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第5章
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侯爵家からカイゼルとユアンの元へ、書簡と小包が届けられた。
ユアンから父の元へ、暫くは辺境領で辺境伯の仕事を補佐すると、書簡を届けたことへの返信だった。
侯爵からのカイゼルへの書簡には、謝意とユアンをよろしくお願いする旨、ユアンが辺境へいることは、内密にしている事などが記されていた。
ユアンがカイゼルの元へいることが公になると、それがどんな理由であれ、社交界では様々な臆測がなされる。
カイゼルは何と噂されようが構わないが、ユアンにとっては、そうではない。侯爵同様、ユアンのことは辺境でも公にはされていなかった。
使用人、騎士達、辺境の邸にいる全ての者には、ユアンについて箝口令が敷かれている。
ユアンへ届けられた小包には、母からの手紙と、いつも服用している薬が多めに入れられていた。
「孕み子」であるユアンには欠かせない薬だ。
本来ならば、ラグアルと婚姻後、この薬の服用も終わる予定だった。
いつまで飲み続ければいいのか、ユアンには先が見えない。
「マリは、リヒトが大好きなんだよね。」
「そうだよ~。リヒトかっこいいでしょ。マリの王子様だよ。毎日結婚してってお願いしてるの。」
「ふふふ。結婚できるといいね。」
「ユアン様には、カイゼル様がいるでしょ~。」
「!?」
「大丈夫!マリ、誰にも言わないよ!マリ、わかってるから!」
「…………???」
ユアンとマリは、仲がいい。
一応、マリはユアンの専属護衛騎士とされているが、たいがいユアンはカイゼルといるし、この邸が襲われるようなこともない。
護衛とは名ばかりで、変な話しだが、ここに友人がいないユアンにとって、マリは友人のような存在だ。
カイゼルも、その辺りを見込んで、マリをユアンの護衛としていた。
ここに暫く滞在することになり、他の騎士達にもユアンは紹介されている。
マリがユアンの専属と指名されると、皆、がっかりとしていたのをユアンは知らない。
3日前から、カイゼルはここにいない。マリやリヒトをここに残し、他の騎士達を連れ、王宮へ登城している。
忘れていた訳ではないが、カイゼルが王弟であることを、ユアンは改めて実感した。
辺境での生活も3ヶ月目となり、日中でも空気は冷んやりとし、夜は冷え込む程寒くなってきている。
カイゼルが登城した辺りから、ユアンはなんとなく身体に異変を感じていた。
皮膚の表面は寒いのに、体内は熱っぽい。
それでも、寝込む程の辛さはなく、いつもと同じように日常を過ごしていた。
ぶるぶるっと震えると、寝台へと潜り込み、小さく身体を丸める。
嫌な夢を見ることは、あの日からほとんどなくなった。
どんなにラグアルを請うても、もう過去には戻れない。
扉一枚を隔てて、ラグアルが『運命の番』と番った瞬間、ユアンはその場にいたのだから。
カイゼルの胸の中で、泣きに泣いたあの日を境に、ユアンはラグアルとのことを、少しずつ、少しずつ、過去のものとしてきた。
ユアンは、ラグアルの事を確かに愛していた。
そう、愛していた。
明後日には、カイゼルが帰ってくる。
カイゼルがいない執務室は広すぎる。
執務室どころか、どこもかしこも広すぎる。
…………こんなに、寒くて、熱いのは、カイゼル様のせいだ。
どんどん高まる体内の熱に、ユアンは、これはカイゼルのせいだと、
だから、早く帰って来てと、小さく丸まって、その時を待っていた。
翌朝、ユアンの部屋を訪れた使用人が、慌てて執事の元へと駆け込んできた。
「大変でございます!ユアン様が!」
寝台の上には、全身を紅潮させ、苦しそうに身を捩るユアンの姿があった。
すぐに駆け付けた執事に続き、急遽呼び出されたリヒトとマリも駆け付けた。
マリが部屋に飛び込むと、
はあ、はあ、と吐く息すら、熱を帯びる程、ユアンが苦しんでいる。
「すぐに、医者を!」
マリが医者を呼びに部屋を出ようとすると、部屋の前に立ちすくむリヒトがいた。
「リヒト?」
「マリ、駄目だ。俺は、これ以上中に入ることはできない…。ここにいる事すら、正直きつい。」
リヒトは、苦しそうに顔を歪めると、その口と鼻を手で抑えた。
「リヒト?どうしたの?ユアン様が!」
「医者を呼んでも無駄だ。」
リヒトは首を横に振る。
「なんで!あんなに、苦しそうなのに!どうしてっ!」
「マリ、お前もわかるだろう!何度も見て来たはずだ!」
「そんな、まさか。だって、薬、ちゃんと、飲んでるよ、ユアン、さま……」
「しっかりしろ、マリ!今ここにカイゼル様はいない。俺にも、他の騎士にもどうする事もできない!ユアン様をお守りしろ!お前しかできない!」
「そんな、リヒト、ユアン様は……」
「そうだ。ユアン様は、発情している。」
マリは大きく目を見開いた。
早く、カイゼル様を呼び戻さなければならない。
互いに目を見合わせ頷き合うと、2人は直ぐに動き出した。
ユアンから父の元へ、暫くは辺境領で辺境伯の仕事を補佐すると、書簡を届けたことへの返信だった。
侯爵からのカイゼルへの書簡には、謝意とユアンをよろしくお願いする旨、ユアンが辺境へいることは、内密にしている事などが記されていた。
ユアンがカイゼルの元へいることが公になると、それがどんな理由であれ、社交界では様々な臆測がなされる。
カイゼルは何と噂されようが構わないが、ユアンにとっては、そうではない。侯爵同様、ユアンのことは辺境でも公にはされていなかった。
使用人、騎士達、辺境の邸にいる全ての者には、ユアンについて箝口令が敷かれている。
ユアンへ届けられた小包には、母からの手紙と、いつも服用している薬が多めに入れられていた。
「孕み子」であるユアンには欠かせない薬だ。
本来ならば、ラグアルと婚姻後、この薬の服用も終わる予定だった。
いつまで飲み続ければいいのか、ユアンには先が見えない。
「マリは、リヒトが大好きなんだよね。」
「そうだよ~。リヒトかっこいいでしょ。マリの王子様だよ。毎日結婚してってお願いしてるの。」
「ふふふ。結婚できるといいね。」
「ユアン様には、カイゼル様がいるでしょ~。」
「!?」
「大丈夫!マリ、誰にも言わないよ!マリ、わかってるから!」
「…………???」
ユアンとマリは、仲がいい。
一応、マリはユアンの専属護衛騎士とされているが、たいがいユアンはカイゼルといるし、この邸が襲われるようなこともない。
護衛とは名ばかりで、変な話しだが、ここに友人がいないユアンにとって、マリは友人のような存在だ。
カイゼルも、その辺りを見込んで、マリをユアンの護衛としていた。
ここに暫く滞在することになり、他の騎士達にもユアンは紹介されている。
マリがユアンの専属と指名されると、皆、がっかりとしていたのをユアンは知らない。
3日前から、カイゼルはここにいない。マリやリヒトをここに残し、他の騎士達を連れ、王宮へ登城している。
忘れていた訳ではないが、カイゼルが王弟であることを、ユアンは改めて実感した。
辺境での生活も3ヶ月目となり、日中でも空気は冷んやりとし、夜は冷え込む程寒くなってきている。
カイゼルが登城した辺りから、ユアンはなんとなく身体に異変を感じていた。
皮膚の表面は寒いのに、体内は熱っぽい。
それでも、寝込む程の辛さはなく、いつもと同じように日常を過ごしていた。
ぶるぶるっと震えると、寝台へと潜り込み、小さく身体を丸める。
嫌な夢を見ることは、あの日からほとんどなくなった。
どんなにラグアルを請うても、もう過去には戻れない。
扉一枚を隔てて、ラグアルが『運命の番』と番った瞬間、ユアンはその場にいたのだから。
カイゼルの胸の中で、泣きに泣いたあの日を境に、ユアンはラグアルとのことを、少しずつ、少しずつ、過去のものとしてきた。
ユアンは、ラグアルの事を確かに愛していた。
そう、愛していた。
明後日には、カイゼルが帰ってくる。
カイゼルがいない執務室は広すぎる。
執務室どころか、どこもかしこも広すぎる。
…………こんなに、寒くて、熱いのは、カイゼル様のせいだ。
どんどん高まる体内の熱に、ユアンは、これはカイゼルのせいだと、
だから、早く帰って来てと、小さく丸まって、その時を待っていた。
翌朝、ユアンの部屋を訪れた使用人が、慌てて執事の元へと駆け込んできた。
「大変でございます!ユアン様が!」
寝台の上には、全身を紅潮させ、苦しそうに身を捩るユアンの姿があった。
すぐに駆け付けた執事に続き、急遽呼び出されたリヒトとマリも駆け付けた。
マリが部屋に飛び込むと、
はあ、はあ、と吐く息すら、熱を帯びる程、ユアンが苦しんでいる。
「すぐに、医者を!」
マリが医者を呼びに部屋を出ようとすると、部屋の前に立ちすくむリヒトがいた。
「リヒト?」
「マリ、駄目だ。俺は、これ以上中に入ることはできない…。ここにいる事すら、正直きつい。」
リヒトは、苦しそうに顔を歪めると、その口と鼻を手で抑えた。
「リヒト?どうしたの?ユアン様が!」
「医者を呼んでも無駄だ。」
リヒトは首を横に振る。
「なんで!あんなに、苦しそうなのに!どうしてっ!」
「マリ、お前もわかるだろう!何度も見て来たはずだ!」
「そんな、まさか。だって、薬、ちゃんと、飲んでるよ、ユアン、さま……」
「しっかりしろ、マリ!今ここにカイゼル様はいない。俺にも、他の騎士にもどうする事もできない!ユアン様をお守りしろ!お前しかできない!」
「そんな、リヒト、ユアン様は……」
「そうだ。ユアン様は、発情している。」
マリは大きく目を見開いた。
早く、カイゼル様を呼び戻さなければならない。
互いに目を見合わせ頷き合うと、2人は直ぐに動き出した。
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