年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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「睦月さん、これ先に下ろしますか?」

マンションの駐車場に置いたトラックの上から武琉君に尋ねられる。その手には一番重いはずの箱。やっぱり若いなぁ、なんて感心しながら「そうだね。そうしよう」と台車を近づけて俺は答えた。

武琉君は手際よく動いてくれるし、希海も黙々と作業を手伝ってくれたおかげで、予定より早く引っ越しは終わりそうだ。
家に運んだ箱を下ろして、希海がまた台車を下ろしてくれることになっていて、俺はまだかなぁ?とエレベーターの表示に目をやる。さっき15階に止まっていた表示が下に降りてきていた。

「武琉君、他に乗せられそうなのある?希海が降りてきたかも……」

と俺が言ったところでエレベーターの扉が開き、そして現れたのは希海ではない。叔父のほうだ。

「よぉ、引っ越し業者!精が出るな」

俺の顔を見た途端、司はニヤリと笑いながらそう言った。

「滅多にマンション内で遭遇しないのに、こう言う時は会うんだよねぇ」

せっかく引っ越し後に粗品持って行って驚かせようと思ってたのに、早くも見つかり、俺は肩を落としながらそう言う。

「残念だったな。で、やっぱり武琉も使われてんだな。まぁ、睦月の倍は働きそうだけど」
「司さん、お久しぶりです。遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます」

武琉君は荷台から降りると、そう言って丁寧に頭を下げた。さすが武琉君だ。礼儀正しい。そして、そう言われた司はなんとなく照れたような表情になっている。

「なんか、改めて言われるとあれだな。ま、ありがとな」

今度は武琉君がはにかんだように「いえ」と返していた。

「ところで司はどっか行くの?瑤子ちゃんは?」
「だから、なんでどいつもこいつも同じことを聞く。瑤子は家にいるし、俺は飯の調達に行くだけだ」

顔を顰めながらそう言われて、すでに上で会っただろう誰かに同じことを聞かれたのかと笑ってしまった。

「だって、司が瑤子ちゃんと一緒じゃないほうが今となってはレアじゃん!」
「……悪かったな、レアで」
「で、ご飯買いに行くの?後で払うから、俺達のぶんも一緒に買って来てくんない?」

お昼ご飯はどこかに買いに行こうかと思っていたから、渡に船とばかりにそう言う。

「はぁ?面倒くせーな。しかたねぇ、買ってきてやるよ。その代わりあとで話あるから聞いてくれ」
「りょーかい!こっちこそよろしく!」

俺がそう言うと、司は「へいへい」と言いながら自分の車に向かって行った。

何回かの台車の往復と、最後に一番大きなテレビボードを運んでさっちゃんの引っ越しは終了した。

「みんな、お疲れ様~!とりあえずお茶でも飲んで!」

リビングに集まっていたみんなに俺はペットボトルを差し出す。

「本当!ありがとう。疲れたでしょう?座って座って」

さっちゃんもそう言いながら、同じようにみんなを促している。座ってと言っても、さっちゃんの荷物は全部別の部屋だし、俺の引っ越しは終わってないからイスの一つもなく床に直に座るしかないんだけど。

「僕は言うほどだけど、武琉も希海も働いてたよねぇ」

香緒は2人に受け取ったお茶を差し出しながらそう言っている。

「久しぶりにこんなに体動かせて何かスッキリした」

武琉君はまだまだと言った様子で香緒にそう言い、それに希海は少し呆れたように返す。

「さすがに俺はもう充分だ」

そんな会話をしながら、自然に丸く囲うように皆で床に座った。

「睦月君の引っ越しはいつするの?」
「俺は明後日。と言ってもさすがに業者に全部お任せ。いくら近くても重い家電もあるしね」
「確かに、そっちはプロに任せたほうがいいよね。それにしても、さっちゃん、よく一緒に住むお許しでたよね」

ペットボトルを口に運びながら香緒がそう言うのを、少し居た堪れない気持ちになりながらさっちゃんと顔を見合わせた。

「実はお母さんには承諾もらったけど、お父さんには秘密なの。だいたい、来月27になる娘が結婚考えてる人と一緒に住むのダメなんて、考えが古すぎると思わない?」

さっちゃんがむくれたように香緒に言うと、香緒はそれに圧倒されながら「まぁ、そうかもね」と返していた。
そしてさっちゃんのほうは、相当溜まっていたのか、愚痴を溢すように続けた。

「なのに、変なところで子どもみたいなんだから。今度結婚の挨拶に行くのだって、事前に知らせたら居なくなるかも知れないからって突然行くのよ?」

そこで、はぁーっと深く溜め息を吐くさっちゃんに、俺以外の3人は目を丸くしている。
確かに、結婚の挨拶に行くのにアポ無しで訪問なんて聞いたことない。っと言っても、もちろん知らせてないのは学さんにだけで、美紀子さんはもちろん、真琴君にも、そして未だに向こうで暮らし続けてるうちの父にすらいつ行くのかは伝えてあるんだけど。

「……大丈夫?それ?」

ようやくそう言った香緒に、さっちゃんは得意げに答える。

「とにかく、お父さんを捕まえさえすれば、逃げられないもの!ギプス、まだ外れてなくてよかった」

と。
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