簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノルドグレーン分断

心の枷 13

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 エル・シールケルのふたりはようやく、ベアトリスの要望に応える気になったようだ。
「さあアウロラ、頼むぜ」
「は!?」
「いや、どう考えても、お前のほうがリースベットとはよく話してただろ」
「どう考えても、あんたのほうがリースベットとの付き合い長かったじゃない」
「……」
「付き合い長いったってなあ……あいつとはあんまり深い話はしてねえんだよ。俺の察しの良さが災いしちまってな」
「はあ……」
 他人の私的領域について無責任に話すことに抵抗があるのか、リースベットに口止めでもされていたのか、ふたりは自分が話すものだとは思っていなかったようだ。だがその無責任な押し付け合いは、ややバックマンに分があった。
「わかった。あたしが話すわよ」
「お願い」
「どう話したものかしら……」
「俺たちの知ってる、リースベットの側から見たノアの話でいいんじゃねえか? ノア王の心情はそっから想像してくれや」
「かまわないわ。どんなことでも」
「そうね……リースベットは王家の血筋にも、王女の地位にも未練はなかったと思う。けれど、ノア様との繋がりだけは、心のなかでずっと捨てていなかった。ヘルストランド城で一緒に過ごした時間は短かったけど、他の兄姉きょうだいより共感は深かったみたいね。あのふたりは、お互いに対して引け目を感じてた……そうも言ってたかな」
「引け目……むくいねばならない、とノア様は言っていたわね」
「もともとは……ノルドグレーンに人質として送られるのはリースベットだったけど、それをノア様が代わりに引き受けたのが始まりなんだって。……で、ノア様がいなくなってから事あるごとに、アウグスティンやその取り巻き連中はリースベットに辛く当たっていたらしいわ。人質から戻ったノア様が二人の間に立って、それもある程度は落ち着いたみたい」
「ほらな。人質の話なんざ、俺はまったく知らねえ」
「知らないことを誇らないでよ」
「十数年前の、あの人質の話が……」
 ノルドグレーン人であるベアトリスの中には、この話をただ傍観者として聞き流してもいいものか、という戸惑いが生まれていた。
 ノアとリースベットがいま離ればなれになっている根本の原因は、リードホルム王家の子女しじょを政治利用していたノルドグレーンにあったのだ。ベアトリス個人の責めに帰するものではないが、では全くの他人事だという態度を取ったとして、ノアはこころよく容認するだろうか。
「他にもいろいろあったみたいだけど……具体的なことはあまり知らない。あたしたちみんな、昔話なんて嫌いだったから」
「……わかったわ。ありがとう」
「話の出処でどころはエステルか?」
「そうよ。リースベット、エステルさんとはけっこう話してたみたい」
「……その方は?」
「料理人よ。今はヘルストランドで働いてる」
「そんな人もいるのね……」
 リースベットも、目の前にいるふたりよりもリースベットと懇意こんいだったかもしれない人物もまた、ここにはいない。
――私たちは誰かを望んだときほど、世のままならなさに突き当たる。どれほど富や権力を得ても本質的にそこは変わらず、富や権力で片付けようとすると歪みを生むのだ。
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