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第一話・誕生日パーティ
しおりを挟む第三王子のアルフレッドは、変わり者として有名な子供だった。
金色に輝く見事なブロンドヘアと、海のように鮮やかな青い瞳。母方の美貌を受け継いだ華やかな面立ちは、まだ少年特有の中性的な要素が抜け切っていないものの、将来への期待を存分に高める華やかさである。
誰もが認めざるを得ない、美形の王子。剣技に明るく、政治への造詣も深く、第三王子でありながら彼を国王にと推す声も上がるほどだった。優秀な兄達に引けを取らない才色兼備な王子には、しかし、一つだけ弱点が存在する。
恵まれた才能と王子の資質を持っていながら、女装趣味があるのだ。何でも生まれた時からおかしな言動ばかりを繰り返す困り者だったらしく、言葉が流暢になっだ瞬間、「あたし」と自分のことを称したらしい。齢10歳にして大人びた雰囲気と紅顔の愛らしい顔立ちは令嬢達にも人気なのだが、唯一その女々しい言動と女装癖が傷である。
このまま順当にいけば、マリアナはこの女装王子と結婚することになるだろう。公表はしていないものの、家同士はもう内々に婚約を約束しており、現王がワットソンに取り入ろうと多額の金まで“寄付”してきているのだ。多少の障害があろうとも、マリアナとアルフレッドは結婚する運命にあった。
正直に言えば、マリアナはアルフレッドのことが嫌いだった。
実際に会ったことはない。本日行われる10歳の誕生日パーティで初めて顔を合わせるのだ。会ったこともない人間を嫌うなんて、と思うかもしれないが、なんせアルフレッドはオカマ野郎として有名な変態王子。いくら美貌の王位継承権持ちと言えども、なよなよくねくねした男なんてお断りだった。
精密なガラス細工のような美しい顔で、彼女はため息を吐いた。憂鬱な気分のせいか馬車に揺られているのもあっという間のことで、目の前には瀟洒な作りの凱旋門が広がっている。そばにいた憲兵に手を借りながら降りると、マリアナはブスくれた顔のまま会場へと向かった。すれ違い様にこちらを見てくるいかにも田舎臭い貴族共にニコリと微笑んでやると、うっとり目を細めて蕩けるのだけが面白かった。言い換えれば、それ以外の全てが目障りで、面白くない。
「あっ」
父と母に置いてけぼりにされたまま佇んでいると、不意に間抜けな声が聞こえて来た。
振り返るとそこには三人組の男女が固まっており、目が合った瞬間驚いたような顔をされる。
「まあまあ皆様、ご機嫌よう。お初にお目にかかります、マリアナ・ワットソンですわ。今宵は我が国の太陽、アルフレッド様の誕生日ですね。お見かけしない顔ですが、どこかでお会いしたことでも?」
名乗りもしないで間抜けな顔を晒す三人の子供を完全に見下しながら、簡素な挨拶を口にする。
嫌味のない、完璧に整った笑みを浮かべたマリアンヌに向かって、一人の少年がこう言った。
「いや、そういうのいいから。分かってるからもう」
大きなタレ目と桃色のほっぺを持つ美少年が、うんざりしたように顔を顰める。生まれてこの方そんな無礼な態度を取られたことがなかったマリアナの笑顔が、不愉快そうに歪んだ。
「うわー、生マリアナってこんな可愛いんだ」
「ロリマリアナたそ……」
「見た目マリアナでもどうせエクラブオタクだぞ」
「アンタもでしょ」
貴族の子供らしくない、軽快で下品な言葉遣いに、ますます顔を顰める。
「挨拶もしないなんて、一体どこの田舎の出かしら。私が誰かを知っての狼藉なら大したものね。言葉を交わす価値もないわ。それよりも、アルフレッド王子はどちらにいらっしゃるの?」
「……ぇ…」
目の前の三人が、きょとんと瞳を丸くした。
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