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第十三話
しおりを挟む「ただいま」
ぱたぱたとこちらに来る足音が聞こえる。
「ヒュウ!」
「ミア」
こちらにジャンプして抱きついてきたミアを空で受け止め、くるりと1回転する。
1回転した後、このまま抱いていると危ないので、床に降ろす。
「おかえり!」
「ただいま、ミア」
ミアは再び俺に抱きついた。
ミアの勢いで俺に抱きついてきても、俺は鍛えているから体勢を崩すことはない。
「お帰りなさいませ、ヒューズ様」
「おや、お帰り」
「お帰り、ヒューズ」
「お帰りなさい」
「ああ、帰った」
俺は後から来た4人に報告も兼ねて声をかけた。
「3人とも無事だ」
「連絡はきたよ、ありがとうねえ」
「本当にありがとう」
「ごめんね、ありがとう」
「ミアを見てもらっていたし、俺だってこの村の皆に世話になってるからな。気にすんな」
3人は、子供達の無事を早く確認したいようで、俺もその気持ちが分かるから3人に帰ってもらうことにした。
3人とも俺の何度も頭を下げながら、急いで家へ帰って行った。
マーク達、仲良し3人組はそれぞれのお家の親御さんから叱られ、抱きしめられるだろう。
それでも、3人が無事で良かった。
「リズも大変だっただろ?ありがとな」
「いえ、ミア様は大人しい方ですので全く面倒ではないですし、とっても可愛いので苦になんかなりません」
リズはミアに微笑みながら答えた。
面倒見が良いお姉さんのようなリズは、実はこの国の高位貴族の娘だった。
アイツの婚約者だったリズは、アイツとリズの家族を逃すために生贄として第一王子に捧げられた。
第一王子はミアだけではない、リズも傷つけていたのだ。
俺が王都に行った時、ミアは助けられなかったがリズは助けることができた。
リズはミアの名前は知っていても会ったことも顔を見たこともなかったらしいが。
この村に来るまでも、来てからもリズにアイツのことをどう思っているのかは聞いたことはない。
ただ、リズはアイツに会いたそうにしていないし、顔も見たくないような空気は感じられる。
「アレは帰った。連絡を取らせるような真似をして済まなかった」
俺の言葉に、リズは静かに首を横に振るだけだった。
「ミア様は同志です。ミア様と過去のことをお話しする機会はないですが、それでも空気が同じですから」
リズは痛々しいものを見る眼で、俺に抱きしめられているミアを見ていた。
ミアはリズの視線に気づかずに俺の抱きしめられたままでいたが、ふと気が付くとにこっと笑みを見せた。
リズはその笑みを見て、頬を緩ませている。
「それに、向こうからは勝手に送りつけられてきますし、ミア様は妹のようで守りたいんですよ」
「そうか……ミアを気にかけてくれてありがとうな」
「いえ、ただヒューズ様に助けて頂いた恩を返しただけですから」
リズはそう言って深々と頭を下げた。
でも、俺は間に合わなかった。
ミアを助けることもリズを救うことも。
「恩なんて返さなくていいし、感じなくていい。俺は救えてない。リズもミアもな」
ミアの頭をそっと撫でながら独り言のように呟く。
「俺がもっと早く気づいていたら、お前達は傷つかなかった」
「ヒューズ様」
「俺には力があったのに、お前達を救う力があったのに、気付かずに助けられなかった」
だから、俺に恩なんか感じないでくれ。
恩を返そうとしないでくれ。
俺にはそれを受け取る権利なんてないのだから。
「済まなかったな、助けられなくて。お前達が傷ついたのは、助けられなかった俺のせいだ」
俺はミアをリズの隣に立たせ、思いっきり頭を下げた。
何なら、額を床につけるくらいの謝り方をしないといけないと思っていた。
「恨むんだったら、俺を恨んでくれ。でも、世界と生命から離れるのはやめてくれ。お前達は幸せになる権利がある」
今まで辛い人生を送ってきたのだ。
彼女達は好きな人と結ばれて、笑って過ごす権利がある。
俺もこの村の皆も、第一王子、第二王子、高位貴族からだって2人を守ろう。
「ヒュウ?私、ヒュウ、悪くないよ?」
俺が頭を下げ続けていると、ミアは俺の元にてこてこと近づいてきて、そっと俺の頭に触れた。
「ヒュウ、いい子、優しい。助けてくれた。私、ヒュウ、大好きよ」
「ミア?」
ミアの様子がいつもと違うことにハッとして頭を上げてしまう。
いつもは幼い雰囲気なのに、今は連れ去られる前のような、昔の大人らしい感じがする。
「私は、ヒュウのこと、嘘つきだなんて思ってない。ちゃんと、守ってくれたよ。ヒュウがいたから、私は今、生きてるの」
「ミア?まさか、戻ったのか?」
「戻ったって、なあに?私は、私よ」
医者の見立てによると、今のミアは壊れ果てた末に行き着いたミアらしい。
今のミアから俺が知っているミアに戻る可能性はあるが、長い年月が掛かるか、今のミアから精神が成長する過程で違うミアに変化することが多いと言われた。
「可笑しなヒュウ、びっくり」
それでも今、俺の前で金色の瞳を細めて笑う彼女は、幼い彼女にそっくりで。
俺は、昔と違うミアとして彼女が生きてくれても良かった。
生きてくれていることで満足だった。
それでも、少しだけ欲があった。
昔のミアともう1度だけ話したかった。
昔のミアに約束を守れなかったことを謝りたかった。
それが叶った。
あと数年でも数十年でも待つつもりはあった。
待っても、ずっと会えなくてもいいと思っていた。
ただ、一瞬だけでいいから謝りたいと考えていた。
俺は、ミアをぎゅっと抱きしめた。
ミアがそこにいることをしっかりと実感したかった。
「ミア、ごめん。俺はっ」
「ううん、ヒュウ、悪くない。私、知ってる」
「ミア?」
ミアの様子がまた少しおかしい。
何となくだが、また単語ごとに言葉を区切り始めたし、何だか少し眠たそうだ。
「私、ヒュウ……」
「ミア!」
ミアがふらつき、慌てて支える。
ミアの身体が傾いて、俺の胸に倒れ込んだ。
急いで呼吸を確認する。
呼吸を一定のリズムできちんと行なっている。
何か、身体に問題があったわけではなさそうだった。
それが分かって、ほっと一安心する。
張り詰めていた緊張と、呼吸を緩めて、彼女をそっと持ち上げた。
「リズ、ミアを寝かせてくる」
「見送りは結構です。迎えもきましたし」
窓の外を見ると、リズの恋人が急いでこちらに走ってきているところだった。
「鍵はどうしますか?」
「閉めていこう」
俺の言葉にリズは頷いて一礼してからそっと、音を立てずに扉を開け、雪が降り頻る外に出てしまった。
扉の前で心配する男の声と、小さく笑うリズの声がするから、リズを迎えに来た男は無事に俺の家の扉の前でリズと合流できたのだろう。
リズを大切に想っている人間がリズの側にいることに安心して、俺は外を確認することなく、静かに鍵を閉めた。
俺だって空気を読むことはできるのだ。
いい感じの男女の邪魔をするような無粋な真似はしないとも。
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