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番外編2.とある非日常の風景I(side武琉)
4.
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「ダメ?かな」
首を傾げてそう聞く香緒さんの顔は少し不安そうだ。俺は持っていた御猪口を桶に戻すと、少し押してそれを退かした。
「こっちこそ……。そうしたい」
お湯の中で腕を伸ばして香緒さんの体を引き寄せる。
「香緒……」
潤んだ瞳で俺を見上げるその顔に、ゆっくりと近づいて口付ける。啄むように軽く触れてその感触を味わってから、だんだんと深く中に入っていった。
「んっっ」
香緒は俺に応えるように腕にしがみつき、息を漏らす。
「た、ける……」
少し離れた唇から俺の名を呼ぶ香緒が、とても愛おしい。そのまま貪るように舌を絡めあい、俺達は存在を確かめ合った。温泉に温められた体の熱で、唇も舌もいつもより熱い。香緒から漏れる吐息に誘われて、何度も何度も口付けてしまう。
香緒は俺の首に縋り付き、ときおり撫でるように髪の間に指を滑らせる。それだけで体にヒリヒリとした感覚が走る。もっともっと近くに感じたいと、香緒の背中を引き寄せた。
お湯が揺れて桶に振動が伝わったのか、カチャリと音が聞こえてきてようやく我に返った。
「これ以上続けたら、のぼせるな」
「だね」
俺の目の前で上気した顔のまま香緒は笑った。
それから、もう少しだけ温泉に浸かりながらお酒を飲み、俺達はとりとめもない話を楽しんだ。
温泉から上がり、今度は就寝用の浴衣に着替えてから、また庭の見える広縁と呼ばれるスペースで火照った体を冷ましつつ、喉を潤す。
隣の部屋には和室用のローベッドが見える。橙色の間接照明が付いたその場所は、和と洋が融合した趣のあるインテリアで囲まれていた。
「さすがに疲れた~!」
しばらくすると、香緒はベッドにダイブするように倒れ込んだ。今日は長距離を運転してくれたのだから無理もない。
「マッサージ、しようか?」
「いいの?やった!」
俺は横たわる香緒の体をゆっくり揉み解す。
途中で、「んっ」とか「はぁっ」とか艶めかし吐息が漏れて、平静を保つのに必死だ。でも、うつ伏せの香緒にそんな俺は見えないだろうから、何事もないかのように、俺はマッサージを続けていた。が、トドメに「気持ちいい……」と悩ましげに呟かれて、もう俺の理性は残っていなかった。
俺は香緒に覆い被さるようにくっつくとその耳元で囁く。
「俺も気持ちよくなりたいんだけど……。いい?」
ゆっくりと香緒はこちらを向いて、真っ赤な顔で「うん。いいよ」と答えた。
本当にそういうときの香緒は、綺麗と言うより、たまらなく可愛い。そんな心の声を黙っていられなくて、「香緒、可愛い……」と言いながら頰に唇を落とす。
「あっ、武琉、んっ」
香緒は腕の中で身動ぎしながら俺の顔を見上げる。
「どうかした?」
橙色が映り込んだ色素の薄い茶色の瞳が、ゆらゆらと俺を見ている。
「……嬉しいなって。武琉に名前呼ばれるのも、可愛いって言われるのも。それだけで幸せだなって思える」
そう言って、俺にとって誰よりも大切な人は微笑む。
「俺も。香緒と一緒にいられるだけで幸せだなって実感する」
香緒の腕が俺の背中に伸び、クスクスと笑い声が漏れる。
「うん。こうやってくっついてると、もっと幸せだね」
「そうだな。……愛してる。香緒」
俺が人生で唯一そう伝えた相手。もちろん、それをこれから他の誰かに言うことはないだろう。
「僕も。愛してる」
俺はその言葉を合図に、香緒の唇に吸い寄せられていた。
首を傾げてそう聞く香緒さんの顔は少し不安そうだ。俺は持っていた御猪口を桶に戻すと、少し押してそれを退かした。
「こっちこそ……。そうしたい」
お湯の中で腕を伸ばして香緒さんの体を引き寄せる。
「香緒……」
潤んだ瞳で俺を見上げるその顔に、ゆっくりと近づいて口付ける。啄むように軽く触れてその感触を味わってから、だんだんと深く中に入っていった。
「んっっ」
香緒は俺に応えるように腕にしがみつき、息を漏らす。
「た、ける……」
少し離れた唇から俺の名を呼ぶ香緒が、とても愛おしい。そのまま貪るように舌を絡めあい、俺達は存在を確かめ合った。温泉に温められた体の熱で、唇も舌もいつもより熱い。香緒から漏れる吐息に誘われて、何度も何度も口付けてしまう。
香緒は俺の首に縋り付き、ときおり撫でるように髪の間に指を滑らせる。それだけで体にヒリヒリとした感覚が走る。もっともっと近くに感じたいと、香緒の背中を引き寄せた。
お湯が揺れて桶に振動が伝わったのか、カチャリと音が聞こえてきてようやく我に返った。
「これ以上続けたら、のぼせるな」
「だね」
俺の目の前で上気した顔のまま香緒は笑った。
それから、もう少しだけ温泉に浸かりながらお酒を飲み、俺達はとりとめもない話を楽しんだ。
温泉から上がり、今度は就寝用の浴衣に着替えてから、また庭の見える広縁と呼ばれるスペースで火照った体を冷ましつつ、喉を潤す。
隣の部屋には和室用のローベッドが見える。橙色の間接照明が付いたその場所は、和と洋が融合した趣のあるインテリアで囲まれていた。
「さすがに疲れた~!」
しばらくすると、香緒はベッドにダイブするように倒れ込んだ。今日は長距離を運転してくれたのだから無理もない。
「マッサージ、しようか?」
「いいの?やった!」
俺は横たわる香緒の体をゆっくり揉み解す。
途中で、「んっ」とか「はぁっ」とか艶めかし吐息が漏れて、平静を保つのに必死だ。でも、うつ伏せの香緒にそんな俺は見えないだろうから、何事もないかのように、俺はマッサージを続けていた。が、トドメに「気持ちいい……」と悩ましげに呟かれて、もう俺の理性は残っていなかった。
俺は香緒に覆い被さるようにくっつくとその耳元で囁く。
「俺も気持ちよくなりたいんだけど……。いい?」
ゆっくりと香緒はこちらを向いて、真っ赤な顔で「うん。いいよ」と答えた。
本当にそういうときの香緒は、綺麗と言うより、たまらなく可愛い。そんな心の声を黙っていられなくて、「香緒、可愛い……」と言いながら頰に唇を落とす。
「あっ、武琉、んっ」
香緒は腕の中で身動ぎしながら俺の顔を見上げる。
「どうかした?」
橙色が映り込んだ色素の薄い茶色の瞳が、ゆらゆらと俺を見ている。
「……嬉しいなって。武琉に名前呼ばれるのも、可愛いって言われるのも。それだけで幸せだなって思える」
そう言って、俺にとって誰よりも大切な人は微笑む。
「俺も。香緒と一緒にいられるだけで幸せだなって実感する」
香緒の腕が俺の背中に伸び、クスクスと笑い声が漏れる。
「うん。こうやってくっついてると、もっと幸せだね」
「そうだな。……愛してる。香緒」
俺が人生で唯一そう伝えた相手。もちろん、それをこれから他の誰かに言うことはないだろう。
「僕も。愛してる」
俺はその言葉を合図に、香緒の唇に吸い寄せられていた。
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