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☆番外編3☆
honey moon 17
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次の日。
今日は一日、目一杯パークを満喫する予定だ。
昨日は、はしゃぎすぎた私に付き合って、睦月さんは仕方なくアトラクションに乗ってくれた。その結果、本当に申し訳ないくらい疲れさせてしまったような気がする。
元々パーク内をかなり歩き回り、普段以上に体力を使っていたからか2人ともホテル自体を堪能することもなく、お風呂に入ってあっという間に寝てしまっていた。
でも、ぐっすり眠ったおかげか、私は早い時間にすっきりと目を覚ました。
「ん……。おはよう、さっちゃん。早いね」
「おはよう!睦月さん。早いって言っても、もう7時だよ?」
まだ眠そうな睦月さんの横に座り私は笑いながらそう答える。今の季節、ここの日の出時間まであと30分ほどある。だんだんと空が明るくなってきた薄明と言われる時間帯だ。
「外がとっても綺麗なの!一緒に見よう?」
子どもが強請るように手を引いて起こすと、睦月さんは笑っていた。
「本当、楽しそうだね」
「うん!とっても楽しい!連れてきてくれてありがとう」
上半身だけ起こした睦月さんの手を握ったまま、私はそう言う。
いつかは行ってみたいな、と思い描いていた場所に、大好きな人と一緒に来られただけで幸せで、一緒に楽しめることにワクワクする。
「どういたしまして。喜んでもらえて嬉しいよ」
睦月さんは笑みを浮かべると、私の頰にキスを落とす。
「じゃあ、もう朝日が昇ってくるし、着替えてね?」
そう言って私は睦月さんの手を引いた。
それから、着替えた睦月さんと2人でバルコニーに出た。
いくつもある、パークに隣接したホテルの中から選んだのは、珍しい場所だ。
「あっ、見て!何かいるよ?」
私は眼下に広がるサバンナを指差す。明るくなった外には、木々と草原、そして動物達が悠々と歩いているのが見えた。
「鹿かな?」
睦月さんはそう言うと、そちらのほうに持っていたカメラの望遠レンズを向けた。
部屋から本物の動物を眺めることのできるこのホテル。そんな場所に泊まることなんてそうそうできないと思い、私の願いを聞き入れてもらった。
そして、もう一つ。
この旅行で睦月さんにはたくさん写真を撮って欲しいとお願いした。それは私の、ではなく景色の。もちろん睦月さんは私も撮ってたけど、それよりもこの眺めをたくさん残して欲しいな、っていうのが私の希望だ。
昨日も、パーク内の風景からキャラクターまで、たくさん撮ってくれた。それは、写真集にしたいくらい素敵なものばかりだった。
「ああーっ!帰りたくなーい!」
珍しく私はそんな声を上げていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。もう出なければ帰りの飛行機に間に合わなくなってしまう、そんな時間だ。
「本当に。……ニューヨークに住んだらもっと来られるけどね?」
エントランスに背を向けて歩きながら、睦月さんはそんなことを言う。その顔は笑顔だけど、半分本気なのかも知れないと私は思った。
ガラガラとスーツケースのコマが地面を蹴る音を聞きながら、私は黙ってしまう。なんでこんなことを言い出したのか、心当たりがあるから。
それは、みかさんとの仕事のとき。初日に行われた歓迎会。そこには撮影を見にきたいろんな人たちが参加してた。私はその中の一人に声を掛けられていたのだ。
『私と一緒に仕事してみない?』
聞けば、ニューヨークを中心に、ショーやコレクションで活躍しているメイクアップアーティストだと言う。そのとき通訳してくれたのはみかさんで、睦月さんは近くにいなかった。私はその場で何も答えられず、ただ戸惑ってしまったのだ。相手からは、『その気になったらいつでも連絡して』と連絡先を受け取っていた。
もちろん睦月さんにその話はすぐにした。自分のことのように喜びながら、『さすがだね。さっちゃんがその気なら俺はなんでも手伝うよ?』と言ってくれてた。
確かに、降って湧いた、思ってもなかった誘い。自分が海外で仕事をする姿など想像もしたことはなかった。みかさん達との仕事は、とても勉強になったし、これからに活かせるいい経験になった。けれど、やっぱりそれを活かしたい相手は、今の私には一人しかいない。
「私は……やっぱり日本にいたい。またここに来るのを目標に仕事しようかなって。香緒ちゃんを……もっともっと綺麗にしたいから」
私は立ち止まり睦月さんを見上げると、新たな決意を口にする。
私をここまで成長させてくれた人を、その最後の瞬間まで見届けたい
そう思って。
この旅行に来る少し前、香緒ちゃんが私にだけ打ち明けてくれた、その想いを思い出しながら。
今日は一日、目一杯パークを満喫する予定だ。
昨日は、はしゃぎすぎた私に付き合って、睦月さんは仕方なくアトラクションに乗ってくれた。その結果、本当に申し訳ないくらい疲れさせてしまったような気がする。
元々パーク内をかなり歩き回り、普段以上に体力を使っていたからか2人ともホテル自体を堪能することもなく、お風呂に入ってあっという間に寝てしまっていた。
でも、ぐっすり眠ったおかげか、私は早い時間にすっきりと目を覚ました。
「ん……。おはよう、さっちゃん。早いね」
「おはよう!睦月さん。早いって言っても、もう7時だよ?」
まだ眠そうな睦月さんの横に座り私は笑いながらそう答える。今の季節、ここの日の出時間まであと30分ほどある。だんだんと空が明るくなってきた薄明と言われる時間帯だ。
「外がとっても綺麗なの!一緒に見よう?」
子どもが強請るように手を引いて起こすと、睦月さんは笑っていた。
「本当、楽しそうだね」
「うん!とっても楽しい!連れてきてくれてありがとう」
上半身だけ起こした睦月さんの手を握ったまま、私はそう言う。
いつかは行ってみたいな、と思い描いていた場所に、大好きな人と一緒に来られただけで幸せで、一緒に楽しめることにワクワクする。
「どういたしまして。喜んでもらえて嬉しいよ」
睦月さんは笑みを浮かべると、私の頰にキスを落とす。
「じゃあ、もう朝日が昇ってくるし、着替えてね?」
そう言って私は睦月さんの手を引いた。
それから、着替えた睦月さんと2人でバルコニーに出た。
いくつもある、パークに隣接したホテルの中から選んだのは、珍しい場所だ。
「あっ、見て!何かいるよ?」
私は眼下に広がるサバンナを指差す。明るくなった外には、木々と草原、そして動物達が悠々と歩いているのが見えた。
「鹿かな?」
睦月さんはそう言うと、そちらのほうに持っていたカメラの望遠レンズを向けた。
部屋から本物の動物を眺めることのできるこのホテル。そんな場所に泊まることなんてそうそうできないと思い、私の願いを聞き入れてもらった。
そして、もう一つ。
この旅行で睦月さんにはたくさん写真を撮って欲しいとお願いした。それは私の、ではなく景色の。もちろん睦月さんは私も撮ってたけど、それよりもこの眺めをたくさん残して欲しいな、っていうのが私の希望だ。
昨日も、パーク内の風景からキャラクターまで、たくさん撮ってくれた。それは、写真集にしたいくらい素敵なものばかりだった。
「ああーっ!帰りたくなーい!」
珍しく私はそんな声を上げていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。もう出なければ帰りの飛行機に間に合わなくなってしまう、そんな時間だ。
「本当に。……ニューヨークに住んだらもっと来られるけどね?」
エントランスに背を向けて歩きながら、睦月さんはそんなことを言う。その顔は笑顔だけど、半分本気なのかも知れないと私は思った。
ガラガラとスーツケースのコマが地面を蹴る音を聞きながら、私は黙ってしまう。なんでこんなことを言い出したのか、心当たりがあるから。
それは、みかさんとの仕事のとき。初日に行われた歓迎会。そこには撮影を見にきたいろんな人たちが参加してた。私はその中の一人に声を掛けられていたのだ。
『私と一緒に仕事してみない?』
聞けば、ニューヨークを中心に、ショーやコレクションで活躍しているメイクアップアーティストだと言う。そのとき通訳してくれたのはみかさんで、睦月さんは近くにいなかった。私はその場で何も答えられず、ただ戸惑ってしまったのだ。相手からは、『その気になったらいつでも連絡して』と連絡先を受け取っていた。
もちろん睦月さんにその話はすぐにした。自分のことのように喜びながら、『さすがだね。さっちゃんがその気なら俺はなんでも手伝うよ?』と言ってくれてた。
確かに、降って湧いた、思ってもなかった誘い。自分が海外で仕事をする姿など想像もしたことはなかった。みかさん達との仕事は、とても勉強になったし、これからに活かせるいい経験になった。けれど、やっぱりそれを活かしたい相手は、今の私には一人しかいない。
「私は……やっぱり日本にいたい。またここに来るのを目標に仕事しようかなって。香緒ちゃんを……もっともっと綺麗にしたいから」
私は立ち止まり睦月さんを見上げると、新たな決意を口にする。
私をここまで成長させてくれた人を、その最後の瞬間まで見届けたい
そう思って。
この旅行に来る少し前、香緒ちゃんが私にだけ打ち明けてくれた、その想いを思い出しながら。
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