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13 side 香緒 4.
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希海が海外に行ってから、早3ヶ月が過ぎようとしていた真夏。
ネットで希海の事を調べると、それなりに記事がヒットする位になっていた。
昔からいつかカメラマンになりたいと言っていた希海が、着実にその夢を叶えているのを見るのは、自分の事のように嬉しかった。
司は自分の変わりに希海に仕事をさせていると言っていたけど、本当は違うと思っている。司と希海では作風が全く違う。それぞれが唯一無二だ。代わりなんて務まる訳ないのだ。だから本当は別の理由があるのだろうが、言うことはない。
司が時々パソコンで見ているのは、希海から送られてきた写真だというのは何となく分かる。それを何故か苦々しい顔で眺めていて、それがいったいどういう感情なのかは僕には分からない。2人の間に何かあるのか、何もないのかも僕は知る由もなかった。
その日はいつもより激しく求められ、意識を失うように眠っていた時だった。
遠くに人の話声が聞こえ、いつもテレビを見ないのに珍しく付けてるんだ……なんて遠い意識の中で思っていた。
「なんでお前がいる!」
「別にいいだろ、いちゃ悪い?」
聞き覚えのある声がリビングから聞こえて目が覚める。
まさか……
重い身体を持ち上げ、その辺に落ちていたシャツとスエットを着るとベッドから抜け出す。
リビングには、2人の男が対峙していた。
「希海……。来てたんだ……」
「香緒!」
希海は心配そうな顔で僕に近づくと、まじまじと顔を眺めた。そしてホッとしたように息を吐くと、僕をゆっくりと抱き寄せた。
「元気そうで良かった」
「帰ってたんだね」
「昨日メール入れたんだが、見てないな?」
呆れながらも嬉しそうに僕の頭を撫でている。
「ごめん。……おかえり。希海」
「ただいま」
そんなに離れていたわけじゃないのに酷く懐かしく感じる。肉親のように安心出来る存在に。
「で、何で司がここにいる?」
一層低い声で発せられたのは、僕に向けられたものではなく、明らかに司に向けられた怒り。
「お前には関係ないだろ?」
そう言いながら、司は挑発とも取れる程不敵に笑った。
「お前、仕事も全部キャンセルして、連絡もしないでどういうつもりだ」
希海は司の方に向き直り、怒りを露わにする。
「別にいいだろ。まぁ、お前に散々迷惑かけたのは悪いと思ってるよ」
悪いと思っているとは到底思えない軽い口調。いつもそうだ。飄々とした明るい口調で決して本心は見せない。
だけど、司には深い闇のようなものが見え隠れしている。少なくとも僕にはそう見える。
「……そろそろ潮時かぁ」
そう言うと司は頭を掻くと僕に近づく。
「香緒、お前はモデルに戻れ。で、希海……」
そこまで言うと希海の方を向いた。
「お前が撮れ。誰の目にも止まるくらい有名にしてやれ」
「何言って……」
「お前達なら出来るさ」
そう言って、子供の頃のように僕の頭をクシャクシャと撫でた。
何かを諦めたような少し寂しそうな表情を見せる司に、どんな言葉も見つからない。ただ、それを受け入れるしかなかった。
司はなんとも言えない表情でいる僕の耳元に顔を寄せ、希海に聞こえないよう小さく呟く。
「今度落ちる事があったらその時は容赦しないからな」
「……分かった」
そして司は僕たちの前から姿を消し、拠点を海外へ移した。
ネットで希海の事を調べると、それなりに記事がヒットする位になっていた。
昔からいつかカメラマンになりたいと言っていた希海が、着実にその夢を叶えているのを見るのは、自分の事のように嬉しかった。
司は自分の変わりに希海に仕事をさせていると言っていたけど、本当は違うと思っている。司と希海では作風が全く違う。それぞれが唯一無二だ。代わりなんて務まる訳ないのだ。だから本当は別の理由があるのだろうが、言うことはない。
司が時々パソコンで見ているのは、希海から送られてきた写真だというのは何となく分かる。それを何故か苦々しい顔で眺めていて、それがいったいどういう感情なのかは僕には分からない。2人の間に何かあるのか、何もないのかも僕は知る由もなかった。
その日はいつもより激しく求められ、意識を失うように眠っていた時だった。
遠くに人の話声が聞こえ、いつもテレビを見ないのに珍しく付けてるんだ……なんて遠い意識の中で思っていた。
「なんでお前がいる!」
「別にいいだろ、いちゃ悪い?」
聞き覚えのある声がリビングから聞こえて目が覚める。
まさか……
重い身体を持ち上げ、その辺に落ちていたシャツとスエットを着るとベッドから抜け出す。
リビングには、2人の男が対峙していた。
「希海……。来てたんだ……」
「香緒!」
希海は心配そうな顔で僕に近づくと、まじまじと顔を眺めた。そしてホッとしたように息を吐くと、僕をゆっくりと抱き寄せた。
「元気そうで良かった」
「帰ってたんだね」
「昨日メール入れたんだが、見てないな?」
呆れながらも嬉しそうに僕の頭を撫でている。
「ごめん。……おかえり。希海」
「ただいま」
そんなに離れていたわけじゃないのに酷く懐かしく感じる。肉親のように安心出来る存在に。
「で、何で司がここにいる?」
一層低い声で発せられたのは、僕に向けられたものではなく、明らかに司に向けられた怒り。
「お前には関係ないだろ?」
そう言いながら、司は挑発とも取れる程不敵に笑った。
「お前、仕事も全部キャンセルして、連絡もしないでどういうつもりだ」
希海は司の方に向き直り、怒りを露わにする。
「別にいいだろ。まぁ、お前に散々迷惑かけたのは悪いと思ってるよ」
悪いと思っているとは到底思えない軽い口調。いつもそうだ。飄々とした明るい口調で決して本心は見せない。
だけど、司には深い闇のようなものが見え隠れしている。少なくとも僕にはそう見える。
「……そろそろ潮時かぁ」
そう言うと司は頭を掻くと僕に近づく。
「香緒、お前はモデルに戻れ。で、希海……」
そこまで言うと希海の方を向いた。
「お前が撮れ。誰の目にも止まるくらい有名にしてやれ」
「何言って……」
「お前達なら出来るさ」
そう言って、子供の頃のように僕の頭をクシャクシャと撫でた。
何かを諦めたような少し寂しそうな表情を見せる司に、どんな言葉も見つからない。ただ、それを受け入れるしかなかった。
司はなんとも言えない表情でいる僕の耳元に顔を寄せ、希海に聞こえないよう小さく呟く。
「今度落ちる事があったらその時は容赦しないからな」
「……分かった」
そして司は僕たちの前から姿を消し、拠点を海外へ移した。
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