山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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落日の序曲

4 奇人ふたたび

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 王都ヘルストランドの目抜き通りを、白や灰色の喪服に身を包んだ葬列がゆっくりと進んでいた。そのうちの幾人かは、もうすぐ季節を終える色とりどりのアネモネやクレマチス、シクラメンなどの花々で飾られたひつぎを運んでいる。
 棺の中で眠るのはアウグスティン・リードホルムだ。葬列は郊外のエスティ・ルンドマルク聖堂を目指して進んでいる。
「アネモネかよ……これほどあいつにに不似合いな花もねえ」
 飾り立てられた棺を遠巻きに見ていた誰かがつぶやいた。

 形だけは荘厳そうごんだがどこか空虚な葬列を、路地から眺める男たちがいた。
 一人は二足歩行を始めたヒグマのような大男、もう一人はマントを羽織り白く染め抜いた革手袋をはめた青年、クリスティアン・カールソンとラルフ・フェルディンだ。
「王子様が死ぬってのはすげえな。あんな葬式出してもらえんのか」
「そうだな。しかし、アウグスティン王子がご病気だったような噂などは聞いていなかったが……」
「兄貴ここしばらく、あの山賊退治にしかかかずらわってねえよな」
「……それもそうだった。さあ戻ろう、料理が冷めてしまう」
 そう言って二人は昼食の待つ酒場へと戻った。
 テーブルの上には塩漬けニシンの添えられた大量のじゃがいも、エンドウマメのスープや豚肉の腸詰めコルヴやなどが並べられている。カールソンはそれらをものすごい勢いで次々と口へと運び、フェルディンはスープに口をつけた。
「しかし兄貴よう、おれらこんなところでのんびり飯食ってて大丈夫なのか?」
「なにか心配か?」
「いや、仕事に失敗したのによ、どのツラ下げてこの町に居座ってんだって」
「……気にしなくてもいいだろう。だいいちエイデシュテット宰相も、こんな安宿に顔を出したりはすまい」
「はー、大したお偉いさんからの仕事だったのにな」
 事実ではあるが無遠慮なフェルディンの言いようでは、宿の主人が聞き耳を立てていたなら、翌日から彼らに出される料理にこっそり異物が混入されていたかも知れない。幸い主人は、葬列を見に戸外へ出ているようだった。
「よう、久しぶりだな」
 食事を続ける二人の背後から、耳に馴染みのあるしゃがれ声が聞こえた。
「おめえ、ロブネルじゃねえか!」
「生きていたのか」
「まあ、何とかな……」
 声の主は、長いあいだ行方不明となっていた軽業師ロブネルだった。
 以前よりもせたようだが、それ以外は特に変わった様子もない。腰には短剣と煙草用のパイプを下げいてる。
「……悪かったな、あん時はよ」
「おれもついカッとなっちまってな」
 フェルディンたちが、なし崩しにティーサンリード山賊団の拠点に突入する原因となったのが彼だ。そのためフェルディンもカールソンも、彼にあまり良い印象は抱いておらず、結果として特に生死も確かめずにいたのだった。それを察してか、ロブネルはまず謝罪を述べる。
「それにしてもおめえ、こんなとこで何やってんだ?」
「ぐ、偶然だよ。俺も飯を食いに入ったんだ」
「そうか。まあ無事で何よりだ」
「そうだ、ここの勘定は俺に持たしてくれや。びの印だ」
「ほんとうか!」
 ロブネルの気前の良い申し出に、カールソンはたちまち上機嫌になった。
 フェルディンはまだ気に掛かることがあるようだ。
「おい、俺にもコルヴと酒を持ってこい」
 ロブネルは給仕の中年女に向かって叫ぶ。
 主にカールソン用の料理でいっぱいのテーブルを見て、ロブネルは隣の席に腰を下ろした。
「今おめえ、仕事は何やってんだ?」
「……まだ怪我が治りきらなくてな。こいつが癒えたら狩人にでも戻るつもりだ」
「そうかそうか。まあ似合ってると思うぜ」
 ロブネルは左肩を軽く叩いた。
「あんたらは、これからどうするつもりだ?」
「それなんだよなあ。なあ兄貴」
「うむ……。身の振り方については、熟慮を要するところなのだ」
 フェルディンには迷いがあった。
 エイデシュテットと交わした密約について明かし、先の仕事の真意を明らかにするか。このままカールソンに真意を明かさず、彼を半ば騙す形でリーパーの情報を追い続けるのか――カールソンならば、打ち明けても付いてきてくれそうではあるが。
「それならよ、……噂で聞いたんだが、今リードホルムのリーパー研究所ってのが狙い目らしいぜ」
「リーパー研究所? なんだそりゃ?」
 フェルディンの目の色が変わる。まさかロブネルの口から、かつての目標の名が発せられるとは思いもよらなかった。
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