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第五話
しおりを挟む村から行ける森の中。
緑を掻き分けて進む先に、こじんまりとした小さな森小屋がある。
この森小屋は、この森の狩人が利用する小屋の1つ。
俺も普段からよく利用しているが、この頃は森小屋として利用されていない。
村長に頼んで、近頃はここをとある奴等との集会場として使わせてもらっていた。
俺は森小屋に入って、中に居る面々に手をあげた。
「ヒューズ」
「遅くなった」
何故、村長の許可が必要なのか。
それは簡単だ。
この村の人間ではない輩がこの森小屋の中に集まっているから。
「そろそろ、起こそうと思う」
「そうか」
そんなこと、もう俺には関係ないのに。
ミアが帰ってきたのであれば、こいつらとも関係を切るべきだろう。
俺はただ、ミアと一緒に居れるだけで良いのだから。
「そこで相談なんだが、巫女様を象徴として前に出したい」
「は?」
「俺たちが纏まるには、象徴が必要なんだ。巫女様の存在は、うってつけだ」
「だから、巫女様を王都に」
男達は笑みを浮かべながら俺に手を差し伸べてくる。
こいつらの頭の中で、俺が申し出を断るという選択肢はないらしい。
しかし、俺の中で、こいつらの評価は下りに下がっていった。
こいつらも、あいつと一緒か。
ミアをこいつらなんかに渡すわけないだろ。
「断る」
俺が断ることを予想していなかったのだろう、男の笑みは固まっている。
「ミアは、まだ治っていない。ようやく、ようやく感情を見せてくれるようになった」
一歩ずつ前に踏み出す。
男は一歩後ろに下がった。
「俺はミアに何があったのか知らないし、知ろうとも思わない。ミアが苦しんだ過去なんて忘れたら良い」
怒りで我を忘れてしまいそうで、それでもミアの笑顔が俺を引き止めている。
男の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「ミアを王都に?あんなに苦しんで壊れた場所に連れて行くわけないだろ」
こいつらは、王都から来たくせにミアがどうなっていたのか知らないのか?
「ミアは、人形だったよ。何も感じることがない人形に成り果てていた。身体には鞭打たれた痕があり、感情を表に出すことも意思表示もしてくれなかった」
今のように、少し話してくれるようになっただけでも大きな進歩なのだ。
「もう一度ミアを、俺に壊せ、と言っている言葉に頷いてすんなりあいつを出すわけねえだろ」
俺は、男の胸ぐらから手を離し、くるりと扉の方を向いた。
「お前らが、何をするかはお前らの勝手だ。だが、それにミアを巻き込むことだけは許さない」
お前らは知らないだろう。
ミアが毎朝、涙を流していることも、未だに怯えの色が、あの優しい月に陰りを齎すことも。
「俺は抜ける。お前らだけで進めれば良い」
俺なんて居ても居なくてもそう変わらなかったのだから、俺が居なくても大丈夫なはずだ。
「待ってくれ、君の力は必要で」
「俺の力に頼る程度なら、止めておけ」
他人の力がないと達成しない事など、達成した後に必ず瓦解する。ならば、最初からやらなければいい。
「今まで付き合って来た仲だ。だから名だけは貸してやる」
この名が独り歩きすることは別に良い。今でも、この名は勝手に歩き出し、新たな異名を生み出しているのだから。
「ああ、ミアに手を出してみろ、お前らを殺す」
俺はぎろりと、殺気を含んだ目であいつらを睨んだ。
ミアを巻き込むことだけは絶対に許さない。
俺が生きている間は、ミアをもう、この村の外に出すつもりはない。
アイツらが怯んだところで俺は前を向いた。
俺は扉を開け、彼女を待つ家へと急ぐ。
帰りに何か、彼女にお土産を買おうと考えながら。
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