さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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75話 討伐

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「村へ訪れた若い男……その名はスサノオノミコト。日本神話でも有名なイザナギとイザナミの間に生まれた男神でした」

 確かにイザナギとイザナミの名は中学か高校の授業で聞いた覚えがあるが、スサノオという人物は耳にしたことがない。
 何かで伝承が途絶えてしまった存在なのだろうか。

「彼は簡単に説明するとニート、マザコン、ロリコン、そして気狂いの四拍子が揃ったとんでもない神で、それゆえに神の世界から追い出された存在でした」

 伝承が途絶えた理由はそれだったらしい。
 一人納得していると横で聞いていた猫田さんが半笑いで私の方を向いて。

「鳩山の先祖じゃね?」

「無いとは言い切れないね」

 あの人のことはそれほど詳しくは知らないが、人の家に車で突撃する非常識さを考えると本当に無いとは言い切れない気がする。
 そんな下らないことを考えながら映像へ目をやると、幼い娘を前にして涙を流す老夫婦が映されていた。

「人を探していたスサノオは河から流れて来た箸を見つけ、誰かがいるかもしれないと考えて上流に向かうと、幼い娘を前に涙を流す老夫婦と出会います」

 その幼い娘が誰なのかを察して八岐大蛇に目を向けると、当時のことを思い出しているのか申し訳なさそうな表情を浮かべている。
 と、右側の頭と目が合い、気恥ずかしそうに微笑んで。

「何百年と経っても、あの頃のことを思い出すとな。思うところがあるんだよ」

 結果はともかくとして、やったことは自分たちが村人にやられた事と同じだからこそ気にしているのだろう。
 何と声を掛けてあげれば良いのか分からず、一先ず背中を撫でてあげていると、映像では老夫婦と話すスサノオの様子が描かれる。

「アシナヅチとテナヅチと名乗った老夫婦はスサノオに、毎年八岐大蛇がやってきて娘を連れ去り食べていること、そして八人目の娘であるクシナダヒメも食べられてしまうことを伝えました。話を聞いたスサノオはまだ幼いクシナダヒメを妻にすることを条件に、八岐大蛇を討伐するため動き出します」

 そんな奴に負けないで欲しいと思う反面、私の膝にちょこんと乗っかっている八岐大蛇からどんな結果になったのかは想像が付き、複雑な感情のまま見守る。
 すると場面は切り替わり、八つの巨大な門と酒樽のようなものを用意する場面に切り替わり、後ろの方からぺらりとページをめくる音が聞こえる。

「スサノオは八つの門とその奥に度数の強い酒をテナヅチとアシナヅチに用意させました。そうしてしばらく経った頃、彼らの元へ我らが八岐大蛇がやって来ます」

 その台詞と同時、再びハイクオリティな八首の竜が現れ、時々口元から火炎を噴き出している演出までなされている。
 スサノオの紙芝居じみた動きとは比べ物にならないほど滑らかに動いていて、作成者の愛を感じて頬が緩む。
 ゆっくりとした動作でスサノオたちの元へやって来ると、左端の頭が鼻から火柱を出しながら顔を近付ける。
 
「スサノオは言葉巧みに彼らを騙し、門の先へある酒を飲ませ、酔って寝てしまったところを滅多切りにしました。強力な治癒能力も彼の持つ剣の前では本領を発揮出来ず、瞬く間に原形を留めない肉塊へと変えられてしまいました」

 門の中に首を突っ込んで酒を飲んだ彼らはそのまま寝てしまい、その太い首をスサノオが切り付ける。
 やはり自分の先祖が切り裂かれる様子は見ていて不快なものがあり、思わず眉をひそめていると、八岐大蛇の体から何かを取り出すような描写がされる。

「そうして八岐大蛇を滅多切りにした彼は、体の中から強力な力を秘めた太刀、天叢雲剣あまのむらくものつるぎを発見します。これは八岐大蛇の力の源とも言える代物で、それを抜き取られてしまうとほとんどの力を失ってしまいます」

 なるほど、だからこんなにも小さくなってしまったのか。
 膝上の八つの頭を撫でながら察していると、映像の方では八岐大蛇を切り裂き続けるスサノオの元に七人の女と思われるシルエットが現れる。
 
「その後も復活してしまうことが無いよう念入りに切り刻んで回っていたスサノオの元に、旦那の帰りが遅いからと過去に連れていかれていた娘たちが心配して駆けつけました。その光景を見て驚いた娘たちが何をしているのかと問うと、彼は娘を喰らう化け物を討伐したと誇り始めます」

 紙芝居のようにスライドする形で現れた次の絵には、女七人に殴り倒されるスサノオが描かれていた。
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