148 / 247
ジュニエスの戦い
21 開戦間近
しおりを挟む
リードホルム軍がノルドグレーン軍を迎え撃つ戦場に選んだジュニエス河谷は、幅5キロメートルほどの、河谷としては広大な、だが戦場としては狭い、山あいの窪地である。
南北を急峻な斜面に囲われ、とくに北側は人がよじ登ることさえ不可能な急斜面だ。東西に長く、リードホルム側は袋の口を閉じるようにソルモーサン砦がそびえ立つ。
その狭い平地は細長いランガス湖によって分断されており、主力部隊が戦う湖南側と、相手の後方を狙って攻撃部隊が激突する狭い北側に分かれている。
山あいの河谷であるため起伏の激しい場所が散在し、地表は地衣類や背の低い草花に覆われ、その間から無数の岩が顔をのぞかせている。
そんな険しく荒涼とした地形であっても、両国を分かつようにそびえるノーラント山脈のなかで数千の集団が行軍できる場所は、このジュニエス河谷だけなのだ。ノルドグレーン軍が山脈を迂回しようとした場合は、南側はすでに両国の主力軍がにらみ合いを続けており、北側の迂回路は戦争中の隣国テーレとカッセル王国に行き当たる。
そしてこのジュニエス河谷は、守る側に有利な天然の要害であり、国力では大きく劣後するリードホルムがなぜノルドグレーンの侵攻を免れ続けてきたのか、その理由の一翼を担う戦場だった。
「18000対7000……地の利はあれど、あまりに数が違いすぎますな」
ソルモーサン砦の物見台から遠くジュニエス河谷を見渡しながら、トマス・ブリクストがつぶやいた。彼の傍らでは、ノアが腕組みをして、同じように戦場となるU字谷を眺めている。
「10000以上とは聞いていたが、まさかこちらの倍以上にまで膨れ上がるとはな」
「攻める側が、守る側に対して倍する数を揃えるというのは戦の常道とも言えます。しかしよもや、この場所でそんな数を相手にすることになろうとは……」
「ブリクストの部隊は、どこに配置されたのだ?」
「話が二転三転してまだ未決定なのですが、おそらく南側高台の防衛が主務となるかと」
「この期に及んで何を揉めている?」
「レイグラーフ将軍とラインフェルト将軍の意見が対立しているようで……我々が高台へ回るというのはラインフェルト将軍の案です」
「ということは、レイグラーフ将軍は主力軍の騎馬部隊に組み込むつもりか。そのほうが有効なように思えるが……南の丘も重要だが、結局のところ主力軍で圧倒できねば、この戦いに勝利はない」
「そうなのです」
「ラインフェルト将軍のこと、なにか考えがあってのことだろうが……」
今回の戦いでは、ブリクストの指揮する部隊も当然のように戦力として組み入れられた。
特別奇襲隊は、数としては百名足らずの騎馬部隊ではある。だが他に類を見ないその馬術と練度の高さから、彼らの配置の妙は戦局に大きな影響をもたらし得るものと目されていた。
「せめてあと2000もあれば、長期化した際の兵の負担がだいぶ軽減できるそうだが……」
「2000……カッセルに援軍の要請はできませぬか?」
「使者は送っている。だが……少なくとも、今は動かないだろう」
「今は、と申されるのは……」
「ラインフェルト将軍が言っていたが、カッセルはいま様子見を決め込んでいる。ノルドグレーンの侵攻があまりにも大規模だからな。我らが優勢ならばそれを見て援軍を出し、これまで通り連衡してノルドグレーンに当たる。我らが負ければ、素知らぬ顔でリードホルム東部地域を平定して回るだろう」
「狡猾な……とも言えませぬな。この情勢下では」
「ああ。いくらか希望があるとすれば……戦いを長引かせれば、まだ我らにノルドグレーンと拮抗する力があると見て、動いてくれるかも知れない」
南北を急峻な斜面に囲われ、とくに北側は人がよじ登ることさえ不可能な急斜面だ。東西に長く、リードホルム側は袋の口を閉じるようにソルモーサン砦がそびえ立つ。
その狭い平地は細長いランガス湖によって分断されており、主力部隊が戦う湖南側と、相手の後方を狙って攻撃部隊が激突する狭い北側に分かれている。
山あいの河谷であるため起伏の激しい場所が散在し、地表は地衣類や背の低い草花に覆われ、その間から無数の岩が顔をのぞかせている。
そんな険しく荒涼とした地形であっても、両国を分かつようにそびえるノーラント山脈のなかで数千の集団が行軍できる場所は、このジュニエス河谷だけなのだ。ノルドグレーン軍が山脈を迂回しようとした場合は、南側はすでに両国の主力軍がにらみ合いを続けており、北側の迂回路は戦争中の隣国テーレとカッセル王国に行き当たる。
そしてこのジュニエス河谷は、守る側に有利な天然の要害であり、国力では大きく劣後するリードホルムがなぜノルドグレーンの侵攻を免れ続けてきたのか、その理由の一翼を担う戦場だった。
「18000対7000……地の利はあれど、あまりに数が違いすぎますな」
ソルモーサン砦の物見台から遠くジュニエス河谷を見渡しながら、トマス・ブリクストがつぶやいた。彼の傍らでは、ノアが腕組みをして、同じように戦場となるU字谷を眺めている。
「10000以上とは聞いていたが、まさかこちらの倍以上にまで膨れ上がるとはな」
「攻める側が、守る側に対して倍する数を揃えるというのは戦の常道とも言えます。しかしよもや、この場所でそんな数を相手にすることになろうとは……」
「ブリクストの部隊は、どこに配置されたのだ?」
「話が二転三転してまだ未決定なのですが、おそらく南側高台の防衛が主務となるかと」
「この期に及んで何を揉めている?」
「レイグラーフ将軍とラインフェルト将軍の意見が対立しているようで……我々が高台へ回るというのはラインフェルト将軍の案です」
「ということは、レイグラーフ将軍は主力軍の騎馬部隊に組み込むつもりか。そのほうが有効なように思えるが……南の丘も重要だが、結局のところ主力軍で圧倒できねば、この戦いに勝利はない」
「そうなのです」
「ラインフェルト将軍のこと、なにか考えがあってのことだろうが……」
今回の戦いでは、ブリクストの指揮する部隊も当然のように戦力として組み入れられた。
特別奇襲隊は、数としては百名足らずの騎馬部隊ではある。だが他に類を見ないその馬術と練度の高さから、彼らの配置の妙は戦局に大きな影響をもたらし得るものと目されていた。
「せめてあと2000もあれば、長期化した際の兵の負担がだいぶ軽減できるそうだが……」
「2000……カッセルに援軍の要請はできませぬか?」
「使者は送っている。だが……少なくとも、今は動かないだろう」
「今は、と申されるのは……」
「ラインフェルト将軍が言っていたが、カッセルはいま様子見を決め込んでいる。ノルドグレーンの侵攻があまりにも大規模だからな。我らが優勢ならばそれを見て援軍を出し、これまで通り連衡してノルドグレーンに当たる。我らが負ければ、素知らぬ顔でリードホルム東部地域を平定して回るだろう」
「狡猾な……とも言えませぬな。この情勢下では」
「ああ。いくらか希望があるとすれば……戦いを長引かせれば、まだ我らにノルドグレーンと拮抗する力があると見て、動いてくれるかも知れない」
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる