34 / 48
WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける
💰ATTENTION PLEASE
しおりを挟む
「ジュハ! 殺人蜂が二、いや三匹!」
「はい!」
その名の通り人を殺せるサイズ……には及ばないが、ラウンドシールドにコイン大の穴を空ける程度には巨大な針をお尻につけた、蜂型モンスターが飛来する。
ここは静かな湖畔のダンジョンでも人気のエリア。
湖を中心にエリア面積が広く、見晴らしも良いことから、比較的安全度が高いことが人気の理由だ。
冒険者も人の子、命より大切なものはない。
安全度が高いエリアで地道に実力を積み上げ、ゆっくりと冒険者として成長していくという選択肢。
クランなどの後ろ盾を持たない、フリーの冒険者たちが取り勝ちなコースである。
当然ながら、人が多いということはライバルとモンスターの取り合いとなるわけで、魔光石の稼げるスピードは全く期待できない。
それがわかっているから、普段のダリス達は敵が強くて魔光石が大きい、限られた冒険者しか来れない奥地へと進み、全滅=死というリスクを背負いながらモンスターを狩っている。
ならば、今さらこんな場所で何をしているのか。
ダリスはチトセの授業を思い出す。
――Attention(認知)
「AIDAは『最も古い購買行動モデル』なんて呼ばれているんだけど、それでも提唱されたのは1920年代。ラジオをあるけどテレビはない、くらいの時代をイメージしてみて。
新聞広告や看板広告を中心とした広告展開。当時の企業は広告によって消費者に『認知』を促してたってわけ。だけど、どうやらこの世界にはまだ『広告』という概念がないみたい。
だったら、どうやって『認知』させたらいいのか、を考えればいい」
ダリスが出した結論は『実演販売』だった。
本当にテーブルを前にして「いくわよ」と実演販売をするわけではない。
ターゲットが集まっている場所――つまりはダンジョンで、モンスター相手にうろこの盾の性能を冒険者たちに見せつけるのだ。
このクールで画期的なアイデアをチトセに伝えると、
「やり口がステマくさい。けど、異世界だし、ネットも無いから別にいいけど」
と苦笑いされた。
ステマってなんだっけ。聞いたことがあるような、ないような。
キラービーの針を、ジュハがうろこの盾で受ける。
角度的にも、速度的にも、おそらく体捌きだけでもかわせただろう。
しかし今回は、なるべく盾で受けるようにとジュハに指示を出しておいた。
針はうろこの盾の凹凸に弾かれ、キラービーが体勢を崩す。
そこを狙って、チトセの大剣が一閃。
キラービーは炎に巻かれながら真っ二つになった。
瞬く間にモンスターの群れは退治された。
頑強なうろこによって作り上げた盾には、かすり傷の一つもついていない。
「あ、あのっ!」
若い青年の声。
ショートソードにラウンドシールド、ハードレザーアーマー。
ジュハと同じく典型的な軽戦士の見た目をした冒険者が声を掛けてきた。
「僕、ですか?」
「突然すみません。もしかして……神速のジュハさんですか?」
エサに反応あり。
ダリスが『実演販売』を思いついた理由の一つはコレだ。
街でダリスが『奴隷遣い』と呼ばれるように、『神速のジュハ』も回避型タンクとして名前が知られてきている。
それは広告塔としても活用できる、ということだ。
「やっぱりそうだ! ジュハさん、その盾……見た目はちょっと怖いですけど、キラービーの針も弾いちゃうなんて凄いですね」
やはり見た目の問題は今後の大きな課題だ。
だけど、このうろこの盾には、外見のマイナスを補って余りある魅力が詰まっている。それをジュハが伝えてくれれば、Attention(認知)はInterest(興味、関心)に繋がっていくハズ。
「そうなんですよ。キラービーの針どころか、バクラージの角ミサイルだって弾いちゃうんですから」
「角……ミサイル?」
あっ、ジュハのバカ!
全然うろこの盾と関係ないところに引っ掛かってしまった。
角ミサイルは造語だから伝わらないぞ。
そもそもこの世界には『ミサイル』という概念がない。ダリスがなんとなくノリで呼んでいたらパーティーの中で浸透してしまっただけだ。
「あっ、角です、角! バクラージが飛ばしてくる角のことです。僕なんて、あれに何度ラウンドシールドを割られたことか……。でも、この『うろこの盾』なら大丈夫。なぜなら、硬質で有名なモンスターの鱗が使われているんですから」
「モンスターの鱗!?」
「そうです。堅くて軽い、モンスターの鱗です。だからこそ、この盾は軽戦士でも装備できる軽さと、金属製の盾にも負けない頑強さを兼ね備えることができているんです。…………ちょっと、持ってみますか?」
モンスターの鱗が使われていると聞いて身構えていた冒険者だが、好奇心に負けたのか、断れない性格なのか、ジュハが差し出した盾をおずおずと受け取った。
「うわっ。軽い。ラウンドシールドより少し重たいくらいで、金属製の盾とは比べ物にならない軽さだ」
冒険者は盾を上げたり、下げたり。
盾の前面にある鱗を撫でてみたり。
すっかり興味津々だ。
「まるで金属みたいな硬さ。それに鱗の特性を生かして丸みをつけてある。これがキラービーの針を受け流すように弾いた仕掛けか……」
つい最近、全く同じ感想をジュハから聞いたな。
冒険者はしばらく吟味していたうろこの盾をジュハへと返却しながら、
「すごい。ジュハさん、この盾ってどこで手に入るんですか?」
と訪ねてきた。
Interest(興味、関心)からDesire(欲求)へと購買行動が進んだ瞬間だった。
💰Tips
【実演販売】
主に百貨店やデパート、ショッピングセンターなどの一角で、道行く不特定多数のお客に対して実際に商品を使用するところを見せながら販売する手法。
起源は平安時代とも室町時代とも言われているが、有名なものは江戸時代に始まった『ガマの油売り』や、明治時代に始まった『バナナの叩き売り』だろう。
テレビ通販の登場によって、より多くの人々に実演販売の手法を応用することで、大ヒット商品がいくつも生まれた。同時にカリスマ実演販売士と呼ばれるタレントも登場するようになった。
最近では、動画配信を利用して商品を販売する実演販売士も増えている。
「はい!」
その名の通り人を殺せるサイズ……には及ばないが、ラウンドシールドにコイン大の穴を空ける程度には巨大な針をお尻につけた、蜂型モンスターが飛来する。
ここは静かな湖畔のダンジョンでも人気のエリア。
湖を中心にエリア面積が広く、見晴らしも良いことから、比較的安全度が高いことが人気の理由だ。
冒険者も人の子、命より大切なものはない。
安全度が高いエリアで地道に実力を積み上げ、ゆっくりと冒険者として成長していくという選択肢。
クランなどの後ろ盾を持たない、フリーの冒険者たちが取り勝ちなコースである。
当然ながら、人が多いということはライバルとモンスターの取り合いとなるわけで、魔光石の稼げるスピードは全く期待できない。
それがわかっているから、普段のダリス達は敵が強くて魔光石が大きい、限られた冒険者しか来れない奥地へと進み、全滅=死というリスクを背負いながらモンスターを狩っている。
ならば、今さらこんな場所で何をしているのか。
ダリスはチトセの授業を思い出す。
――Attention(認知)
「AIDAは『最も古い購買行動モデル』なんて呼ばれているんだけど、それでも提唱されたのは1920年代。ラジオをあるけどテレビはない、くらいの時代をイメージしてみて。
新聞広告や看板広告を中心とした広告展開。当時の企業は広告によって消費者に『認知』を促してたってわけ。だけど、どうやらこの世界にはまだ『広告』という概念がないみたい。
だったら、どうやって『認知』させたらいいのか、を考えればいい」
ダリスが出した結論は『実演販売』だった。
本当にテーブルを前にして「いくわよ」と実演販売をするわけではない。
ターゲットが集まっている場所――つまりはダンジョンで、モンスター相手にうろこの盾の性能を冒険者たちに見せつけるのだ。
このクールで画期的なアイデアをチトセに伝えると、
「やり口がステマくさい。けど、異世界だし、ネットも無いから別にいいけど」
と苦笑いされた。
ステマってなんだっけ。聞いたことがあるような、ないような。
キラービーの針を、ジュハがうろこの盾で受ける。
角度的にも、速度的にも、おそらく体捌きだけでもかわせただろう。
しかし今回は、なるべく盾で受けるようにとジュハに指示を出しておいた。
針はうろこの盾の凹凸に弾かれ、キラービーが体勢を崩す。
そこを狙って、チトセの大剣が一閃。
キラービーは炎に巻かれながら真っ二つになった。
瞬く間にモンスターの群れは退治された。
頑強なうろこによって作り上げた盾には、かすり傷の一つもついていない。
「あ、あのっ!」
若い青年の声。
ショートソードにラウンドシールド、ハードレザーアーマー。
ジュハと同じく典型的な軽戦士の見た目をした冒険者が声を掛けてきた。
「僕、ですか?」
「突然すみません。もしかして……神速のジュハさんですか?」
エサに反応あり。
ダリスが『実演販売』を思いついた理由の一つはコレだ。
街でダリスが『奴隷遣い』と呼ばれるように、『神速のジュハ』も回避型タンクとして名前が知られてきている。
それは広告塔としても活用できる、ということだ。
「やっぱりそうだ! ジュハさん、その盾……見た目はちょっと怖いですけど、キラービーの針も弾いちゃうなんて凄いですね」
やはり見た目の問題は今後の大きな課題だ。
だけど、このうろこの盾には、外見のマイナスを補って余りある魅力が詰まっている。それをジュハが伝えてくれれば、Attention(認知)はInterest(興味、関心)に繋がっていくハズ。
「そうなんですよ。キラービーの針どころか、バクラージの角ミサイルだって弾いちゃうんですから」
「角……ミサイル?」
あっ、ジュハのバカ!
全然うろこの盾と関係ないところに引っ掛かってしまった。
角ミサイルは造語だから伝わらないぞ。
そもそもこの世界には『ミサイル』という概念がない。ダリスがなんとなくノリで呼んでいたらパーティーの中で浸透してしまっただけだ。
「あっ、角です、角! バクラージが飛ばしてくる角のことです。僕なんて、あれに何度ラウンドシールドを割られたことか……。でも、この『うろこの盾』なら大丈夫。なぜなら、硬質で有名なモンスターの鱗が使われているんですから」
「モンスターの鱗!?」
「そうです。堅くて軽い、モンスターの鱗です。だからこそ、この盾は軽戦士でも装備できる軽さと、金属製の盾にも負けない頑強さを兼ね備えることができているんです。…………ちょっと、持ってみますか?」
モンスターの鱗が使われていると聞いて身構えていた冒険者だが、好奇心に負けたのか、断れない性格なのか、ジュハが差し出した盾をおずおずと受け取った。
「うわっ。軽い。ラウンドシールドより少し重たいくらいで、金属製の盾とは比べ物にならない軽さだ」
冒険者は盾を上げたり、下げたり。
盾の前面にある鱗を撫でてみたり。
すっかり興味津々だ。
「まるで金属みたいな硬さ。それに鱗の特性を生かして丸みをつけてある。これがキラービーの針を受け流すように弾いた仕掛けか……」
つい最近、全く同じ感想をジュハから聞いたな。
冒険者はしばらく吟味していたうろこの盾をジュハへと返却しながら、
「すごい。ジュハさん、この盾ってどこで手に入るんですか?」
と訪ねてきた。
Interest(興味、関心)からDesire(欲求)へと購買行動が進んだ瞬間だった。
💰Tips
【実演販売】
主に百貨店やデパート、ショッピングセンターなどの一角で、道行く不特定多数のお客に対して実際に商品を使用するところを見せながら販売する手法。
起源は平安時代とも室町時代とも言われているが、有名なものは江戸時代に始まった『ガマの油売り』や、明治時代に始まった『バナナの叩き売り』だろう。
テレビ通販の登場によって、より多くの人々に実演販売の手法を応用することで、大ヒット商品がいくつも生まれた。同時にカリスマ実演販売士と呼ばれるタレントも登場するようになった。
最近では、動画配信を利用して商品を販売する実演販売士も増えている。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる