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第六話
しおりを挟む「ただいま」
扉を開けて声をかけると、ぱたぱた、とこちらにやってくる足音がする。
「おか、えり?」
「ただいま」
ミアの一言によって、先程アイツらのせいで感じた苛立ちが浄化されていくような気がする。
ミアの、ぎこちなくても可愛い笑顔を見ているだけで安心できる。
「ミア様」
急にミアが走ったせいだろう、想定外の動作だったのか、止める間もなかったのか、俺が留守の間にミアを見てくれたいた女性がミアの名を呼びながら、こちらまで走って来た。
「ご苦労だった」
俺が女性に声をかけると、彼女は深く礼をした。
「ヒューズ様、お帰りなさいませ」
「ああ、変わりは?」
「内緒です」
「内緒って何だ?」
「それでは、私はこれで」
淡々と報告した女性は、俺の質問に答えることなく、一度だけ微笑んでミアに手を振った。
ミアも嬉しそうに笑って手を振りかえしている。
何か伝え合っていることは分かるが、俺は2人が互いに手を振るだけで、どんな会話をしているのかが全く分からない。これは、きっと女性にだけ通じる言葉なのだろう。
俺が少し考え込んでいる間に、女性は帰ってしまい、この家の中に居るのは、ミアと俺だけになる。
俺はミアをそっと抱き上げて、顔を近づけた。
「何か、あったのか?」
額と額を合わせて、目を覗き込む。
怯えも痛みを感じた時の目もしていない。誰かに襲われたり、怪我はしていないのだろう。
ミアはふるふると首を横に振った。
いや、「内緒」と言われた時点で何かあることは明白だろうに、隠されても困る。
「まあ、いいか。何かしら危ない目に遭ったり、痛いことがあったりじゃないんだな?」
こくこくと何度も首を縦に動かす動作を見て、安心する。
「ミアが安全ならいい。ミア、土産だ。受け取ってくれ」
ミアのために、彼女の澄んだ瞳のような、この村特産の蜂蜜を買ってきたのだ。
「今日のおやつにパンケーキでも焼くか?」
「っ!」
ミアが目を輝かせて何度も頷いた。
そういえば、パンケーキなどの甘い物はミアの好物だった。
王都に居たため、パンケーキよりももっと美味いものを知っているだろうに、パンケーキでこんなに喜んでくれるのが嬉しかった。
「やっぱり、ミアは優しいな」
料理があまり得意ではない俺が作るパンケーキでもこんなに楽しそうな笑顔を見せてくれるのだから。
「……」
「何かあったのか?」
じっと俺を見つめてくるミア。
何か言いたいことがあるようだが、言い出せない様子だ。
「何を言っても俺は怒らないし、ゆっくりでいい。今言えるなら今でいいし、言えないなら言わなくてもいい。俺はいつでも聞くからな」
別に今話してもらう必要も、ミアが話したくないのであれば無理矢理言わすようなこともしない。
俺はミアが幸せに生きているだけでいいのだから。
しかし、ミアはしばらく黙ったままで、そして、そっと口を開いた。
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