駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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番外編 〜巡る季節〜

夏.8

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 グラスを置くと途端に紗里ちゃんが勢いよく手を挙げた。

「はーい! 私、馴れ初め聞きたいです!」
「それは、僕も聞きたい……です」

 珍しく深瀬くんまで、おずおずと小さく手を挙げる。

「って、羽瑠の紹介じゃないのか?」
「それが違うのよねぇ。私もビックリしちゃったんだけど」

 ジョッキを持ったまま不思議そうな顔をする黒岩さんに、羽瑠ちゃんはワイングラスを傾けつつ、意味深に笑いながら答えた。

「え、そうなのか?」
「う、ん……。話すと長いんだけど……」

 改めて話すとなると、気恥ずかしくなる。助けを求めるように依澄さんに向くと、ニコリと微笑みが返ってくる。

「俺から話そうか?」
「じゃあ、お願い……」

 依澄さんがどんなことを話すのか、自分のことながらドキドキしつつ耳を傾ける。みんなも興味津々で依澄さんを見つめていた。
 結果、自分で話したほうが恥ずかしくなかったのではないかと思うほど、甘々なドラマが彼の艶のある声で聞かされ、顔が熱くてたまらない。事実ではあるが、自分のことじゃないみたいだ。それに依澄さんから見た私は、いったいどんなふうに見えているのか。

「うわぁ……。素敵……。映画化決定ですよ!」

 うっとりした紗里ちゃんにそんなことを言われて、身を縮ませる。

「かなり……盛られてるような気がするんだけど」

 小さくなったまま答えると、隣から「そうか?」と平然とした声が聞こえた。

「もしかして依澄さん、面白がってる?」 
「そんなことないって。少しだけだ」
「もーっ! 信じられない!」
 
 楽しそうに笑う依澄さんとそんなやりとりをしていると、みんなからの視線が突き刺さる。

「もう、熱いなぁ。羨ましいっ!」
「ったく、独身には目の毒だって。なあ、深瀬」
「僕に同意を求めないでくださいよ。羨ましいけど」
「ほんと、自分の兄のこんな姿見せられるなんて、思ってなかったわ」

 絶対に真っ赤になっているだろう顔で、みんなの顔を見渡す。

「と、とりあえず。もう退店時間だし、出よう!」

 誤魔化すように立ち上がると声を上げる。みんなは笑顔を通り越し、ニヤニヤした顔で私を見ていた。

 店の外に出ると、冷めることのない夏の空気が纏わりついてきた。

「ってことで。依澄、深瀬、二次会行くぞ!」

 ふと振り返ると、黒岩さんは上機嫌で依澄さんと深瀬くんの腕を掴んでいる。

「え、恵舞は……」
「いってらっしゃい! 私はこれから、羽瑠ちゃんと紗里ちゃんと、シメのデザート食べに行きますから」

 困惑した表情の依澄さんに、私はニッコリと笑顔で手を振った。
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