運命と運命の人

なこ

文字の大きさ
106 / 113
最終章

7

しおりを挟む
ふっくらと目立ってきたお腹を抱え、リオはますますぼんやりとする時間が増えていた。

と呼べば嬉しそうに振り返っていたのに、ユアンと呼んでも、リオと呼んでも、なんの反応も示さない。

ラグアルの目には、自分が誰なのか、それすらも分からなくなっているように見えた。

うとうとと寝ている時間が増え、起きている間はラグアルの側を離れようとしない。

まるでラグアルだけがよすがの様に生きている。

その日、いつものようにうとうとと眠りに入ったリオを確認すると、ラグアルは少しだけ外へ出た。

片付けておきたい仕事があったためだ。

リオが目を覚ます頃には戻る予定だった。

少しだけ、時間がおしてしまった。

戻ってみると、眠っていたはずのリオの姿がない。

誰に聞いても眠っているものだと思っていたと、慌ててリオを探し始めた。

その姿はすぐに見つけることができた。

リオは、庭にいた。

裸足のまま、やはり、ぼんやりと辺境の方を眺めている。

「ユア………リオ?」

振り返らないリオに近づくと、リオはやっとラグアルに気が付き、嬉しそうに抱きついた。

「わたしのことを探していたのか?」

こくこくと頷くリオへ靴を履かせようと屈み込んだラグアルの目に、真っ赤な一筋の線が見えた。

予定では、まだ一月以上先のことだ。

「誰か、医者をっ!」

ラグアルの叫び声が、公爵家にこだました。

それは、困難を極める出産だった。

長い時間、何度も危険な状態を繰り返した。

「リオ!リオ!リオ……」

朦朧とする意識の中、その声だけが、リオの耳に届いていた。

そうだ、あの日も、一人だけずっとと呼ぶ声が聞こえていた。

その声と、同じ……

ずっと、近くで聞こえていた……

あの日……?

あの日………

そうだ、あの日、俺はっ…

「うっ、っあああっ!」

「リオっ!」

記憶が鮮明に蘇る中、無意識に身体に力が入る。

「リオ様っ、もう少し!もう少しで生まれます!!!」

医者の声にも力が入る。

「うっっ、っっあああああ!!」

「そう、そのまま、そのまま!!!」

一際大きな痛みの後、リオの身体は弛緩した。

赤子が、産み出された。

聴こえるはずの、初声は響かない。

はあ、はあ、と肩で息をするリオの脇で、医者たちはなんとか赤子をと、手を尽くす。

弱まる心音に、なんとかしようと何度も手を施し、部屋の片隅で呆然と見守るラグアルの前で、最後はリオの胸にそっと赤子を抱かせた。

胸の上の赤子は、本当に小さく、生温かく、こんなに小さいのに、しっとりと重さが感じられる。

リオの胸の上でぴくりともしないその小さな身体を、リオは震える手で何度も何度もそっと撫で続けた。

医者に促され、ラグアルもその小さな身体にそっと指で触れるように、優しく撫でた。

誰も何も言葉を発しない。

「……ふ、ふぎゃ、ふぎゃぁー」

突然、その小さな命は、泣き出した。

小さな小さな泣き声だ。

驚くラグアルと、驚くリオの胸の上で、小さく身体を捩って泣いている。

「……泣いて、る。ラグアル様、泣いてる、よ。」

「こんな……可愛い子…リオ、ありがとう。ありがとう、リオ。」

そう言うラグアルも泣いている。

リオも泣いている。

「可愛い……。こんなに、こんな、ありがとう、ラグアル様……ごめんなさい……ありがとう、ユアン、様……」

「リオ、リオに、戻れたんだな……」

「…はい。」

「わたしとリオの可愛い子だ。ユアンが守ってくれた、可愛い子だ……」

「は、い…ユアン様が守ってくれた……」

ユアンが守った小さな命は、ふぎゃあふぎゃあと、リオとラグアルに見守られ、その命を主張するかのように、愛らしい声を響かせていた。





ユアンとカイゼルの婚姻の儀式が、明日に迫った。

二人の他に、リヒト、マリは既に王都入りしている。

ユアンを侯爵家から送り出したいと、最後に家族水入らずをと強く懇願され、ユアンは一人侯爵家に滞在している。

カイゼルも王宮で兄王と水入らずだが、いかんせん二人はそんな雰囲気ではない。

共に王宮入りしたリヒトとマリは、ユアンがいないと不機嫌なカイゼルに、苦笑いするしかない。

何度もユアンはどうしていると尋ねられるが、自分たちとて王宮にいるのだから、分かる筈もない。

「ご家族で、水入らずですよ。明日には会えるじゃないですか。」

リヒトの返答も、だんだんと雑になっている。

「…カイゼル様って、案外……」

マリの言葉にカイゼルが睨みをきかせるので、マリはリヒトの陰に隠れた。

「ユアン様、結婚したら大変かも。ねえ、リヒト。」

マリがリヒトに耳打ちすると、リヒトも深く頷いた。

たった数日なのに、ユアンがいないだけで、カイゼルは落ち着かない。

いつも近くにいたユアンを目で探してしまう。




「…わかってくれたのはいいが、まさか、あそこまでとはな……。」

カイゼルの変わり様に、兄王はいつもの自室でぼやいていた。

呆れたような、嬉しそうな、まるで父親の様なそんな顔をしていた。



















































しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...