15 / 18
第十四話
しおりを挟む「ヒュウ!」
「ミア、おはよう」
事件があった次の日、ミアが勢いよく階段を駆け降りて俺のことを探しに来た。
そんなに階段を急いで駆け降りたら、転んで怪我をしてしまうかもしれない。
怪我をしないように、階段を坂にしてしまおうか。
坂にしたら転んでもミアが階段ほど大きな怪我をする可能性は低くなる。
ミアが怪我をすることだけは避けなくては。
「朝ごはんは、何がいい?」
「好きなの?お芋、チーズ!」
「分かった。芋の上に蕩けたチーズを置いて焼こうな」
「うん!」
嬉しそうなミアの顔が可愛い。一生見てられる。
目を覚ましたミアは、今のミアだ。昨日見た昔のミアは、神様が一瞬だけくれた機会だったのか、もしくは治る兆候だったのかもしれない。
どちらにせよ、俺があと望むことはミアが生きて幸せになることだけ。
その隣に俺がいなくても構わない。
目を輝かせて喜んでいたミアだったが、急にふと焦った顔に戻ってしまった。
「違う!」
「朝食、別のにするか?」
「違う!」
一生懸命否定するミアが可愛くて、ついつい分からないふりをしたくなるが、これ以上分からないふりをしたら、泣き出してしまうかもしれない。
そろそろ止めないとな。
「冗談はここまでにして、何かあったのか?」
ミアが何回も頷いているが、ミアが寝ている間にこの家の中に侵入者が入った気配も形跡もなかった。
先程、勢いよく階段を駆け降りていたことからも分かるように、身体的な問題があったわけではない。
俺の知らないところ、ミアの精神的な方で何か、ミアにとってそれだけ重大なことが起きたのだろう。
「聞いた方が良いか?」
もう一度、縦に首が動かされる。
「分かった。椅子に座ろう」
キッチンの火を消して、壊れ物に触れるかのように彼女をそっと抱き上げてソファーに連れて行く。
俺は力が強いから、ミアを傷つけてしまう可能性があるため、大切に触れる必要がある。
彼女をソファーに座らせて、俺はその隣に座った。
「話せるか?」
彼女は、こくりと頷いて、言葉を詰まらせながらも話を始めてくれた。
「夢、見た。たくさんの人、戦う?」
「未来の夢か?」
「王様、危なかった」
語ってくれるミアには悪いが、俺は数日前までその話に参加していたし、王族がどうなろうとあんまり興味はない。
「未来の夢を見れるようになったんだな。少し、前進したなぁ」
俺は、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
未来が見えるようになったのなら、今までの彼女に戻りつつあるということだ。
「未来の夢、欲しくない」
「ミア?」
ぽつりとミアが呟いた。
顔は俯いていて見えないが、声は落ちていた。
「未来の夢、見たらまた連れて行かれる。見えなくなったら、酷いことされる」
「ミア」
「ヒューも、未来見えない私を、捨てる?」
顔をあげ、涙で潤んだ目で見られる。
可愛いミア、俺がそんなことするわけない。
「未来なんて、夢なんて関係ない。ミアはミアだろ?」
俺の言葉でミアがはっとした顔になった。
「なあ、ミア。覚えているか?」
本当はもう少しだけ、後にする予定だったのにな。
「昔、花畑でした約束のこと」
幼い俺とミアは、二人で手を繋いで花畑に行った。
その中から、俺はミアの一番好きな花を編み、指輪にしてミアと約束をした。
俺は、ポケットから箱を取り出し、あの時のように、ミアの前で片膝をつく。
「ミア、俺は未来が見える巫女じゃなくて、ミアそのものが欲しい。だから、俺とずっと一緒にいてほしい」
ミアの手を取って、優しく、でも力強く握る。
ミアの手は緊張で冷たくなっていた。
「今度こそ、ミアを絶対に守るから、ミアも俺と一緒にいてくれないか?」
ミアは、昔のように、幸せそうに笑って一粒だけ涙を零した。
それが彼女の明確な答えであり、俺を幸せにしてくれる源だった。
0
あなたにおすすめの小説
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
行かないで、と言ったでしょう?
松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。
病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。
壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。
人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。
スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。
これは、春を信じられなかったふたりが、
長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる