綺麗で優しい花々と小さな鳥籠

紅花

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第九話

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 結果から言うと、俺の家の扉を叩いたのは賊ではなく、村の人だった。

 ただ、切羽詰まっていたのは間違いがない。

「ヒューズ君、うちの子を助けて欲しいの!」
「うちもだよ!」
「私の子も!」
「どういうことだ?」

 顔を青褪めさせながら、村の女性が俺に助けを求めてくる。
 しかし、意味が分からない。

「ヒューズ様、ミア様!」
「何があった?」
「リズ、さん、こんばん、は?」

 俺が出かけていた時、いつもミアを見てくれている女性がこちらに駆けてきた。

 しかし、訪ねて来た4人共が、あまりきちんとした防寒を行っていないことに疑問を感じる。
 この村に住んでいる人にとって、防寒は大事だと、幼少期から学んでいるはずなのに。

 リズは数年前に、アイツらと共に、王都からこちらに来たとは言え、アイツらと別れてこちらに暮らすようになった為、防寒必須の冬は数回ほど体験しているはずだが。

「ミア様、こんばんは、です。ヒューズ様、この方々のお子様達が森で行方不明になったそうです!」
「マーク達がか⁉︎」

 この3人の子と言うと、いつも仲良し3人組のことだろう。
 俺に技術や知識を求めてきたり、ミアとも仲良くしてくれている3人組だ。

 3人の仲が良く、1人だったり誰かが欠けているところを殆ど見たことがない。欠けているときは、怪我、病気、家族と出掛けている、等々の歴とした理由がある時だけ。それか、メンバーと合流する前ぐらいのものだ。

「何で森だと思った?」

 夜から雪が降り始めたが、今日は朝から寒かった。いつ雪が降ってもおかしくないほどの寒さだったのだ。いつもの3人なら、森に入るわけがない。

「村のどこにもいなかったのです。今日の昼から見かけた人が居ません」
「昼は見たんだな?」
「はい。3人とも親御様と食事をしたそうなので」

 考えられる線は3つ。

 1つ、森に何故か入り、迷子になった。
 だが、これはあまり考えられない。
 3人とも、子供だけの森は危険だと知っているはずだ。

 俺が偶に森に入って、熊や狼など、害になりそうな獣を狩ったり、遠くへと運んだり、村を守らせたりしているが、それでも、3人が学びにきた際に毎度、「森は危ないから、女子供だけでは絶対に入るな」と言い聞かせている。

 今まで、俺のこの忠告を破ったことがない3人が、今、親が病気のために特別な薬草がいるなどの、特別な事情がないことぐらい、今、彼らの母親を見たり、日頃から村の皆と関わりを持っていたりする限り理解できる。

 2つ、普通に村にいて、隠れている。

 しかし、これもないだろう。
 ここまで大きな騒ぎになる前に、あの3人なら賢いため、ちゃんと出てくる。

 それはミアと遊んでいる時に証明されている。

 ミアと彼らが隠れんぼをした際、ミアが鬼になったが、彼らを見つけられないことがあった。

 その時は、ミアが彼らが見つからないことを心配しすぎて泣き出し、俺に助けを求めた。

 でも、俺が参加する前、俺がミアと共に庭に行ったら、3人とも素直に出て、素直に謝っていた。

 別に謝らなくてもいいと思ったが、ミアを泣かせたことに罪悪感を覚えたのだろう。しっかり謝っていた。

 幼いながらもそこら辺の考えはしっかりしている子達だ。だから、ここまで騒ぎになる前にきちんと出てくるはずだ。

 となると、最後の3つ目が当て嵌まることだろう。

 俺はリズと目を合わせて、頷く。
 俺とリズの考えは一致している。

「多分、無事だろうな」

 もし、森で迷っていたとしても、俺が村の守りをお願いしている獣達がきっちりと保護してくれるはずだ。

 彼らは“この村周辺を訪れる、俺達と交流のある者の匂いを覚えている”のだから。

 俺は獣達に、3人組を紹介したことがある。だから、3人組が森で迷っているのであれば、きっと獣達が保護しているし、今現在、森の中に探しに行っている男衆の匂いから、彼らに3人組を引き渡すだろう。

 そうならない場合が3番目の場合だ。

「少し待てば、きっと便りが来ると思う。リズ、アイツに連絡は?」
「一応送りました。今までと生活が変わっていないのでしたら、こちらにいらっしゃらないはずですので」

 リズは律儀にも便りを飛ばしたらしい。

 俺もアイツの生活は変わっていないと聞いているし、ここ数日で急に変わるような情勢が起きているわけでもない。だから、本来であればこちらにはいないはずだ。

「お優しい方ですので、ミア様を無理矢理巻き込むような真似はしないと思うのですが。それに、ヒューズ様に謝罪の意を伝えるよう私にお命じになられましたし」
「それには同意しよう。やるとしたら強硬派だろうな」

 集まっていた男達の中で、つい先日、俺にミアを引き渡せと言った男の顔が思い浮かぶ。

 ああ、やっぱりあそこで殺しておけばよかった。

 俺は剣の柄を強く握る。

 3人を巻き込み、ミアを心配させた原因を作ったのは俺だ。

 俺の名がここまで有名でなければ、あの3人もミアも巻き込まれることはなかったのに。

「名前、変えようか」
「名を変えても、ヒューズ様はヒューズ様でしょう」
「だよなぁ。ああ、怠い」

 名を変えようと俺が俺である限り、このような危険は必ず存在してしまう。ミアと共に暮らすことで、その危険は村の人にまで広まってしまった。

 しかし、この名があるからミアやこの村の人を守れるのもまた事実なのだ。

「取り敢えず、連絡があるはずだ。それを待とう」

 いい知らせか、悪い知らせか。

 村人からの知らせか、アイツらからの知らせか、それともアイツからの知らせか。

 どれが1番に来て、どれがどう出てくるのか分からないからこそ、俺はどの選択肢となっても対応できるようにしておかなければならない。
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