運命と運命の人

なこ

文字の大きさ
73 / 113
第8章

5

しおりを挟む
「マリ、一体何があったんだ?」

なかなか部屋から出て来ないユアンとカイゼルを待ちきれず、セレンはマリを呼び出した。

侯爵と夫人にとってマリは初対面だが、セレンとマリはマリが王都の騎士団に所属していた頃からの知り合いだ。

マリは花屋で起こった出来事について、騎士らしく簡潔に説明した。

3人は頭を抱え、溜め息をついた。

そこで偶然出くわしたのは、ラグアルの運命の番に間違いないだろう。

「まさか、あの店に行くなど…」

侯爵家でも、ラグアルの相手についてはある程度調べがついている。

ユアンから尋ねられれば話していただろう。ただ、ユアンからラグアルやその相手について何かを尋ねてくるようなことは一切なかった。そのため、あえてその2人の話しには皆触れない様にしていた。

「…あの店が悪い訳ではないの。わかってるのよ。でもそこで、鉢合わせしてしまうなんて…」

「ユアンにもカイゼルにも、その番については何も話していなかったが。カイゼルにしては、珍しいな……。」

カイゼルが見落としていたことを、セレンは不思議に思った。

カイゼルがラグアルばかりに気を取られていたなど、知る由もない。

「あの、まさか、あの場にいた方は、ユアン様の……」

マリの言葉にセレンは頷いた。

「ああ、ユアンの元婚約者が出会った運命の番だ。」

「だから、ユアン様、あんなに…」

「今頃カイゼルが宥めているだろう。気にするな。それより、お前がユアンを守ってくれたと聞いたぞ。ありがとう、マリ。」

「そうだわ。マリさん、ありがとうユアンを守ってくれて。」

「ああ、そうだな。ありがとう。」

侯爵家の皆がマリに感謝していた。

マリがいなければ、ユアンは今こうして普通にここにいることはなかったかもしれない。

「ぼくは、ユアン様の専属護衛だから。」

こんな小さな子が騎士だなんて、と夫人は不思議そうにマリを見ていた。

とても、可愛い子ね。ユアンと2人で並んだら、きっとすごく可愛いわ。

「ユアンはまだかしら?ねえ、マリさん、ちょっと。」

夫人はマリを手招きすると、そのままマリを連れ出した。

「どうしたんだ、あれは?」

「さあ、母上は可愛いものに目がないから。」

セレンは苦笑いした。

夫人とマリが部屋を出て少し経つと、カイゼルとユアンがやって来た。

「ユアン、落ち着いたのか?」

カイゼルの後ろから、ユアンは申し訳なさそうに、顔を出した。

「父上、申し訳ありませんでした。」

「あまり、カイゼル殿に迷惑をかけるでない。」

「まあまあ、父上。それより、カイゼル久しぶりだな。詳しく話しを聞こうじゃないか。」

「ああ、あれも呼んできなさい。一体何をしてるんだ。」

母の姿が見えない。

「母上は?どちらに?」

「ついさっきまでいたんだがな。ユアン、探して来なさい。」

ユアンは、母を呼びに部屋を出た。

母の部屋へ行くと、マリが困惑した様子で母にされるがまま着飾られている。

「母さま、一体何を…?」

「あら、ユアン、おかえりなさい!もう落ち着いたのね!」

母はユアンに抱きつく。

「ええ、申し訳ありませんでした。ご無沙汰してます。それで、一体?」

「マリさんにね、ユアンが着てくれなかったお洋服をあげようと思って。こんなに可愛いのに、ユアンったら全然着てくれなかったじゃない。」

「いや、少し派手というか、可愛いすぎて、ぼくには…」

「見て!マリさん、とっても似合うでしょう!」

ふるふると震えるマリに、ユアンは慌てて母を止める。

「母さま、マリも困っていますから。カイゼル様もお待ちしてるので、はやく戻りましょう!」

「ユアン様、ぼく、どうしよう…」

「マリ、どうしたの?大丈夫?ごめんね。」

「……こんな、こんな可愛いの、ほんとにもらっていいの!?」

「え、マリ、それ欲しいの?」

マリは興奮した様子で、くりくりとした薄桃色の瞳を輝かせている。

「うんっ!とっても可愛いよ~!リヒトと出かけるときに着たいな~。ユアン様のお母様、ありがとう!!」

「とっても似合うわ!ほんとに、可愛い!」

「マリ、可愛い?」

「ええ、ええ、とっても可愛いわ~。」

2人はとても、気が合うようだ。

とりあえずマリが騎士服に着替え終わるのを2人は待った。

さすがに、あの服のままカイゼルの元へマリを戻す訳には行かない。

「ユアン、色々あったのね。」

「母さま…。はい。」

「ユアンは、カイゼル様をお好きなの?それとも、何か責任を感じているの?」

「…カイゼル様のこと、お慕いしています。ずっと、お側にいたいと、そう思ってます。」

「そう。そうなのね。それを聞いて、安心したわ。」

母はいつものように優しく微笑んだ。

年齢を重ねた割には、少女のような、そんな人だ。

「ユアン、あなた幼い頃最後にカイゼル様に会った日のことを覚えている?」

「…………?何か、ありましたか?」

ユアンは記憶を辿ろうとするが、霞がかったように、何も思い出せない。

「カイゼル様にね、遊んでいただいて、疲れて寝ちゃったのよ。カイゼル様の膝の上でね。その後部屋まで運んでいただいて、ユアンったら、そのまましばらく離れようとしないから、焦ったわ。」

「えっ、そんな事ありましたか?」

「そうねえ。次の日にあんな高熱を出したから、忘れてしまったのかしらね。」

「そうなんだ…。そんな事が……。」

ユアンはカイゼルの匂いや、抱きかかえられる感触に覚えがあった。

そうか、そうなんだ。だから、知っていると、そう感じていたのか…。

ユアンは全てが、腑に落ちた感じがした。

「ふふふ。案外、ユアンの初恋はカイゼル様だったのかしらね。」

「???」

「着替え終わりました!ほんとに、これ全部もらっていいの???」

着替えが終わったマリは、いつもの騎士服だ。

「あら、こうしてみると騎士服姿も可愛いわね。ぜ~んぶ、持って帰っていいわよ!さあ、ご挨拶に行かないと。お待たせしてしまったわ。」

3人は、男性陣が待つ部屋へと急いだ。

…初恋?

母の言った言葉の意味が、ユアンにはいまいちピンと来ていなかった。













しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...