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第7章
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緊張を隠せないまま王の私室へと入るユアンを、王は普段見ることのないゆったりと寛いだ様子で迎えた。
孕み子でもある王配の茶会に呼ばれ、ユアンは何度か王宮を訪れたことがある。
それ故、王への面識もあったが、王と2人きりで対面するのは初めてのことだ。
ここは、王族の私的な空間だ。
本来なら、決して足を踏み入れることなどできない。
想像していたよりも落ち着いた雰囲気のその空間は、王宮内の華やかさと相まり、この場が王の私的な空間であることをより強くユアンへと認識させた。
「そのように固くなる必要はない。とりあえず、そこに座れ。」
王に促されるまま、ユアンは静かに腰を下ろした。
部屋の中には、今までユアンが嗅いだことのないような不思議な香りが漂っている。
どこか異国を思わせる、不思議な香りだ。
「これはな、なかなかに苦くてな、あれにもカイゼルにも不評なのだ。そなたにも勧めたいのだが、カイゼルに怒られそうだからな。」
王が嗜む紅茶は大層に濃い色で、不思議な香りはそこから漂うものだった。
「……此度のことは、災難であったな。」
一瞬ユアンには何の事か分からなかった。
ユアンにとっては、あの出来事が、それ程に遠い過去の出来事となっていた。
「……………………………?」
「あれも、そなたのことを大層心配しておった。」
「…………あ、その………ご心配をお掛けして、大変申し訳ございませんでした。」
「そなたが謝ることでもなかろう。」
「ですが、はい。……………………」
ユアンは何と答えていいものか、言葉に詰まった。
「ああ、この話しをするために呼び出した訳ではない。
…そなたにとって、カイゼルは本当に必要な存在なのか?」
やはり、この話しかと、ユアンは思った。
ラグアルとの婚約が解消され、まだ1年にも満たない。
ある意味傷者とも言えるユアンがカイゼルに嫁ぐなど、王はきっと許し難いのだろうと、ユアンはそう思った。
それでも、もう後戻りはできない,
「カイゼル様は……必要な存在です。お側にいたいのです。どうか、お側にいさせて下さい。他には何も、何も望みません。どうか、どうか!」
「何も引き離そうとしている訳ではないと、先程も言ったではないか。」
「ですが、まだ待てと、それは、そう言った意味ではないのでしょうか……」
涙目で懇願するユアンの姿に、カイゼルがユアンを強く欲するその理由が、王には少し分かるような気がした。
「…そなたといれば、カイゼルも分かるやもしれん…」
王の呟きは、ユアンには聞こえていなかった。
「そなたは、知っておくべきかもしれん。」
そう言うと、王は、カイゼルの父である前王、前王妃、そしてカイゼルの母の関係をユアンへと話した。
「ここから先の話しはな、今まで誰にも話したことはない。誰にも話すことはないと、そう思っていた。これから話すことは、そうだな、わたしの独り言だと、そう思って聞けばよい。」
訝し気なユアンに、王は静かに語り出した。
孕み子でもある王配の茶会に呼ばれ、ユアンは何度か王宮を訪れたことがある。
それ故、王への面識もあったが、王と2人きりで対面するのは初めてのことだ。
ここは、王族の私的な空間だ。
本来なら、決して足を踏み入れることなどできない。
想像していたよりも落ち着いた雰囲気のその空間は、王宮内の華やかさと相まり、この場が王の私的な空間であることをより強くユアンへと認識させた。
「そのように固くなる必要はない。とりあえず、そこに座れ。」
王に促されるまま、ユアンは静かに腰を下ろした。
部屋の中には、今までユアンが嗅いだことのないような不思議な香りが漂っている。
どこか異国を思わせる、不思議な香りだ。
「これはな、なかなかに苦くてな、あれにもカイゼルにも不評なのだ。そなたにも勧めたいのだが、カイゼルに怒られそうだからな。」
王が嗜む紅茶は大層に濃い色で、不思議な香りはそこから漂うものだった。
「……此度のことは、災難であったな。」
一瞬ユアンには何の事か分からなかった。
ユアンにとっては、あの出来事が、それ程に遠い過去の出来事となっていた。
「……………………………?」
「あれも、そなたのことを大層心配しておった。」
「…………あ、その………ご心配をお掛けして、大変申し訳ございませんでした。」
「そなたが謝ることでもなかろう。」
「ですが、はい。……………………」
ユアンは何と答えていいものか、言葉に詰まった。
「ああ、この話しをするために呼び出した訳ではない。
…そなたにとって、カイゼルは本当に必要な存在なのか?」
やはり、この話しかと、ユアンは思った。
ラグアルとの婚約が解消され、まだ1年にも満たない。
ある意味傷者とも言えるユアンがカイゼルに嫁ぐなど、王はきっと許し難いのだろうと、ユアンはそう思った。
それでも、もう後戻りはできない,
「カイゼル様は……必要な存在です。お側にいたいのです。どうか、お側にいさせて下さい。他には何も、何も望みません。どうか、どうか!」
「何も引き離そうとしている訳ではないと、先程も言ったではないか。」
「ですが、まだ待てと、それは、そう言った意味ではないのでしょうか……」
涙目で懇願するユアンの姿に、カイゼルがユアンを強く欲するその理由が、王には少し分かるような気がした。
「…そなたといれば、カイゼルも分かるやもしれん…」
王の呟きは、ユアンには聞こえていなかった。
「そなたは、知っておくべきかもしれん。」
そう言うと、王は、カイゼルの父である前王、前王妃、そしてカイゼルの母の関係をユアンへと話した。
「ここから先の話しはな、今まで誰にも話したことはない。誰にも話すことはないと、そう思っていた。これから話すことは、そうだな、わたしの独り言だと、そう思って聞けばよい。」
訝し気なユアンに、王は静かに語り出した。
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