168 / 247
ジュニエスの戦い
41 仮面
しおりを挟む
ジュニエス河谷における三日目の戦闘も、重装歩兵同士の衝突によって幕を開けたが、戦況はすぐにリードホルム軍の劣勢に傾いた。その原因はひとえに、両軍の数の違いだ。
リードホルム軍の倍以上の兵力を有するノルドグレーン軍は、ほとんど無傷に近い状態を保っていたレーフクヴィスト、ノルランデル両連隊長の部隊を前線に投入し、傷つき疲弊したリードホルム主力軍を圧倒している。
この点に関しては近衛兵も同様であり、超人的な体力を誇る隊長フリークルンド以外は、疲労によりその力を減じていた。一戦ごとに後退して休息を取り、ふたたび歩兵に混じって前線に出てゆく。しぜん戦闘回数は減り、ノルドグレーン軍に与える損害も少なくなる。
フリークルンドは歯噛みしつつも、ノアから指示されたその戦術に従っていた。
これは予想できた事態だ。
前日夜の軍議では、温存していた騎馬部隊を投入し状況の打開を試みる案をレイグラーフが提言したが、それにはラインフェルトが強硬に反対した。密集陣形を維持できている重装歩兵に騎馬部隊を突撃させても、突破できず無益に兵力を消耗するだけである、というのが反対案の論拠だ。
あくまで歩兵同士の戦闘で粘り、焦れた敵が突出し陣形が乱れたところで騎馬部隊を突入させる、という案が採択されて軍議は解散された。
「とはいえ苦しいな……我が国の兵が、やすりで削り取られていくようだ」
「優勢となれば、功に逸って突出してくる者が増えるものですが……敵の動きは見事に抑制されています」
ノアとメシュヴィツは互いに、腹の底で渦巻く焦燥感を押し殺しながら、リードホルムに不利な戦況を眺めているしかなかった。
対するノルドグレーン軍には、戦いに先立ちベアトリスからの厳命が下されていた。――生き残れば全員に恩給と、昇進あるいは職を与える。ただし命令違反は、仮に敵の首級を挙げても厳罰に処す。これまでの戦争とは違った戦いであると心得よ――
「敵ながら、大したものだな……」
「疲労と負傷で、我が軍の士気は低下しつつあります。どこまで持ち堪えられるか」
「士気、か……」
腕組みをして戦場を見つめるノアに伝令兵が駆け寄ってきた。眼前の戦場からではなく、背後のソルモーサン砦からだ。
「ノア様、その……砦に奇妙な来客が」
「私にか?」
「はい。どうも素性の怪しい奴で、カッセル王国の傭兵だと言っているのですが……」
その報告を聞き、ノアの顔が一瞬だけ明るさを取り戻した。
「……その者は、腕に我が国の国章を付けていなかったか?」
「はい。そのような腕章を付けていました」
「ここに通せ」
「……大丈夫でしょうか」
「協力を要請していた者だ。問題ない」
ソルモーサン砦に戻ってゆく伝令兵を見送るノアの顔に、わずかながら希望の色が見える。
ノアはメシュヴィツに向き直った。
「メシュヴィツ、どうやら士気に関しては、なんとかなるかも知れないな」
「……何か策がおありですか?」
「ああ。それを可能にする者がやってくる」
混迷する戦場を見ながら、不思議に晴れやかな顔でノアは言った。
リードホルム軍の倍以上の兵力を有するノルドグレーン軍は、ほとんど無傷に近い状態を保っていたレーフクヴィスト、ノルランデル両連隊長の部隊を前線に投入し、傷つき疲弊したリードホルム主力軍を圧倒している。
この点に関しては近衛兵も同様であり、超人的な体力を誇る隊長フリークルンド以外は、疲労によりその力を減じていた。一戦ごとに後退して休息を取り、ふたたび歩兵に混じって前線に出てゆく。しぜん戦闘回数は減り、ノルドグレーン軍に与える損害も少なくなる。
フリークルンドは歯噛みしつつも、ノアから指示されたその戦術に従っていた。
これは予想できた事態だ。
前日夜の軍議では、温存していた騎馬部隊を投入し状況の打開を試みる案をレイグラーフが提言したが、それにはラインフェルトが強硬に反対した。密集陣形を維持できている重装歩兵に騎馬部隊を突撃させても、突破できず無益に兵力を消耗するだけである、というのが反対案の論拠だ。
あくまで歩兵同士の戦闘で粘り、焦れた敵が突出し陣形が乱れたところで騎馬部隊を突入させる、という案が採択されて軍議は解散された。
「とはいえ苦しいな……我が国の兵が、やすりで削り取られていくようだ」
「優勢となれば、功に逸って突出してくる者が増えるものですが……敵の動きは見事に抑制されています」
ノアとメシュヴィツは互いに、腹の底で渦巻く焦燥感を押し殺しながら、リードホルムに不利な戦況を眺めているしかなかった。
対するノルドグレーン軍には、戦いに先立ちベアトリスからの厳命が下されていた。――生き残れば全員に恩給と、昇進あるいは職を与える。ただし命令違反は、仮に敵の首級を挙げても厳罰に処す。これまでの戦争とは違った戦いであると心得よ――
「敵ながら、大したものだな……」
「疲労と負傷で、我が軍の士気は低下しつつあります。どこまで持ち堪えられるか」
「士気、か……」
腕組みをして戦場を見つめるノアに伝令兵が駆け寄ってきた。眼前の戦場からではなく、背後のソルモーサン砦からだ。
「ノア様、その……砦に奇妙な来客が」
「私にか?」
「はい。どうも素性の怪しい奴で、カッセル王国の傭兵だと言っているのですが……」
その報告を聞き、ノアの顔が一瞬だけ明るさを取り戻した。
「……その者は、腕に我が国の国章を付けていなかったか?」
「はい。そのような腕章を付けていました」
「ここに通せ」
「……大丈夫でしょうか」
「協力を要請していた者だ。問題ない」
ソルモーサン砦に戻ってゆく伝令兵を見送るノアの顔に、わずかながら希望の色が見える。
ノアはメシュヴィツに向き直った。
「メシュヴィツ、どうやら士気に関しては、なんとかなるかも知れないな」
「……何か策がおありですか?」
「ああ。それを可能にする者がやってくる」
混迷する戦場を見ながら、不思議に晴れやかな顔でノアは言った。
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる