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ジュニエスの戦い
10 新たな道 2
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「さて、そこでだ。アウロラ、この仕事、お前が行ってくれねえか」
「え……私が?」
アウロラが意外な顔をする。フランシス・エーベルゴードを脱獄させたときと同様、リースベットが主体となって仕事をするものとアウロラは思い込んでいた。
「理由はいくつかあるが……あの怪我のあと、指先の細かい感覚が戻らなくてな。錠前破りの腕が落ちちまった」
「そうなの……」
「ずっとこのまんまってことはねえだろうが、何しろ急ぎの仕事だ。あたしの指先が回復するのを待ってる時間はねえ」
「それで俺が呼ばれたってわけか」
「ま、この道じゃあたしの師匠だからな」
衝立に肘を乗せてくつろいだ様子のドグラスに、三人の視線が集まる。
「俺は構わんぜ。得意分野だしな。近衛兵の相手をしろってよりは遥かにマシよ」
「それに尽きるな。あれに比べりゃ夕食の買い出しみてえなもんだ」
「うーん……」
「前にも言ったが、あたしらにとって特別な仕事だ。だからお前に頼みたい。もちろん一人でじゃねえ。錠前破りにはドグラス、道中の段取りはバックマンにやってもらう。それでどうだ」
「オスカリウスにも行ってもらおうと思ってる。商隊に扮しとけば町への出入りも楽だからな。追加の馬車やら何やら必要な物は多いが、大都会ベステルオースは現地で何とかできるのが強みだ」
テーブルの上に広げられたベステルオースの地図を指しながら、リースベットが続ける。
「時間もだいぶ必要だ。こっからベステルオースまで片道六日。さらに姫様を助け出したら、引き渡しはヘルストランドの東、バステルードの町だ。戻ってくるまで最低でも二十日以上はかかるだろう」
「向こうに行っても、その日のうちに侵入してノルデンフェルトの令嬢を軽く奪還、なんてわけには行かねえだろう。事前の内偵も必要だ」
「そっか……そんなに長い間、リースベットとバックマンさんが留守にするのも問題ね」
「だろ。それにあたしは、ベステルオースの街には疎い。ドグラスもバックマンも、あっちでの生活が長かったからな」
「そのへんは任しとけ。裏道から飯のうまい宿までバッチリだ」
アウロラは他の三人の顔を見回し、わずかに思案した後に口を開いた。
「……わかった。やってみるわ」
「よし」
リースベットはそう言ってうなずくと、懐から銀製のブレスレットを取り出しアウロラの前に置いた。緻密な装飾が施され、中央にはめ込まれた瑪瑙の浮彫には葡萄、兜、盾を組み合わせた複雑な紋章が刻み込まれている。
「これは……?」
「悪いがお前への前祝いじゃねえ。そいつをダニエラに見せれば、敵じゃねえことはすぐ伝わるそうだ」
「いい金になりそうだな」
「そのままダニエラに渡せとよ」
リースベットはドグラスの頭を小突いた。
そのカメオの紋章は、ノルデンフェルト家の家紋だ。簡単には複製できないような精巧な作りで、ダニエラの私物のひとつだと使者の男が言っていた。
「細かいことにはあたしは口出ししねえ。アウロラ、バックマンとドグラスをうまいこと使ってみせろ」
「え……私が?」
アウロラが意外な顔をする。フランシス・エーベルゴードを脱獄させたときと同様、リースベットが主体となって仕事をするものとアウロラは思い込んでいた。
「理由はいくつかあるが……あの怪我のあと、指先の細かい感覚が戻らなくてな。錠前破りの腕が落ちちまった」
「そうなの……」
「ずっとこのまんまってことはねえだろうが、何しろ急ぎの仕事だ。あたしの指先が回復するのを待ってる時間はねえ」
「それで俺が呼ばれたってわけか」
「ま、この道じゃあたしの師匠だからな」
衝立に肘を乗せてくつろいだ様子のドグラスに、三人の視線が集まる。
「俺は構わんぜ。得意分野だしな。近衛兵の相手をしろってよりは遥かにマシよ」
「それに尽きるな。あれに比べりゃ夕食の買い出しみてえなもんだ」
「うーん……」
「前にも言ったが、あたしらにとって特別な仕事だ。だからお前に頼みたい。もちろん一人でじゃねえ。錠前破りにはドグラス、道中の段取りはバックマンにやってもらう。それでどうだ」
「オスカリウスにも行ってもらおうと思ってる。商隊に扮しとけば町への出入りも楽だからな。追加の馬車やら何やら必要な物は多いが、大都会ベステルオースは現地で何とかできるのが強みだ」
テーブルの上に広げられたベステルオースの地図を指しながら、リースベットが続ける。
「時間もだいぶ必要だ。こっからベステルオースまで片道六日。さらに姫様を助け出したら、引き渡しはヘルストランドの東、バステルードの町だ。戻ってくるまで最低でも二十日以上はかかるだろう」
「向こうに行っても、その日のうちに侵入してノルデンフェルトの令嬢を軽く奪還、なんてわけには行かねえだろう。事前の内偵も必要だ」
「そっか……そんなに長い間、リースベットとバックマンさんが留守にするのも問題ね」
「だろ。それにあたしは、ベステルオースの街には疎い。ドグラスもバックマンも、あっちでの生活が長かったからな」
「そのへんは任しとけ。裏道から飯のうまい宿までバッチリだ」
アウロラは他の三人の顔を見回し、わずかに思案した後に口を開いた。
「……わかった。やってみるわ」
「よし」
リースベットはそう言ってうなずくと、懐から銀製のブレスレットを取り出しアウロラの前に置いた。緻密な装飾が施され、中央にはめ込まれた瑪瑙の浮彫には葡萄、兜、盾を組み合わせた複雑な紋章が刻み込まれている。
「これは……?」
「悪いがお前への前祝いじゃねえ。そいつをダニエラに見せれば、敵じゃねえことはすぐ伝わるそうだ」
「いい金になりそうだな」
「そのままダニエラに渡せとよ」
リースベットはドグラスの頭を小突いた。
そのカメオの紋章は、ノルデンフェルト家の家紋だ。簡単には複製できないような精巧な作りで、ダニエラの私物のひとつだと使者の男が言っていた。
「細かいことにはあたしは口出ししねえ。アウロラ、バックマンとドグラスをうまいこと使ってみせろ」
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