運命と運命の人

なこ

文字の大きさ
62 / 113
第7章

6

しおりを挟む
「ユアン様、おめでとう!」

そう言って抱きついて来たのはマリだ。

「ありがとう。マリ。」

「ずっと、ここにいるんだね。」

「うん。ずっと、ここにいる。」

「マリ、こうなるって、そう思ってた。嬉しい!ずっと、ユアン様にお仕えする!」

ユアンとマリはもう一度、ぎゅうっと抱き合った。

「リヒト、マリとリヒトもはやく結婚しよう!」

「…まだ、だめ。しない。」

2人のいつものやり取りだ。ええ、なんでぇ、と不貞腐れるマリも、いつもの事だ。

ふふふと笑いながら、ユアンはこの2人なら知っているだろうと、思う。

前の奥さまは、どんな方だったのか。

一言聞けばいいだけなのに、その一言が聞けない。



明日は、王都へと向かうその日だ。

ユアンは、あの日からずっとカイゼルの部屋で寝ている。

ユアンが眠るまで、カイゼルは寝台には上がらない。

ユアンが寝静まった頃を見計らい、それからそっと寝台へと入る。

長椅子に座って何かを読んでいたり、何か書き物をしているカイゼルの姿を見ながら、いつもは、いつの間にか眠ってしまう。

微睡むユアンは、寝台へと上がるカイゼルの気配を感じ、薄らと目を開けた。

「まだ起きていたのか。眠れないのか?」

首を横に振ると、カイゼルへと抱きつく。

「どうした?明日は早くにここを立つと言っていただろう。早く眠れ。」

優しく髪を撫で上げられ、ユアンの胸はきゅうっと、締め上げられるように苦しくなる。

ラグアルの時には感じたことのない、苦しさだ。

カイゼルはユアンを娶ると言ってくれた。

王都から戻れば、ユアンは名実ともにカイゼルの妻になる。

「……今日は一段と冷えるからな。寒かったか?」

「……寒い」

「ああ、戻ってきたらもう少し暖かい掛け物に変えるか。」

寒くなんてない。苦しいのだ。

「カイゼル様、寒い。」

苦しいとは、言えない。

王都から帰ってきたら、聞いてみよう。

帰ってきたら、いくらでも時間はある。

苦しいのも、きっと今だけで、帰って来たら、きっと大丈夫だ。

カイゼルの腕がユアンの背中に回り込み、ユアンをその懐に抱き寄せる。

「少しは温かいだろう。これで、眠れそうか?」

どうしてこの場所は、ユアンをこんなにも安心させてくれるのだろう。

「……とっても、温かい。……カイゼル様、おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

カイゼルの、深い森林を思わせるような、心地よい匂いに包まれる。

ユアンは、この匂いをずっと前から知っている。

そう、知っている。

カイゼルに聞いたら分かるかもしれない。

何もかも、王都から戻れば、きっと大丈夫。

今いるこの場所に、早く帰ってきたいと、

ユアンは、カイゼルの腕の中で、静かに目を閉じた。













しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...