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「ってことは、瑤子ちゃんに赤ちゃんできたの⁈ 司、お父さんになるの⁈ 」
我に返って声を上げると、司は「声でけーよ!向こうに聞こえたらどうすんだ!」と顔を顰めた。
「いや、だって驚くでしょ!」
「俺だって驚いてるっつーの!」
決まりの悪そうな顔でそう言うと司は続ける。
「とりあえず、まだ何があるかわからねーからって、親にも言ってねぇ。今知ってんのは淳一と茉紀と、お前で3人目」
淳一君は瑤子ちゃんの働くマネジメント事務所の社長で、司と、そして俺も大学時代からの友人。そして、淳一君の事務所で一緒に働く奥さんの茉紀ちゃんも、同じくその頃からの友人だ。きっと2人には、仕事の都合でどうしても言わなきゃいけなかったんだろう。
けど、まだご両親にも伝えていない話を、ここにいる甥っ子に先に聞かせるわけにいかなかったから、こんなところで内緒話になったのか、なんて俺は思った。
「そっかぁ……。司がお父さんかぁ……」
しみじみと司に向かって言うと、司は不機嫌そうに顔を顰める。でも俺にはわかる。それが照れ隠しだってことくらい。
「全く実感ねーけどな。悪阻、相当酷かったけど、やっとこの頃は食べられるようになってきたし、この連休中には親に言うつもりだ」
そう言いながら司はご飯を口に運んでいる。
「可愛いんだろうなぁ……。男の子かな?女の子かな?どっちでもいいけど楽しみだね!」
声を弾ませて言う俺とは正反対に、司は「お前、親戚のおっさんかよ」と一層顔を顰めた。
「ここまでくるとそんな気持ちになるって!」
20年近く、なんだかんだで一緒にいるんだから、もう弟と過ごした時間より長そうだ。
「ま、そうかもな。ってことで、まだ周りには黙ってろよ?」
「あー……さっちゃんに口滑らせそうだけどね」
だってこんなおめでたい話、さっちゃんとも早く分かち合いたくてウズウズしてしまう。
「……ったく。じゃ、喋ってもいいが、綿貫に口止めしろ。アイツのほうがよっぽど口固そうだ」
呆れるように司にそう言われて、俺は乾いた笑いを漏らす。
「ごめんね!口軽くって!でも、その通りだから反論できないけどね!」
俺はヤケクソになりながらそう言って、お弁当のメイン、鯖の塩焼きの最後の一口を口に放り込んだ。
「とりあえず、さっきの話。進めといてくんねぇ?衣装はこっちで用意するし」
「OK!任された!いい場所探しとくよ」
俺はどんな仕事よりそれを楽しみにしながら、笑顔でそう答えた。
◆◆
約1ヵ月前と同じ空の上。今日も上空は澄み切った青。そしてそこに深いマリンブルーが現れると、目的地はもうすぐだ。
「睦月さん。緊張してる?」
窓側に座るさっちゃんが、ぼんやりと前のシートを眺めていた俺に尋ねる。
「ん?まぁね。それなりに緊張はしてるよ?」
明るく返しながら、さっちゃんの左手を握る。その手の薬指には、窓の向こうに見える海と同じ色の石が光っている。
「実は私も」
俺の手を握り返しながら、さっちゃんはそう言った。
ゴールデンウィーク初日の午前中の便。今日から2泊3日の予定でさっちゃんの田舎に滞在する。真琴君にはもうちょっとゆっくりしていけばいいのに、と言われたけど、かんちゃんをあまり長い間預けっぱなしにするのはかわいそうだ。
学さん、話聞いてくれるかなぁ……
まずはそこだ。お見舞いに行った時はほぼ話を聞いてもらえなかった。そりゃ、突然現れた娘の交際相手に簡単に心を開くとは思えないけど。
とにかく、話を聞いてもらえないことには始まらない。だから、父さんを巻き込んでまで、学さんの囲い込み作戦が行われるのだけど……。上手くいくか不安で仕方ないのだ。
「睦月さん。頑張ろうね?」
さっちゃんも不安そうな顔で俺を見上げる。
「そうだね」
安心させるようにさっちゃんに微笑むと、さっちゃんは少しホッとしたように表情を緩めた。
「おーい!咲月~!睦月さーん!」
一体何が入ってるんだという大きさのスーツケースを受け取り、到着口を出ると真琴君が手を振っているのが見えた。
「真琴君、お迎えありがとう。お世話になります」
今日は車は借りていない。真琴君が車を出してくれるというからそれに甘えることにしたのだ。
「こちらこそ!何とか今日を乗り越えて、明日は気分よく遊びに行きましょうね」
明るく笑いながら真琴君と歩きながら俺達は駐車場に向かう。
「お父さんはどうしてた?」
真琴君の背後からさっちゃんは心配そうに尋ねる。
「俺が出るとき暁さんが来たから、今頃調子よく飲んでるんじゃね?退院してから母ちゃんが禁酒させてたけど、今日は解禁するって言ってたし」
そう言いながら真琴君は、駐車場に停めてあった黒いSUV車のロックを解除している。
「飲み過ぎてなかったらいいんだけど……」
確かに、酔っ払ってて話を聞いてくれないのも困るし、酔ったら余計怖そうだ。
「その辺は母ちゃんがちゃんと見てるから大丈夫だって。さ、乗った乗った!」
真琴君はそう言って俺達を促した。
我に返って声を上げると、司は「声でけーよ!向こうに聞こえたらどうすんだ!」と顔を顰めた。
「いや、だって驚くでしょ!」
「俺だって驚いてるっつーの!」
決まりの悪そうな顔でそう言うと司は続ける。
「とりあえず、まだ何があるかわからねーからって、親にも言ってねぇ。今知ってんのは淳一と茉紀と、お前で3人目」
淳一君は瑤子ちゃんの働くマネジメント事務所の社長で、司と、そして俺も大学時代からの友人。そして、淳一君の事務所で一緒に働く奥さんの茉紀ちゃんも、同じくその頃からの友人だ。きっと2人には、仕事の都合でどうしても言わなきゃいけなかったんだろう。
けど、まだご両親にも伝えていない話を、ここにいる甥っ子に先に聞かせるわけにいかなかったから、こんなところで内緒話になったのか、なんて俺は思った。
「そっかぁ……。司がお父さんかぁ……」
しみじみと司に向かって言うと、司は不機嫌そうに顔を顰める。でも俺にはわかる。それが照れ隠しだってことくらい。
「全く実感ねーけどな。悪阻、相当酷かったけど、やっとこの頃は食べられるようになってきたし、この連休中には親に言うつもりだ」
そう言いながら司はご飯を口に運んでいる。
「可愛いんだろうなぁ……。男の子かな?女の子かな?どっちでもいいけど楽しみだね!」
声を弾ませて言う俺とは正反対に、司は「お前、親戚のおっさんかよ」と一層顔を顰めた。
「ここまでくるとそんな気持ちになるって!」
20年近く、なんだかんだで一緒にいるんだから、もう弟と過ごした時間より長そうだ。
「ま、そうかもな。ってことで、まだ周りには黙ってろよ?」
「あー……さっちゃんに口滑らせそうだけどね」
だってこんなおめでたい話、さっちゃんとも早く分かち合いたくてウズウズしてしまう。
「……ったく。じゃ、喋ってもいいが、綿貫に口止めしろ。アイツのほうがよっぽど口固そうだ」
呆れるように司にそう言われて、俺は乾いた笑いを漏らす。
「ごめんね!口軽くって!でも、その通りだから反論できないけどね!」
俺はヤケクソになりながらそう言って、お弁当のメイン、鯖の塩焼きの最後の一口を口に放り込んだ。
「とりあえず、さっきの話。進めといてくんねぇ?衣装はこっちで用意するし」
「OK!任された!いい場所探しとくよ」
俺はどんな仕事よりそれを楽しみにしながら、笑顔でそう答えた。
◆◆
約1ヵ月前と同じ空の上。今日も上空は澄み切った青。そしてそこに深いマリンブルーが現れると、目的地はもうすぐだ。
「睦月さん。緊張してる?」
窓側に座るさっちゃんが、ぼんやりと前のシートを眺めていた俺に尋ねる。
「ん?まぁね。それなりに緊張はしてるよ?」
明るく返しながら、さっちゃんの左手を握る。その手の薬指には、窓の向こうに見える海と同じ色の石が光っている。
「実は私も」
俺の手を握り返しながら、さっちゃんはそう言った。
ゴールデンウィーク初日の午前中の便。今日から2泊3日の予定でさっちゃんの田舎に滞在する。真琴君にはもうちょっとゆっくりしていけばいいのに、と言われたけど、かんちゃんをあまり長い間預けっぱなしにするのはかわいそうだ。
学さん、話聞いてくれるかなぁ……
まずはそこだ。お見舞いに行った時はほぼ話を聞いてもらえなかった。そりゃ、突然現れた娘の交際相手に簡単に心を開くとは思えないけど。
とにかく、話を聞いてもらえないことには始まらない。だから、父さんを巻き込んでまで、学さんの囲い込み作戦が行われるのだけど……。上手くいくか不安で仕方ないのだ。
「睦月さん。頑張ろうね?」
さっちゃんも不安そうな顔で俺を見上げる。
「そうだね」
安心させるようにさっちゃんに微笑むと、さっちゃんは少しホッとしたように表情を緩めた。
「おーい!咲月~!睦月さーん!」
一体何が入ってるんだという大きさのスーツケースを受け取り、到着口を出ると真琴君が手を振っているのが見えた。
「真琴君、お迎えありがとう。お世話になります」
今日は車は借りていない。真琴君が車を出してくれるというからそれに甘えることにしたのだ。
「こちらこそ!何とか今日を乗り越えて、明日は気分よく遊びに行きましょうね」
明るく笑いながら真琴君と歩きながら俺達は駐車場に向かう。
「お父さんはどうしてた?」
真琴君の背後からさっちゃんは心配そうに尋ねる。
「俺が出るとき暁さんが来たから、今頃調子よく飲んでるんじゃね?退院してから母ちゃんが禁酒させてたけど、今日は解禁するって言ってたし」
そう言いながら真琴君は、駐車場に停めてあった黒いSUV車のロックを解除している。
「飲み過ぎてなかったらいいんだけど……」
確かに、酔っ払ってて話を聞いてくれないのも困るし、酔ったら余計怖そうだ。
「その辺は母ちゃんがちゃんと見てるから大丈夫だって。さ、乗った乗った!」
真琴君はそう言って俺達を促した。
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