63 / 113
第7章
7
しおりを挟む
王宮を歩く2人に、周囲の人々は目を見張った。
正装に身を包む王弟は猛々しく、正に王族の風格を醸し出している。対照的に、その少し後ろを歩く人物の楚々とした美しさは、より一層際立つ。
なぜ、あの2人が………………
誰しもがそう思った。
王宮で働く貴族たち、騎士、使用人、誰しもが。
なぜ、ユアン様が………………
カイゼルの歩みはいつもよりゆったりとしたものだ。
肩越しから気遣うような視線をユアンへと向けると、ユアンもそれに気付いて、少し微笑む。
控えることすら忘れてしまった人々の様子など気にする素振りもみせず、2人は王の間へと消えていった。
幻でも見ていたのだろうか、やはり誰しもがそう思った。
王も王配も、2人の婚姻を祝福し、書簡にあったように、異を唱えることはなかった。
「一つ、いいか。」
王の言葉にカイゼルが反応する。
「何か、ございますか?」
「婚姻は認める。だが、しかし、まだ待て。」
「待て、とは?」
それまで穏やかだった王の間に、ひりつくような緊張が走る。
ユアンは隣にいるカイゼルを不安気に見上げている。
「このような美しい者の花嫁姿を見たいではないか。暖かい時期に婚姻の儀を取り行えばよい。これからは、寒くなる一方だからな。」
「………早く娶れと、そう言ったことをお忘れで?」
王はふっと笑うと、カイゼルを見据えた。
「それでは問うが、なぜお前はそのように急ぐのだ?」
「………………………………。」
見据える王の目を、カイゼルは鋭い瞳でとらえたまま、何も言うことができない。
「そなたも、良いか?」
ユアンは王に逆らうことなどできない。
「……………は、い。かしこまりました。」
「何もお前たちを引き離そうとしている訳ではない。すでに共に暮らしているではないか。ただ、少し待てと、そう言っているだけだ。婚約期間だと思えばいいではないか。」
カイゼルもユアンも何も言う事ができず、王の言葉にただ平伏するだけだった。
その後、カイゼルはいつものように王の私室へと呼び出された。
王を目前にして、カイゼルの機嫌はすこぶる悪い。
「どういうことでしょうか。すぐ娶ると、そうお伝えしていた筈ですが?」
「なぜ急ぐと、先程も言ったではないか。」
「それは………………。」
「それほど、あの子が欲しいか?」
「……………………‥…………。」
「欲しいものを手に入れて、その後はどうする?お前はそれで満足か?あの子も同じように満足すると、そう思うか?」
カイゼルは何も答えることができない。
「わたしはな、お前を唯一の家族だと思い、見守ってきたつもりだ。
お前もそろそろ分かっていいはずだ。だから婚約期間をおけと、そう言っている。」
カイゼルは王が何を言わんとしているのか、理解できない。
「何を、分かれと……」
「それに気が付かなければ、お前はあの子を幸せにしてやることはできん。」
王は、一体何を言っているのか。
「わたしはな、お前にも幸せになって欲しいのだ。カイゼル、いいな。何と思われてもよい。これは王命だ。」
王の言葉は絶対だ。
カイゼルは、ただそれに従わざるを得ない。
王都から帰れば、すぐにカイゼルの妻になれると思い込んでいたユアンは、王からの言葉に動揺していた。
自分ではカイゼルの妻に相応しくないと思われてしまったのだろうか。
このままカイゼルが戻って来なかったらどうしよう。
1人控え室で待ち続けるユアンに、例えようもない不安が襲いかかる。
どれくらいの時間そうしていたのか、扉を叩く音と共に、カイゼルがユアンの元へと戻って来た。
「…カイゼルさまっ!」
ユアンはすぐにカイゼルの元へと走り寄った。
カイゼルの表情は優れない。
「ユアン、お前は…………。」
わたしといては、幸せになることができないのか?
カイゼルは、王の言うことが分からない。
しかし、王は分かれと言う。分からなければ、ユアンは幸せにはなれないと。
不思議そうに見上げるユアンを、カイゼルは欲しいのだ。
それの何がいけないのか。
「………王が、お前にも話しがあると、お前を呼んでいる。」
「わたし、1人で、ですか?」
「ああ、大丈夫か?」
「………………………………はい。」
不安気なユアンをカイゼルはきつく抱きしめる。
「大丈夫だ。何も心配しなくていい。」
自分に言い聞かせるように、カイゼルは呟く。
「……………では、行って参ります。」
カイゼルの姿に後ろ髪を引かれる思いで、ユアンは控え室を出た。
そして、何が起こっているのか全く分からない不安に襲われながら、王が待つという、その部屋へと1人足を踏み出した。
正装に身を包む王弟は猛々しく、正に王族の風格を醸し出している。対照的に、その少し後ろを歩く人物の楚々とした美しさは、より一層際立つ。
なぜ、あの2人が………………
誰しもがそう思った。
王宮で働く貴族たち、騎士、使用人、誰しもが。
なぜ、ユアン様が………………
カイゼルの歩みはいつもよりゆったりとしたものだ。
肩越しから気遣うような視線をユアンへと向けると、ユアンもそれに気付いて、少し微笑む。
控えることすら忘れてしまった人々の様子など気にする素振りもみせず、2人は王の間へと消えていった。
幻でも見ていたのだろうか、やはり誰しもがそう思った。
王も王配も、2人の婚姻を祝福し、書簡にあったように、異を唱えることはなかった。
「一つ、いいか。」
王の言葉にカイゼルが反応する。
「何か、ございますか?」
「婚姻は認める。だが、しかし、まだ待て。」
「待て、とは?」
それまで穏やかだった王の間に、ひりつくような緊張が走る。
ユアンは隣にいるカイゼルを不安気に見上げている。
「このような美しい者の花嫁姿を見たいではないか。暖かい時期に婚姻の儀を取り行えばよい。これからは、寒くなる一方だからな。」
「………早く娶れと、そう言ったことをお忘れで?」
王はふっと笑うと、カイゼルを見据えた。
「それでは問うが、なぜお前はそのように急ぐのだ?」
「………………………………。」
見据える王の目を、カイゼルは鋭い瞳でとらえたまま、何も言うことができない。
「そなたも、良いか?」
ユアンは王に逆らうことなどできない。
「……………は、い。かしこまりました。」
「何もお前たちを引き離そうとしている訳ではない。すでに共に暮らしているではないか。ただ、少し待てと、そう言っているだけだ。婚約期間だと思えばいいではないか。」
カイゼルもユアンも何も言う事ができず、王の言葉にただ平伏するだけだった。
その後、カイゼルはいつものように王の私室へと呼び出された。
王を目前にして、カイゼルの機嫌はすこぶる悪い。
「どういうことでしょうか。すぐ娶ると、そうお伝えしていた筈ですが?」
「なぜ急ぐと、先程も言ったではないか。」
「それは………………。」
「それほど、あの子が欲しいか?」
「……………………‥…………。」
「欲しいものを手に入れて、その後はどうする?お前はそれで満足か?あの子も同じように満足すると、そう思うか?」
カイゼルは何も答えることができない。
「わたしはな、お前を唯一の家族だと思い、見守ってきたつもりだ。
お前もそろそろ分かっていいはずだ。だから婚約期間をおけと、そう言っている。」
カイゼルは王が何を言わんとしているのか、理解できない。
「何を、分かれと……」
「それに気が付かなければ、お前はあの子を幸せにしてやることはできん。」
王は、一体何を言っているのか。
「わたしはな、お前にも幸せになって欲しいのだ。カイゼル、いいな。何と思われてもよい。これは王命だ。」
王の言葉は絶対だ。
カイゼルは、ただそれに従わざるを得ない。
王都から帰れば、すぐにカイゼルの妻になれると思い込んでいたユアンは、王からの言葉に動揺していた。
自分ではカイゼルの妻に相応しくないと思われてしまったのだろうか。
このままカイゼルが戻って来なかったらどうしよう。
1人控え室で待ち続けるユアンに、例えようもない不安が襲いかかる。
どれくらいの時間そうしていたのか、扉を叩く音と共に、カイゼルがユアンの元へと戻って来た。
「…カイゼルさまっ!」
ユアンはすぐにカイゼルの元へと走り寄った。
カイゼルの表情は優れない。
「ユアン、お前は…………。」
わたしといては、幸せになることができないのか?
カイゼルは、王の言うことが分からない。
しかし、王は分かれと言う。分からなければ、ユアンは幸せにはなれないと。
不思議そうに見上げるユアンを、カイゼルは欲しいのだ。
それの何がいけないのか。
「………王が、お前にも話しがあると、お前を呼んでいる。」
「わたし、1人で、ですか?」
「ああ、大丈夫か?」
「………………………………はい。」
不安気なユアンをカイゼルはきつく抱きしめる。
「大丈夫だ。何も心配しなくていい。」
自分に言い聞かせるように、カイゼルは呟く。
「……………では、行って参ります。」
カイゼルの姿に後ろ髪を引かれる思いで、ユアンは控え室を出た。
そして、何が起こっているのか全く分からない不安に襲われながら、王が待つという、その部屋へと1人足を踏み出した。
50
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる