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第10章
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「かいに、ん……?」
リオはきょとんとしている。
「……子が、わたしたちの子が、できたんだ。」
ラグアルは心の底から湧き上がる喜びに打ち震えた。
「こど、も……」
今だに状況を理解できないのか、リオは呆然としている。
「そうだよ、リオ!わたしたちの子だ!ああ、なんて事だ!」
リオに抱きつくラグアルからは、抑えきれない興奮が感じられる。
「こども…おれ、に?」
「そうだよ、リオ!リオの中に、わたしとリオの子がいるんだ。今この瞬間にも!」
リオはひゅっと、息を呑んだ。
「食欲がなかったのも、顔色が悪かったのも、きっとそのせいだったんだ。すまなかった、リオ、もう大丈夫だよ。」
興奮するラグアルを医者が落ち着くように宥めるが、ラグアルの興奮はおさまらない。
「父と母にも、皆にも知らせないと!リオ、安静に、安静にしてるんだ!わかったね。」
ラグアルが部屋を出ていくと、リオは医者と2人だけになった。
「どうしよう、子どもなんて、どうしたら…」
不安そうにするリオに、医者は優しく話しかけた。
「大丈夫ですよ、リオ様。初めてのときは、不安になるものです。ここの奥様もそうでした。
ラグアル様もいらっしゃいます。何も不安になることはございません。」
「違う、違う、そうじゃなくて!」
呆然としたまま、リオは首を振り続ける。
医者には、妊娠初期の不安定な姿にしか見えていない。
「リオ様、ただ安静に、穏やかにお過ごしくださいませ。お腹のお子には、それが一番です。」
医者はにっこりと微笑んだ。
慌てた様子で、公爵と夫人がラグアルに連れられ部屋へと入ってくる。
「リオさん、お子ができていたなんて!まあ、まあ、なんて事かしら。もう無理はさせられないわ!」
「そうだな。そうか、子か。わたしたちの孫か……。そうだな、孫か……。決して無理をしちゃいかん。」
「そうですよ。リオは暫く安静に過ごさせます。リオに何かあったら大変だ。」
三人はみな、とても嬉しそうだ。
にこにこと、そわそわとリオを囲んでいる。
なぜそんなに嬉しそうなのか、リオには分からない。
子を宿すことの、何がそんなに嬉しいのだろう。
リオは両親を知らない。
親に愛されることを知らない。
リオの両親は、どんな理由であれ、リオを捨てた。
そんな自分が、親に?子を産む?
リオは、ぞくっとした。
自分の中に、もう1人別の自分が存在しているようで、なんだか恐ろしい。
もたもたとやるべき事を先延ばしにしていたからこんな事になってしまった。
手紙の返信はまだこない。
これからのことを嬉しそうに語り合う公爵家の人々の輪の中で、リオだけが1人、複雑そうに顔を歪めていた。
きっと、妊娠初期の不安定な時期なのだろうと、誰もリオの思っていることなど、想像もしていなかった。
花屋の店の前で顔見知りの配達人から郵便を受け取ると、男は店へと入っていった。
すれ違った公爵家の人物に一瞬驚いたが、なんだか面白いことになりそうな予感がして堪らない。
「おかえり、今日は早いな。」
何も知らないシルビオも、馬鹿なやつだと思う。
「ああ、たまたまな。これ、店の前で預かった。」
「お、ありがとう。」
こいつは昔からそうだ。人が良すぎる。
預かった手紙をシルビオに渡すと、男は2階の部屋に入り鍵をかけた。
男が2階へ姿を消すのを見届けると、シルビオの妻は顔を顰めた。
「ねえ、あなた。あの人いつまでここにいるつもりかしら。」
「そうだな。少しの間と言ってたが、結構経つよな。仕事も、何をしてるのかよくわからないし。」
「ごめんなさい。わたし、あの人のこと、あんまり好きになれないの。いくらあなたの昔からの知り合いとは言え……」
「俺もさ、そんなに仲が良かった訳じゃないんだ。」
リオが公爵家で過ごすようになり、それから少し経った頃、男はここを訪ねてきた。
リオを訪ねて来たようだが、リオはもうここにいないと言うと、リオが住んでいた部屋をそのまま借りたいと言い出した。
渋るシルビオに、少しの間でいいから貸して欲しいと困った様子で懇願され、シルビオは根負けしてしまった。
少しの間と言いながら、もう随分経つ。
妻が子を身籠った。妻が嫌がる男をいつまでもここに置いておく訳にはいかない。
そろそろ出て行ってもらうしかない。
シルビオはそう考えていた。
男は部屋の中で、1通の封を切った。
宛名は、シルビオだ。
「へえ……。」
先程すれ違ったラグアルを思い出すと、男は笑った。
「く、くくく、何だよ。うまくやってるのかと思ったら、そうじゃないんだな。」
リオの怯えた顔や、肌の質感を思い出すと、昂るそれを、扱き始める。
「く、ああ、やっぱり、お前じゃないと、こんなになんないよなあ、リオ…」
リオの中に吐き出す想像をしながら、男は精を吐き出した。
読み終えた手紙をその辺に投げ捨てると、男はリオが使っていたときからそのままの寝台に寝転んで、また1人昂るそれを扱き始めた。
リオはきょとんとしている。
「……子が、わたしたちの子が、できたんだ。」
ラグアルは心の底から湧き上がる喜びに打ち震えた。
「こど、も……」
今だに状況を理解できないのか、リオは呆然としている。
「そうだよ、リオ!わたしたちの子だ!ああ、なんて事だ!」
リオに抱きつくラグアルからは、抑えきれない興奮が感じられる。
「こども…おれ、に?」
「そうだよ、リオ!リオの中に、わたしとリオの子がいるんだ。今この瞬間にも!」
リオはひゅっと、息を呑んだ。
「食欲がなかったのも、顔色が悪かったのも、きっとそのせいだったんだ。すまなかった、リオ、もう大丈夫だよ。」
興奮するラグアルを医者が落ち着くように宥めるが、ラグアルの興奮はおさまらない。
「父と母にも、皆にも知らせないと!リオ、安静に、安静にしてるんだ!わかったね。」
ラグアルが部屋を出ていくと、リオは医者と2人だけになった。
「どうしよう、子どもなんて、どうしたら…」
不安そうにするリオに、医者は優しく話しかけた。
「大丈夫ですよ、リオ様。初めてのときは、不安になるものです。ここの奥様もそうでした。
ラグアル様もいらっしゃいます。何も不安になることはございません。」
「違う、違う、そうじゃなくて!」
呆然としたまま、リオは首を振り続ける。
医者には、妊娠初期の不安定な姿にしか見えていない。
「リオ様、ただ安静に、穏やかにお過ごしくださいませ。お腹のお子には、それが一番です。」
医者はにっこりと微笑んだ。
慌てた様子で、公爵と夫人がラグアルに連れられ部屋へと入ってくる。
「リオさん、お子ができていたなんて!まあ、まあ、なんて事かしら。もう無理はさせられないわ!」
「そうだな。そうか、子か。わたしたちの孫か……。そうだな、孫か……。決して無理をしちゃいかん。」
「そうですよ。リオは暫く安静に過ごさせます。リオに何かあったら大変だ。」
三人はみな、とても嬉しそうだ。
にこにこと、そわそわとリオを囲んでいる。
なぜそんなに嬉しそうなのか、リオには分からない。
子を宿すことの、何がそんなに嬉しいのだろう。
リオは両親を知らない。
親に愛されることを知らない。
リオの両親は、どんな理由であれ、リオを捨てた。
そんな自分が、親に?子を産む?
リオは、ぞくっとした。
自分の中に、もう1人別の自分が存在しているようで、なんだか恐ろしい。
もたもたとやるべき事を先延ばしにしていたからこんな事になってしまった。
手紙の返信はまだこない。
これからのことを嬉しそうに語り合う公爵家の人々の輪の中で、リオだけが1人、複雑そうに顔を歪めていた。
きっと、妊娠初期の不安定な時期なのだろうと、誰もリオの思っていることなど、想像もしていなかった。
花屋の店の前で顔見知りの配達人から郵便を受け取ると、男は店へと入っていった。
すれ違った公爵家の人物に一瞬驚いたが、なんだか面白いことになりそうな予感がして堪らない。
「おかえり、今日は早いな。」
何も知らないシルビオも、馬鹿なやつだと思う。
「ああ、たまたまな。これ、店の前で預かった。」
「お、ありがとう。」
こいつは昔からそうだ。人が良すぎる。
預かった手紙をシルビオに渡すと、男は2階の部屋に入り鍵をかけた。
男が2階へ姿を消すのを見届けると、シルビオの妻は顔を顰めた。
「ねえ、あなた。あの人いつまでここにいるつもりかしら。」
「そうだな。少しの間と言ってたが、結構経つよな。仕事も、何をしてるのかよくわからないし。」
「ごめんなさい。わたし、あの人のこと、あんまり好きになれないの。いくらあなたの昔からの知り合いとは言え……」
「俺もさ、そんなに仲が良かった訳じゃないんだ。」
リオが公爵家で過ごすようになり、それから少し経った頃、男はここを訪ねてきた。
リオを訪ねて来たようだが、リオはもうここにいないと言うと、リオが住んでいた部屋をそのまま借りたいと言い出した。
渋るシルビオに、少しの間でいいから貸して欲しいと困った様子で懇願され、シルビオは根負けしてしまった。
少しの間と言いながら、もう随分経つ。
妻が子を身籠った。妻が嫌がる男をいつまでもここに置いておく訳にはいかない。
そろそろ出て行ってもらうしかない。
シルビオはそう考えていた。
男は部屋の中で、1通の封を切った。
宛名は、シルビオだ。
「へえ……。」
先程すれ違ったラグアルを思い出すと、男は笑った。
「く、くくく、何だよ。うまくやってるのかと思ったら、そうじゃないんだな。」
リオの怯えた顔や、肌の質感を思い出すと、昂るそれを、扱き始める。
「く、ああ、やっぱり、お前じゃないと、こんなになんないよなあ、リオ…」
リオの中に吐き出す想像をしながら、男は精を吐き出した。
読み終えた手紙をその辺に投げ捨てると、男はリオが使っていたときからそのままの寝台に寝転んで、また1人昂るそれを扱き始めた。
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