10 / 27
10
しおりを挟む
フロイデンに連れていかれた場所は、普段待ち合わせ場所としてよく使っている裏庭だった。
エルケやクラーラとの思い出が詰まったこの場で苦い思い出を作らなければならないと考えると気がめいりそうになる。
と、周りに誰もいないことを確認したフロイデンはこちらを向いて。
「何で連れて来たのか、分かってるな?」
「別れようか迷っていたって言葉についてですよね」
「そうだ。あれはどういうことだ」
「どういう事って、言葉の通りですが……」
わざわざ聞かないと分からない事でも無いと思うのだが、現実を認めたくないのだろうか。
それはともかく、さっきは遠回しに別れを告げるような事を言ったが、今回はきっぱりと別れを告げよう。
自分自身に言いつけるつもりで考えていると、私を鋭い視線で睨み付けていたフロイデンが口を開く。
「俺が他の女に囲まれていたのがそんなに嫌だったのか? 王族なんだから人が寄って来るのはいつもの事だろ」
「寄って来ただけの人の肩を抱く必要はありましたか?」
「それは……」
言い返せなくなったらしく一瞬目を泳がせた彼は深々と溜息を吐く。
「あれは悪ふざけでやっただけだ。そんなにあれが嫌だったんならもうしねえよ」
「いえ、あなたが他の令嬢に手を出すのはもう気にしないので大丈夫です」
「……どういうことだ?」
何を言おうとしているのか察したらしく、彼は少し焦りを見せる。
何年も付き合って来たが、この人が焦っているところを見るのは初めてだなとどうでも良いことを考えながら、私は偽りの無い言葉を放つ。
「私はあなたとの婚約を破棄します。王位を継承したら捨てるおつもりのようですし、そんな惨めな思いをするくらいなら一生独身で構いません」
「あ、あれは……そう言う事じゃなくて……」
あの会話の事を私が聞いていたとは思っていなかったらしく、フロイデンは顔を真っ青にして意味を持たない言葉だけを口にする。
さて、そろそろ空腹も絶頂に達しようとしている。これ以上、下らない会話をするのもバカらしいし、早いところ食堂に行くとしよう。
「それでは、私はこれで失礼します。友人が待っていますので」
そう言って一礼した私は、踵を返そうとするが――フロイデンは腕を鷲掴みにして引き留める。
まだ何か言うつもりなのかと振り返れば、焦っているのがよく分かる彼の目が私だけを見ていた。
「俺は……お前のことを愛している」
「お腹が空いてるので放して貰えませんか」
「俺よりも飯の方が重要か?」
「はい」
即答するのと同時、彼は一瞬だけ鬼の形相をして――
エルケやクラーラとの思い出が詰まったこの場で苦い思い出を作らなければならないと考えると気がめいりそうになる。
と、周りに誰もいないことを確認したフロイデンはこちらを向いて。
「何で連れて来たのか、分かってるな?」
「別れようか迷っていたって言葉についてですよね」
「そうだ。あれはどういうことだ」
「どういう事って、言葉の通りですが……」
わざわざ聞かないと分からない事でも無いと思うのだが、現実を認めたくないのだろうか。
それはともかく、さっきは遠回しに別れを告げるような事を言ったが、今回はきっぱりと別れを告げよう。
自分自身に言いつけるつもりで考えていると、私を鋭い視線で睨み付けていたフロイデンが口を開く。
「俺が他の女に囲まれていたのがそんなに嫌だったのか? 王族なんだから人が寄って来るのはいつもの事だろ」
「寄って来ただけの人の肩を抱く必要はありましたか?」
「それは……」
言い返せなくなったらしく一瞬目を泳がせた彼は深々と溜息を吐く。
「あれは悪ふざけでやっただけだ。そんなにあれが嫌だったんならもうしねえよ」
「いえ、あなたが他の令嬢に手を出すのはもう気にしないので大丈夫です」
「……どういうことだ?」
何を言おうとしているのか察したらしく、彼は少し焦りを見せる。
何年も付き合って来たが、この人が焦っているところを見るのは初めてだなとどうでも良いことを考えながら、私は偽りの無い言葉を放つ。
「私はあなたとの婚約を破棄します。王位を継承したら捨てるおつもりのようですし、そんな惨めな思いをするくらいなら一生独身で構いません」
「あ、あれは……そう言う事じゃなくて……」
あの会話の事を私が聞いていたとは思っていなかったらしく、フロイデンは顔を真っ青にして意味を持たない言葉だけを口にする。
さて、そろそろ空腹も絶頂に達しようとしている。これ以上、下らない会話をするのもバカらしいし、早いところ食堂に行くとしよう。
「それでは、私はこれで失礼します。友人が待っていますので」
そう言って一礼した私は、踵を返そうとするが――フロイデンは腕を鷲掴みにして引き留める。
まだ何か言うつもりなのかと振り返れば、焦っているのがよく分かる彼の目が私だけを見ていた。
「俺は……お前のことを愛している」
「お腹が空いてるので放して貰えませんか」
「俺よりも飯の方が重要か?」
「はい」
即答するのと同時、彼は一瞬だけ鬼の形相をして――
481
あなたにおすすめの小説
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします
ほーみ
恋愛
その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。
そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。
冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。
誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。
それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、彼の言葉は、決定的だった。
「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる