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第十四話・帰郷
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ノーゼルの故郷に訪れる予定日がやっと訪れた。あの日から一切顔を見せず、部屋に引きこもっていたノーゼルは随分げっそりした様子で馬車に揺られており、ルリアが「おはようございます」と挨拶しても、顔を青ざめさせるばかりで、なにか反応を返すことはなかった。まるで死にかけの小鼠のようである。
対するマリアとルーカスも、あの日以降学校中から爪弾きにされ、居場所がなかったからなのか、はたまた一方に対する不信感からか、顔を合わせるのは久々らしく、ギクシャクしたまま馬車に乗り込んだ。車内の空気はそれはもう最低最悪で、処刑台に送られるような雰囲気の中、レモンイエローのクラシカルワンピースを着たルリアだけが残酷なまでに輝かしかった。
それもそのはず、ルリアはなんだかんだ、久しぶりに住民たちと会うこの日を楽しみにしていた。
自分の子供のような、という真摯さではない。可愛がっている犬猫に会いに行くような貴族特有の傲慢さではあるが、それでも、自身に忠誠を誓い、与えた餌を凌駕するほどの対価を返してくれるとなれば、ルリアとて特別に贔屓するし、好きになるわけである。情もあるし、素直に慕ってくれる子供たちは、守るべき宝だとさえ感じる。要するに、メリットデメリットで選んだ自分の選択を誇らしく思うほど、あの街の人たちを愛おしく思っているのだ。
馬車が街につくと、ノーゼルが真っ先に目を見開いて、そして泣きそうな顔をした。美しい街並みを前に、何かを悟った顔だった。
「街の中心には、大きな教会があるんです。ステンドグラスはここの子供たちが、廃棄されるはずのガラス瓶などを使って作ったんですよ。是非見て欲しいんです」
キラキラとした瞳で街のことを語るルリアに驚いたように目を見張ったのはノーゼルだけでなく、偏見だけで彼女を見てきたルーカスもだった。マリアは俯きながら地面を歩いており、なにも言葉を発さない。
「あー!!」
不意に大きな声が聞こえ、ルリア達は反射的に声の方に目を向けた。
そこには何人かの子供が驚いたような顔をしてこちらを見ており、「ルリアさまだ!!」「ルリア様ー!!」「ルリアさま、なんでここに!?」と口々に彼女の名を呼び、駆け寄ってくる。
「アンナさん、ノット君。それにホイルくんも。お手伝いですか」
「うん!!ねーねー聞いてよ、わたしね、こないだ学校でいちばんになったの!!なんだと思う!?」
「あ、おいアンナ!!ずるい!!ルリア様、おれ父さんにやっと畑を貰ったんだよ!!」
「ぼくねっ、ルリア様からもらったご本大事にしてるよ!あとね、あとねっ」
「ふふっ、落ち着いて。私は逃げたりしないから。アンナさんは、そうね~…とっても身軽だから、かけっことか?」
「正解!すごーい、なんでわかるの?」
「分かるのよ。大人だから。ノット君は畑でなにを育ててるの?」
「カボチャ!寒くなってきたら収穫するんだ、ルリア様にもけんじょうするね!」
「ありがとうございます。楽しみにしてるね。ホイルくんも、本を大事にしてくれてありがとう。本は好き?」
「だいすき!」
「……そう。じゃあみんなにだけ秘密に教えてしまうのだけれど、実はみんなが通っている学校にね、図書室ができるのよ。そこには、お姫様のお話も、勇者の冒険譚も、動物たちの日常も、何もかもが詰まってるの。素敵でしょう?」
子供たちが声にならない歓声をあげて、「ありがとう、ルリアさま!」「秘密にするね!」と抱きついてくる。それを優しい顔で抱きしめるルリアを見て、ルーカスの瞳を覆っていた曇りが、少し晴れたように透き通っていた。ノーゼルはなにを思っているのか、曖昧な表情でその光景を見ており、大きな緑の目の下にはクマができてきる。マリアは相変わらず黙り込んでいた。
街は晴れ。教会の通り道には、ノーゼルの生まれた家もある。彼等の視察はまだまだ始まったばかりであった。
対するマリアとルーカスも、あの日以降学校中から爪弾きにされ、居場所がなかったからなのか、はたまた一方に対する不信感からか、顔を合わせるのは久々らしく、ギクシャクしたまま馬車に乗り込んだ。車内の空気はそれはもう最低最悪で、処刑台に送られるような雰囲気の中、レモンイエローのクラシカルワンピースを着たルリアだけが残酷なまでに輝かしかった。
それもそのはず、ルリアはなんだかんだ、久しぶりに住民たちと会うこの日を楽しみにしていた。
自分の子供のような、という真摯さではない。可愛がっている犬猫に会いに行くような貴族特有の傲慢さではあるが、それでも、自身に忠誠を誓い、与えた餌を凌駕するほどの対価を返してくれるとなれば、ルリアとて特別に贔屓するし、好きになるわけである。情もあるし、素直に慕ってくれる子供たちは、守るべき宝だとさえ感じる。要するに、メリットデメリットで選んだ自分の選択を誇らしく思うほど、あの街の人たちを愛おしく思っているのだ。
馬車が街につくと、ノーゼルが真っ先に目を見開いて、そして泣きそうな顔をした。美しい街並みを前に、何かを悟った顔だった。
「街の中心には、大きな教会があるんです。ステンドグラスはここの子供たちが、廃棄されるはずのガラス瓶などを使って作ったんですよ。是非見て欲しいんです」
キラキラとした瞳で街のことを語るルリアに驚いたように目を見張ったのはノーゼルだけでなく、偏見だけで彼女を見てきたルーカスもだった。マリアは俯きながら地面を歩いており、なにも言葉を発さない。
「あー!!」
不意に大きな声が聞こえ、ルリア達は反射的に声の方に目を向けた。
そこには何人かの子供が驚いたような顔をしてこちらを見ており、「ルリアさまだ!!」「ルリア様ー!!」「ルリアさま、なんでここに!?」と口々に彼女の名を呼び、駆け寄ってくる。
「アンナさん、ノット君。それにホイルくんも。お手伝いですか」
「うん!!ねーねー聞いてよ、わたしね、こないだ学校でいちばんになったの!!なんだと思う!?」
「あ、おいアンナ!!ずるい!!ルリア様、おれ父さんにやっと畑を貰ったんだよ!!」
「ぼくねっ、ルリア様からもらったご本大事にしてるよ!あとね、あとねっ」
「ふふっ、落ち着いて。私は逃げたりしないから。アンナさんは、そうね~…とっても身軽だから、かけっことか?」
「正解!すごーい、なんでわかるの?」
「分かるのよ。大人だから。ノット君は畑でなにを育ててるの?」
「カボチャ!寒くなってきたら収穫するんだ、ルリア様にもけんじょうするね!」
「ありがとうございます。楽しみにしてるね。ホイルくんも、本を大事にしてくれてありがとう。本は好き?」
「だいすき!」
「……そう。じゃあみんなにだけ秘密に教えてしまうのだけれど、実はみんなが通っている学校にね、図書室ができるのよ。そこには、お姫様のお話も、勇者の冒険譚も、動物たちの日常も、何もかもが詰まってるの。素敵でしょう?」
子供たちが声にならない歓声をあげて、「ありがとう、ルリアさま!」「秘密にするね!」と抱きついてくる。それを優しい顔で抱きしめるルリアを見て、ルーカスの瞳を覆っていた曇りが、少し晴れたように透き通っていた。ノーゼルはなにを思っているのか、曖昧な表情でその光景を見ており、大きな緑の目の下にはクマができてきる。マリアは相変わらず黙り込んでいた。
街は晴れ。教会の通り道には、ノーゼルの生まれた家もある。彼等の視察はまだまだ始まったばかりであった。
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