84 / 247
落日の序曲
13 生き証人 3
しおりを挟む
裁判を望み通りの結果に導いたエイデシュテットだったが、帰宅してすぐに祝杯を上げるというわけにはゆかなかった。それどころか、かつてないほど慌ただしく謀略に勤しんでいる。
この日の夜も重要な来客が控えており、彼を通して報告しなければならない情報が多々あるのだ。
いつものように地下の小部屋に通されたノルドグレーン国家情報局の伝達係エンロートは、いつになく豪勢な歓待を受けていた。
テーブルにはノルドグレーン産のビールの他、大皿に盛られた巨大なフィンカや牛肉のステーキ、サワークリームを添えたマッシュポテトなど一人では食べ切れそうにない豪勢な料理が並んでいる。
「よくぞ来てくれた。待ちわびたぞ」
「アウグスティン王子が亡くなったそうですが……」
「そうなのだ」
皇太子暗殺の件は、遠くノルドグレーンにもすでに伝わっていた。
エンロートは方針変更の報をエイデシュテットに伝えるため急いでヘルストランドを再訪したのだが、一大事にも関わらずことの当事者に慌てた様子はない。それどころか上機嫌なエイデシュテットの顔を、エンロートは不思議そうに眺めていた。
「金と時間をかけて育てた手駒を失ったのは事実じゃが、存外その痛手は少なく済みそうなのだ」
「ほう、それは朗報ですな」
「この一件はそなたのおかげでもある」
「……? お役に立てたのならば光栄です」
「そなたからリースベットの名を聞いていなければ、あの傭兵の男を証人に立てることなど思いつかなんだろう」
半ば忘れかけていた女山賊の名を、エンロートは言われてようやく思い出した。
「その山賊が、どうかなさいましたか?」
エイデシュテットはアウグスティン暗殺から一連の、ことの経過を説明した。
エンロートは終始無表情で、ときどき食事を口にしながら聞いていた。この男は任務をつつがなく遂行する以外は、馬のことにしか興味がない。
「無論、まだ途上ではある。まずは国王に近衛兵を動員させてリースベットを討つ」
「ほう……あの、千の兵に勝るとさえ言われる……しかし近衛兵は国王直属の部隊と聞きますが」
「動かさざるを得んだろう。ヴィルヘルムはまだまだ王座に未練があるゆえ、そこをわしが焚きつける。ノアなどがブリクストとともに手柄を上げ、戴冠の機運など高まっては、あとあと面倒じゃからな」
「国王みずからの命で近衛兵を動かし、国民に誰が王であるか知らしめる、というわけですか」
「左様。ましてリースベットはリーパーという話。並の部隊では歯が立たぬことは実証済みじゃ。確実を期すればこそ、近衛兵を置いて他にない」
「……ということは」
エイデシュテットはゴブレットのビールを半分ほど呷り、気勢を上げてから喋り始めた。
「そこから、道は二つある。まず近衛兵がリースベットの一党を殲滅した場合、王族の長姉フリーダとノルドグレーンの誰かを結びつけてしまえ。あとは年老いた国王とノアを片付ければ、この国は名実ともに傀儡となろう。あれのほうが、アウグスティンより操りやすそうでもあるしな」
「いま一つは」
エイデシュテットの細い目が鋭くぎらつく。
「近衛兵が敗れ、その軍事力を大きく減じた場合じゃが……これこそ好機、大挙侵攻してリードホルムを併呑してしまおうではないか」
この日の夜も重要な来客が控えており、彼を通して報告しなければならない情報が多々あるのだ。
いつものように地下の小部屋に通されたノルドグレーン国家情報局の伝達係エンロートは、いつになく豪勢な歓待を受けていた。
テーブルにはノルドグレーン産のビールの他、大皿に盛られた巨大なフィンカや牛肉のステーキ、サワークリームを添えたマッシュポテトなど一人では食べ切れそうにない豪勢な料理が並んでいる。
「よくぞ来てくれた。待ちわびたぞ」
「アウグスティン王子が亡くなったそうですが……」
「そうなのだ」
皇太子暗殺の件は、遠くノルドグレーンにもすでに伝わっていた。
エンロートは方針変更の報をエイデシュテットに伝えるため急いでヘルストランドを再訪したのだが、一大事にも関わらずことの当事者に慌てた様子はない。それどころか上機嫌なエイデシュテットの顔を、エンロートは不思議そうに眺めていた。
「金と時間をかけて育てた手駒を失ったのは事実じゃが、存外その痛手は少なく済みそうなのだ」
「ほう、それは朗報ですな」
「この一件はそなたのおかげでもある」
「……? お役に立てたのならば光栄です」
「そなたからリースベットの名を聞いていなければ、あの傭兵の男を証人に立てることなど思いつかなんだろう」
半ば忘れかけていた女山賊の名を、エンロートは言われてようやく思い出した。
「その山賊が、どうかなさいましたか?」
エイデシュテットはアウグスティン暗殺から一連の、ことの経過を説明した。
エンロートは終始無表情で、ときどき食事を口にしながら聞いていた。この男は任務をつつがなく遂行する以外は、馬のことにしか興味がない。
「無論、まだ途上ではある。まずは国王に近衛兵を動員させてリースベットを討つ」
「ほう……あの、千の兵に勝るとさえ言われる……しかし近衛兵は国王直属の部隊と聞きますが」
「動かさざるを得んだろう。ヴィルヘルムはまだまだ王座に未練があるゆえ、そこをわしが焚きつける。ノアなどがブリクストとともに手柄を上げ、戴冠の機運など高まっては、あとあと面倒じゃからな」
「国王みずからの命で近衛兵を動かし、国民に誰が王であるか知らしめる、というわけですか」
「左様。ましてリースベットはリーパーという話。並の部隊では歯が立たぬことは実証済みじゃ。確実を期すればこそ、近衛兵を置いて他にない」
「……ということは」
エイデシュテットはゴブレットのビールを半分ほど呷り、気勢を上げてから喋り始めた。
「そこから、道は二つある。まず近衛兵がリースベットの一党を殲滅した場合、王族の長姉フリーダとノルドグレーンの誰かを結びつけてしまえ。あとは年老いた国王とノアを片付ければ、この国は名実ともに傀儡となろう。あれのほうが、アウグスティンより操りやすそうでもあるしな」
「いま一つは」
エイデシュテットの細い目が鋭くぎらつく。
「近衛兵が敗れ、その軍事力を大きく減じた場合じゃが……これこそ好機、大挙侵攻してリードホルムを併呑してしまおうではないか」
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる