪みなく締められたネクタイ姿とは違い、上着を脱ぎネクタイは少し緩められていた。
 何度か見ているはずなのに、それが妙に色気を感じる。いつも一人で馬鹿みたいに舞い上がって、ドキドキしてしまう自分がいる。

「そう待ってないよ。乗って」

 会議中に聞いた、周りを一瞬で惹きつけるような圧倒的な声色とは違い、包み込むような優しい声。その声に誘われるように顔を上げると、笑みを浮かべた彼の顔が近づく。
 額に押し付けられた唇を離すと、彼は笑いを堪えるように肩を揺らしながら車のドアを開けた。

「ちょっと、依澄さん!」

 いい年して、このくらいのことで翻弄される自分が情け無い。完全に手の上で転がされている気がする。

「全然足りない。早く二人きりになって、恵舞をもっと補充したいんだが」

 ウッとうめき声を漏らしながら、そのまま助手席に乗り込む。
 甘すぎて、顔から火が出そうだ。思えば最初からそうだったが、このところ激甘モードに拍車がかかっているみたいだ。

 涼しい顔で運転席に乗り込んだ依澄さんは、何もなかったように車を発進させた。

「食事はどうする?」

 すぐに尋ねられ、少し考える。お腹は空いているが、この時間から外食も躊躇われる。

「う~ん……。あ、そうだ。依澄さんの家の近所に、美味しいお惣菜屋さんがあるんです。まだやってると思うんで、買って帰りません?」
「ん。OK. じゃあそうしようか」

 今日の本題は後回しにしよう。この雰囲気の中で話すには勇気がいる。
 気を紛らわせるように別の話を振り、二人で笑いながら夜の街を走った。

「――で、話って……?」

 遅い夕食の途中、依澄さんは恐る恐る尋ねる。きっと気になっていたのだろう。
 私は深呼吸を一つすると、話を切り出した。

「ウィリアム・ハワード。彼を……ご存知ですか?」
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