山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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楽園の涯

5 山賊団のリースベット

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 アウロラとバックマン、ヨンソンは、リースベットの離脱から十一日で、山賊団の拠点に帰り着いた。
 突然の訃報ふほうに多くの者は愕然がくぜんとし、この世の終わりをの当たりにしたように自失状態になる者や、多量の酒瓶とともに部屋に引きこもる者もあった。
 またある者はリースベットの遺体がこの場にないことに腹を立て、バックマンに食ってかかる。その抗議自体は正当なものだ。
「それでお前ら、相手が王族だからって、むざむざ手ぶらで帰ってきたのか! リースベットは俺らの頭領カシラだぞ!」
「王族だからって理由で俺らが引き下がるかよ! 任せてきたのは、その方がリースベットの望みに近いと思ったからだ」
「頭領の意志だってのか?」
「ああ。リースベットは自分の意思で行ったんだよ、あの王子様のところに」
 山賊団の中にはリースベットの前半生を知らない者も数多く、バックマンは抗議を受けるたび、まずは前段の説明から入らねばならなかった。そして敬意を寄せていた女山賊の意外な、しかし思い返すとどこか得心とくしんのゆくリースベットの過去を知ると、みな一様に驚き、言葉を失って引き下がるのだった。

 山賊団拠点に残っていた者の中でリースベットの行方について知っていたのは、エステル・マルムストレムを含めて二人だけだった。彼女はリースベットの不在中、他の山賊たちからその動向について問われても、回答をはぐらかし続けていた。
 リースベットが抱く思慕しぼの情は十分に知りつつも、アウロラたちの顔を見たリースベットが翻意ほんいして戻ってくるのではないか――そんな淡い期待を、アウロラたちの帰還までは抱いていたのだ。

 リースベットが出立しゅったつする前夜――この日はジュニエスの戦いの開戦前夜でもある――エステルは拠点の水場前でリースベットを待っていた。待ち人は中で顔を洗っている。あきらかに彼女は挙動不審だった。リースベットが神妙しんみょうな面持ちで水場から出てくると、思うところを率直に尋ねた。
「あんた、どこに行くつもりなの?」
「な、なんだよ、何の話だ」
「隠し事が下手なのにも程があるわよ」
「……」
 エステルはリースベットを自室に招いた。舌のすべりを良くするためか、あるいは浮足立った精神を落ち着かせるためか、暖炉で温めていたホットワイングレッグきょうしてテーブルを囲んだ。
「どうしても、出て行くつもり?」
「……あたしの存在自体が、この山賊団がリードホルム・カッセルに取り入るのに最大の障害だからな。なにしろアウグスティンを殺した張本人だ。リードホルムに王家がある限り、あたしを討たねえと示しがつかねえ、と考える奴が必ず出てくる」
「あんたがいなくなったら、ここは誰がまとめるのよ」
「荒事はアウロラがいる。半年前のあたしより、今のあいつのほうが実力だって上だ。それ以外の、組織としての運用はバックマンに任せていい。あいつはもともと、そっちの専門家を目指してたらしいしな」
「アウロラちゃんを巻き込むの、あれほど嫌がってたじゃない」
「……最初のうちはな。だが今となっては、本人が過保護を望んでねえし、今更違う生き方をしろってのも無責任な話だろ。あたしが引き込んどいて」
「そう……」
「だから一応、あたしなりの道標みちしるべは立てといてやる。それを見たあいつが、違う道を選ぶのは自由だけどな」
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