綺麗で優しい花々と小さな鳥籠

紅花

文字の大きさ
12 / 18

第十一話

しおりを挟む
「お久しぶりだな、第二王子殿下?この前、来ていないから知らないだろうが、俺は抜けたぜ?」
「……何故?」

 表情がお堅いし、お変わりないことで。

 俺は貴族の浮かべる笑みは苦手だ。何を考えているのか、読み取るのが難しいから。

「お前達に俺が力を貸す条件が崩れたからだよ」

 俺が王位簒奪を目論む輩と組んでいたのはミアを助け出したいため。

 ミアがこちらに帰ってきた今となっては、別に参加する意味がないと思っている。

 俺が達成したい目標が達成された。ならば、もう付き合う必要などない。

「……巫女殿はこの村に帰っているのか」
「ああ。だからと言ってお前に会わす気も、お前らに担ぎ上げられるような真似はさせない」

 特に、この男とは絶対に会わさない。

 ミアを傷つけたあの男と同じ血が流れているというだけでも、許し難い存在だ。

 それ以上に、あの男と同じ顔をしているのだ。

 俺はミアに辛い記憶を思い出させたいわけじゃない。
 辛い記憶を一緒に背負うわけじゃない。
 俺はミアの記憶も過去も抱え込んでいけるほどの男じゃない。

 ミアの記憶はミアのもの。

 俺はミアの全てが欲しいと思っている。だが、ミアが許可しない限り、俺はミアの全てを背負うつもりはない。

 それが、約束を守れなかった男ができる最大限の誠意だろう。

「いや、それでいい。彼女からこの村に来た時の様子は聞いている。巫女殿も俺に会いたくはないだろう」
「……意外だな、お前がそう言うなんて」

 この男は目的のためならどんな手段でも使うと思っていた。

 その為なら、仲間でもすっぱりと斬り捨てるイメージがあったのだ。

「彼女から願われたからな。彼女の願いは叶えたい」
「お深いことで」

 こいつは元婚約者であるリズを未だに愛しているのだろう。

「ヒューズ、お前に言われたくはない」

 まあ、俺に言われてしまいたくはないだろう。俺だってミアのことを諦めきれず、ずっと想い、行動してきたのだから。

「取り敢えず、今回のことでアイツらは斬り捨てる。彼女を傷つけ、巫女殿をも傷つけようとした。それは許せないからな」
「了解」

 となると、こいつと2人でアイツらを斬り捨てに行くことになり、ミアがいる家を空けてしまうことになってしまう。

「ちょっと2人に説明してくる」
「分かった」

 俺は彼を外に放り出したまま、部屋の中に入った。

「おか、えり」
「お帰りなさいませ」
「ああ。済まないが、少し出かけてくる。他の面々にも伝えてくれ」
「かしこまりました」

 リズが俺に深々と頭を下げた。
 そして、少し後ろに下がる。

 俺はそれを気にせずにミアの頬に手を当てて、ミアの眼をきちんと見えるようにしゃがんだ。

「子供達を探しに出かけてくる。リズ達の言うことを聞いて留守番をしていてくれ」
「……や」
「ミア?」

 ミアが何を言ったのか聞き取れなくて、聞き返すとミアは盛大に首を横に振りながら、大きな声をあげた。

「いやっ」
「ミア」

 しかし、ミアがいくら「いやだ」と言っても俺はミアを連れて行こうという気はない。

 何よりも危険なのはミアだから。

「いやっ!ヒュウ、帰ってこない!」
「絶対に帰る。生きて帰るから」

 ミアの頭に手を置く。

「約束する。絶対に生きて帰る」
「ほんと?」
「ああ。俺はミアに2度と、嘘を絶対につかない」

 ミアにつく嘘なんて1度だけで良い。

 あんな苦しい想いは2度と味合わなくて良い。
 もう絶対、2度と、ミアに嘘はつかない。

「……わかった。ぜったい、帰ってきて」
「ああ。行ってきます」

 俺はミアと小指を絡ませた。

 ずっと遠い国のおまじないで、約束をする時にする行為らしい。

 これを話した時、ミアはとても嬉しそうな顔をしていた。

 拠り所のある行為があったことが、何よりも嬉しかったのだろう。

 だから、俺はこの行為を拠り所のあるままにしておくことが大切だと思う。

「信じてる」
「ああ、待っていてくれ」

 リズにミアを預け、俺はアイツが待っている外へと出た。

「待たせたな」
「別に良い。行くぞ」
「ああ」

 俺らは森に目を向けて走り出した。

 互いの信念を持って。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...