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「……最低過ぎて笑えないねえ」

 いつもおちゃらけているエルケでもドン引きの表情を浮かべ、クラーラは何も言わずに俯いている。
 二人に胸糞悪い思いをさせてしまったかもしれない申し訳無さと、初めて悩みを人に話せた嬉しさに挟まれ、何とも言えない気分に陥っていると、不意に私のお腹が鳴いた。
 その間抜けな音はフロイデン殿下に苛立ちを見せていた二人を笑わせる程度の威力は持っていたらしく、両脇から笑いを堪えている声が漏れる。
 
「そうだよね、今お昼休みだもんね」

「続きは食堂で話しましょうか」

 そう言って笑みを浮かべる二人に、言い訳しようにも出来なくなってしまった私は黙って頷くだけにとどめた。
 欲に忠実なのは結構だが、こんな時くらい腹の虫には空気を呼んで欲しいものだ。
 現実逃避するかのようにそんな事を考えながら、食堂の方へ向かって歩き出す二人の後ろに続いて歩いていると、少し先をフロイデン殿下が友人らと歩いているのが見え、ドキッと締め付けられるような痛みを覚える。
 
「噂をすればってやつだね。蹴り飛ばしてみる?」

「焼いて殺されるよ?」

 この会話だけでも不敬罪で捕まりそうだというのに、この子は恐い物知らずだ。
 ある意味尊敬していると殿下たちの会話に再び私の名前が出て来た事に気付いた。
 またさっきのような事を言っているのではと、内心怯えながらも耳を澄ませてみると――

「――あんな可愛い子捨てちゃうなんて勿体無くないっすか?」

「あの程度の女なんてそこら中にいるからな。顔だけで言えばフィーネやイルゼの方が断然可愛いし」

 名前だけ知っている貴族令嬢らの名前を出してケラケラと笑う彼を見て、今度は私の中で何かがキレるような音がした。
 左右を歩く二人もその会話はしっかりと聞いていたらしく、話しかけるべきか迷うような素振りを見せるのを無視して、私は一つ宣言する。

「私、あの人と別れる」

「「えっ」」

 口を揃えて間抜けな声を出す二人を見ずに、こちらへ気付く様子無く私の悪口を平気な顔をして言い触らすフロイデンの背を睨み付ける。
 容姿を馬鹿にされた事が嫌だったのか、それともあの程度と言われた事についてなのかは自分でもよく分からないが、今は猛烈に腹が立っている。
 今日にでも父に事情を話して、婚約破棄の準備をしよう。

「わ、私たちは応援するけど……王族相手に婚約破棄なんてして大丈夫なの?」

「お父さんに協力して貰えば多分なんとかなるから大丈夫。それより、今日のメニューって何だったっけ?」

 これ以上あの人の事を話すのも悪く感じ、話題を変えるべくそう言うと、二人はその意図を組んでくれたのか、食堂で食べられる定食を教えてくれた。 
 残念なことに私が好きな物は無いようだが、今は不思議と胸の中の高揚を感じられる。
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