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指定された現場近くの駐車場に睦月さんの車を見つけると、私は助手席の窓をノックする。
夜8時過ぎ。
撮影は無事終わり、みかさんに食事でもどうかと誘われたけど、丁重にお断りした。もう2度とないだろうお誘いだったけど、2組のカップルを前にして、私だけもの凄く場違い感もある。それに、せっかく睦月さんが帰りも送ってくれると言ってくれたのに、そっちを断ることは私には出来なかった。
ドアをノックしても何の反応もなくて、私は車の中を覗き込むと、睦月さんはシートを倒して眠っているようだった。
もしかして、この寒い中ずいぶん待たせたんじゃ……
睦月さんが風邪ひかないか心配になりながら、後部座席側のドアに手をかけゆっくり引いてみると開いた。
起きる……かな?
重い荷物を座席に置き、またドアを閉める。それなりに音を立てて閉めたけど、睦月さんは眠ったままだ。
今度こそ起こしちゃうかも……
仕方なく助手席のドアを開けてそこに座るとドアを閉めて、後ろを振り返る。
睦月さんはさっきと変わらず眠ったままで、よっぽど疲れてるのかなぁ?とその顔を眺めた。
家族以外の男の人の寝顔に、とってもドキドキする。見る事すら何か悪い事をしているような気持ちになった。けれどつい、その優しい顔に引き寄せられてしまう。
初めて会った時より少し伸びた髪が、自然な感じに額に垂れ下がっている。サラッとした艶やかな黒髪。触れたら手触りは良さそうだ。それに、意外と睫毛長いんだな……。
なんて、ついしげしげと眺めてしまう。
目の横に薄ら刻まれている笑い皺。いつも笑顔の睦月さんらしい。その皺でさえ愛おしく感じる。
好きな人にはこんなにも触れたくなるんだと言う事を、私は初めて知った。親密になれば、パーソナルスペースは縮まって行く。
けれど、睦月さんとは親密になったと感じる前から、その距離は他の人より近かったかも知れない。
でも、私はきっと初めからそれが嫌じゃなかった。今、その距離を0にしたいと思うくらいに。
「……う……ん……」
睦月さんが顔を顰めながら動き出し、私は慌てて真っ直ぐ座席に座り直す。こんなに見てたのがバレるわけにはいかない。
睦月さんはゆっくりと置き上がると、キョロキョロと辺りを見渡して、私がいる事に驚いていた。
「えっ!さっちゃん?いつの間に?俺、もしかして結構寝てた?わ~。待たせてごめんね」
睦月さんは申し訳なさそうな顔を見せたけど、私は心の中で『ちょっとしたご褒美だったかも』と思いながら、「気にしないでください」と明るく答えた。
◆◆
12月の、と言うより今年最後の、睦月さんと香緒ちゃんとの撮影日。今日はお昼を挟んで1日撮影をする事になっていた。
先週、長門さんの撮影が終わった帰りの車の中で、睦月さんには当たり前のように「来週の撮影日も迎えに行くね」と言われて、朝からうちの前まで迎えに来てくれた。
「おはようございます」
うちのマンションの近くに停まる車の前に立っていた睦月さんに、小走りに駆け寄りながらそう言う。
今日は使うものが最初からわかっているから、いつもより荷物は軽い。私の動きに合わせる様に、カバンの中で道具達がカチャカチャ音を立てていた。
「おはよう!朝早くから付き合わせてごめんね」
そう言いながら私からバッグを攫い、後部座席に入れると助手席のドアを開けた。
嫌味の無い流れるような動きに、つい当たり前にされるままにそれを受け入れて私は助手席に乗ると、睦月さんはドアを閉めて運転席に乗り込んだ。
レディーファーストってこんな感じなのかな?
自然にそういう事をしてくれる睦月さんにそんな事を思う。
「じゃあ行こうか。空いてるといいんだけど」
そう言って睦月さんは車のエンジンをかける。
時間は8時過ぎ。
今日の撮影の現場入りは10時。
こんなに早く家を出たのには理由があった。
先週、睦月さんの家でご馳走になった時に用意してくれていたパン。それがとっても美味しくて、私がそう言うと、『瑤子ちゃんに教えてもらった店のなんだけどさ、併設のカフェがあって行ってみたいけど、おっさん一人じゃ入り辛いし、さっちゃん付き合ってくれない?』と睦月さんは言った。
睦月さん、自分の事を『おっさん』なんて言うけど、見た目は全くそんな事はない。むしろ、お洒落なカフェで一人お茶してたら、女の子の方から声をかけたくなるんじゃないだろうか。
「私で良かったらいつでも……」
睦月さんに誘われて、断る理由なんてない。ちょっとでも私の事を気にかけてくれるなら、例えそれが娘の立ち位置でもいい。
そして今日、モーニングを食べに行こうかと睦月さんに誘われて今に至るのだ。
お店の近くにあったパーキングに車を停めて、店に入る。焼きたてのパンの香りが漂う店内は、平日にも関わらず、仕事前に寄る人も多いのか、それなりに混み合っていた。それでも入れ替わりの時間帯だったのかすんなり案内されて、私達はテーブルについた。
「おー!美味しそう!」
メニューを広げて目を輝かせている睦月さんは、子供のようでちょっと可愛いかも。メニューを見てるふりをしながら睦月さんを盗み見て、私はそんな事を思っていた。
夜8時過ぎ。
撮影は無事終わり、みかさんに食事でもどうかと誘われたけど、丁重にお断りした。もう2度とないだろうお誘いだったけど、2組のカップルを前にして、私だけもの凄く場違い感もある。それに、せっかく睦月さんが帰りも送ってくれると言ってくれたのに、そっちを断ることは私には出来なかった。
ドアをノックしても何の反応もなくて、私は車の中を覗き込むと、睦月さんはシートを倒して眠っているようだった。
もしかして、この寒い中ずいぶん待たせたんじゃ……
睦月さんが風邪ひかないか心配になりながら、後部座席側のドアに手をかけゆっくり引いてみると開いた。
起きる……かな?
重い荷物を座席に置き、またドアを閉める。それなりに音を立てて閉めたけど、睦月さんは眠ったままだ。
今度こそ起こしちゃうかも……
仕方なく助手席のドアを開けてそこに座るとドアを閉めて、後ろを振り返る。
睦月さんはさっきと変わらず眠ったままで、よっぽど疲れてるのかなぁ?とその顔を眺めた。
家族以外の男の人の寝顔に、とってもドキドキする。見る事すら何か悪い事をしているような気持ちになった。けれどつい、その優しい顔に引き寄せられてしまう。
初めて会った時より少し伸びた髪が、自然な感じに額に垂れ下がっている。サラッとした艶やかな黒髪。触れたら手触りは良さそうだ。それに、意外と睫毛長いんだな……。
なんて、ついしげしげと眺めてしまう。
目の横に薄ら刻まれている笑い皺。いつも笑顔の睦月さんらしい。その皺でさえ愛おしく感じる。
好きな人にはこんなにも触れたくなるんだと言う事を、私は初めて知った。親密になれば、パーソナルスペースは縮まって行く。
けれど、睦月さんとは親密になったと感じる前から、その距離は他の人より近かったかも知れない。
でも、私はきっと初めからそれが嫌じゃなかった。今、その距離を0にしたいと思うくらいに。
「……う……ん……」
睦月さんが顔を顰めながら動き出し、私は慌てて真っ直ぐ座席に座り直す。こんなに見てたのがバレるわけにはいかない。
睦月さんはゆっくりと置き上がると、キョロキョロと辺りを見渡して、私がいる事に驚いていた。
「えっ!さっちゃん?いつの間に?俺、もしかして結構寝てた?わ~。待たせてごめんね」
睦月さんは申し訳なさそうな顔を見せたけど、私は心の中で『ちょっとしたご褒美だったかも』と思いながら、「気にしないでください」と明るく答えた。
◆◆
12月の、と言うより今年最後の、睦月さんと香緒ちゃんとの撮影日。今日はお昼を挟んで1日撮影をする事になっていた。
先週、長門さんの撮影が終わった帰りの車の中で、睦月さんには当たり前のように「来週の撮影日も迎えに行くね」と言われて、朝からうちの前まで迎えに来てくれた。
「おはようございます」
うちのマンションの近くに停まる車の前に立っていた睦月さんに、小走りに駆け寄りながらそう言う。
今日は使うものが最初からわかっているから、いつもより荷物は軽い。私の動きに合わせる様に、カバンの中で道具達がカチャカチャ音を立てていた。
「おはよう!朝早くから付き合わせてごめんね」
そう言いながら私からバッグを攫い、後部座席に入れると助手席のドアを開けた。
嫌味の無い流れるような動きに、つい当たり前にされるままにそれを受け入れて私は助手席に乗ると、睦月さんはドアを閉めて運転席に乗り込んだ。
レディーファーストってこんな感じなのかな?
自然にそういう事をしてくれる睦月さんにそんな事を思う。
「じゃあ行こうか。空いてるといいんだけど」
そう言って睦月さんは車のエンジンをかける。
時間は8時過ぎ。
今日の撮影の現場入りは10時。
こんなに早く家を出たのには理由があった。
先週、睦月さんの家でご馳走になった時に用意してくれていたパン。それがとっても美味しくて、私がそう言うと、『瑤子ちゃんに教えてもらった店のなんだけどさ、併設のカフェがあって行ってみたいけど、おっさん一人じゃ入り辛いし、さっちゃん付き合ってくれない?』と睦月さんは言った。
睦月さん、自分の事を『おっさん』なんて言うけど、見た目は全くそんな事はない。むしろ、お洒落なカフェで一人お茶してたら、女の子の方から声をかけたくなるんじゃないだろうか。
「私で良かったらいつでも……」
睦月さんに誘われて、断る理由なんてない。ちょっとでも私の事を気にかけてくれるなら、例えそれが娘の立ち位置でもいい。
そして今日、モーニングを食べに行こうかと睦月さんに誘われて今に至るのだ。
お店の近くにあったパーキングに車を停めて、店に入る。焼きたてのパンの香りが漂う店内は、平日にも関わらず、仕事前に寄る人も多いのか、それなりに混み合っていた。それでも入れ替わりの時間帯だったのかすんなり案内されて、私達はテーブルについた。
「おー!美味しそう!」
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