さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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一方その頃、白蛇は

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「……何をしておる」

「寝顔が可愛かったからお姉ちゃんに見せようと思って」

 そう笑いながら吾輩の頭を軽く撫でた波留はご機嫌な様子でスマホとやらの操作を始める。
 何をしているのかはよく分からないが、この様子だとどうせ禄でもないことをしているに違いない。

 ため息を吐きながら人の姿へ変化した我輩は軽く体を伸ばし、喉の渇きを覚えてリビングへと向かう。
 まだ朝早いこともあっていつもはやかましい男どもの姿は無く、小娘たちが食卓で胡坐をかいて紅茶やジュースを飲みながら雑談をしている。
 耳を澄ませてみればどうやら桂里奈と猫又の男の話をしているようで、あの二人がどんな関係に発展しているのかが気になるらしい。

「あ、ミワちゃん!」

「こっちおいでー!」

「うぐっ」

 こちらに気付いてしまったらしく小娘たちはニコニコと笑みを浮かべて手招きをする。
 無視するのも悪い気がして渋々そちらへ近付くと、三女の涼香が我輩の体を軽々と持ち上げ、自分の膝に載せてむぎゅと抱き締める。
 対面に座る四女の香月がむくっと頬を膨らませて。

「ずるい! 私がだっこしたい」

「小学生にはまだ早いの。ね、ミワちゃん」

「どっちでも変わらん」

 相手するのが面倒でてきとうなことを言いつつ、空いているコップにジュースを入れて口に運ぶ。
 口の中いっぱいに蜜柑の甘味と酸味が広がり、ひんやりとした感触が喉を伝っていく。
 やはり寝起きに飲む飲み物は美味い。この感触はいつの時代でも変わらないものがある。

「ミワちゃんはどうして髪が白いの?」

「知らぬ」

「ドライなところも可愛いね」

「やかましい」

 むぎゅうと吾輩を抱き締め、髪の臭いを嗅ぐ涼香にやめろと言うべきか悩んでいると、廊下から波留の足音が聞こえ始める。
 もっと面倒なのが増える恐ろしさから思わず身震いしていると、香月が立ち上がってこちらへやってきて、吾輩の頬を撫で繰り回しながら微笑む。

「お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」

「小娘が図に乗るな」

「生意気なところも可愛いね」

「これがデジャブというやつか」

 構われないようにと生意気なことや無礼なことを言っても、むしろ余計に可愛がられるばかりなのは一体どうしてなのだろうか。
 と、涼香の隣に座った波留は我輩の頭を撫で始め、そのくすぐったさから変な声が出る。

「ミワちゃん、朝ご飯にしよっか」

「撫でるのなら許可を取ってからにしろと言っているだろ」

「じゃあ、撫でていい?」

「撫でながら聞くな」

「ありがとー」

 節穴の耳を持つ波留には何の意味も無かったようで、心底癒されているような目をして吾輩を撫で回す。
 しかし撫で方のコツでも掴んだのか少しだけ気持ちよく、反抗すべきか迷いながらコップを傾ける。
 
「そういえばミワちゃんはこれからどうするの? 私としてはずっと家にいて欲しいんだけどなー」

「桂里奈と共にするつもりだ。断られたらここでのんびりする」

「なら断らせないといけないねー」

「だねー」

 意地でも我輩をこの家にいさせたいらしく、小娘たちは悪い顔をして何やら話し合いを始める。
 すると台所の方から肉の焼ける良い匂いが漂い始め、そちらへ目を向けると榛名が顔だけを覗かせていた。

「ミワちゃんのやりたいようにやらせてあげなさい。それと朝ごはんの準備手伝って」

「「はーい」」

 名残惜しそうに吾輩を座布団の上に置いた涼香は最後に頬ずりをしてから立ち上がり、小娘たちはそちらへ駆けて行った。
 少し経って台所から小僧たちの声も聞こえ始め、そのやかましさに懐かしさを感じながら空になったコップを置いて外の景色に目をやる。
 
「おはよう」

「蛇男か。今日は早いな」

「おう、昼夜逆転が丁度一周したんだよ。それよりさ、これを見て欲しい」

 そう言って隣に座った水樹が見せてきたのはノートパソコンと呼ばれていたもので、その画面の中央には派手な衣装を身にまとった我輩の絵が映し出されている。
 しかし、今回はその絵の下に三種類の数字が映し出され、右側の数字は少しずつ増えて行っている。

「これがどうした」

「ネットに出したらめっちゃ好評だったんだよ。もっと書いて良いか?」

 何となく嫌な予感がしながら問いを投げかける。

「……ネットとはなんだ?」

「まあ、簡単に言えば世界に発信したって感じだな」

 吾輩が胸ぐらを掴んだのはすぐのことだった。
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