11 / 102
新しい護衛
10
しおりを挟む
ルドルフ様はわたしの憧れであり、恩人だ。
現在のわたしがあるのはルドルフ様のおかげと言っても過言ではなく、その恩に少しでも報いるよう日々精進を重ねてきた。
ルドルフ様が特殊な任務に就き、騎士団に顔を出す機会が減ったのは三年前のこと。
まがりなりにもその頃にはルドルフ様の右腕と言っていただけるまでになっており、第一騎士団の副団長だったわたしは代わりに団長の職を引き継いだ。
片田舎から出てきた貴族の端くれが団長など、なかなか認めて貰えない。
ルドルフ様がいたからこそ、副団長として認められていたのだ。
三年間、必死に過ごした。
総司令官が急逝され、ルドルフ様が後継に命じられたと聞いた時、またその下で務められるのではないかとわたしの期待は膨らんだ。
しかし、呼び出されたのはわたしではなかった。
数人の騎士が、ルドルフ様から密かに呼び出される姿を何度か目にした。
皆腕のたつ寡黙な騎士たちで、わたしよりも歳上だ。
やはりわたしでは役不足なのだろうか。
ルドルフ様の右腕などと言われていたのは、もう過去のことだ。
ところが、興奮した様子で戻ってきた彼らは数日の間姿を消し、また姿を現したときには普段の変わらぬ姿に戻っていた。
呼び出されていたことを遠巻きに探ってみたが、皆なんのことかととぼけてみせる。
いや、とぼけているというより、記憶にないといった感じだ。
これ以上の詮索はならない。
これはきっと深入りしてはいけない何かがあると、わたしの勘が告げていた。
ルドルフ様から呼び出しがあったのは、それからすぐのことだ。
共に連れていかれたのは、王の元。
現王特有の薄紫色に光る目が、全身を舐めるように見回す。
あの目を前にすると、全てを見透かされているような不思議で恐ろしい気持ちになる。
「ユリウスと申したか?これから問うことに答えろ。嘘偽りは許さぬ。」
何か、してしまったのか。
王の気に障るような、何かを。
身体中から冷や汗が溢れ出た。
「そのように脅されてはユリウスも答えにくいでしょう。もう少し、答えやすいようお話し下さい。」
ルドルフ様からの助け舟で、少しだけ王の圧が緩んだような気がした。
この王に進言できるのは、正妃様とルドルフ様、このお二人しかいないと聞いたことがある。
「ついな。ノアを任せるのだ。吟味せねばならん。」
ノア……?
どこかで、お聞きしたような。
「そなた、婚約者や恋人は?」
「…いえ、おりません。」
なんだ、一体何を訊かれるんだ?
「懸想する者は?性的な対象は男か女か?これまでの人数は?」
「誰も、おりません。…女性でしょうか。経験はまだ…ございません。」
「ほう!お前今だに経験がないのか!それはそれで心配だがな。」
ずっと騎士になるために必死で、騎士になってからもそんな余裕などなかった。
「茶化すような言い方はおよし下さい。ユリウスは騎士として、ずっと真面目に過ごしてきた者です。そんな暇はなかっただろうと思います。」
「ふうん。そうか。まあ、いいだろう。とりあえず会わせてみろ。駄目なときは…よいな。」
「ユリウスは最後の砦です。ユリウスで駄目なら、もう他にはおりません。」
「それでも駄目なときは、駄目だ。そうなったら、わたしの元で過ごさせる。」
「それはなりません。」
王とルドルフ様が何を話されているのか、その時のわたしは何一つ理解することができなかった。
「ユリウス、ついて来い。」
王の間を出てルドルフ様に連れて行かれたのは後宮。
ルドルフ様が後宮に入るのを門番が咎めることはない。
許されているということだ。
わたしなどが簡単に入れるような場所ではない。入り口で躊躇するわたしに、早く来いとルドルフ様が目で合図する。
円筒形に聳え立つ後宮を見上げ、これから一体何が起こるのか、全く想像がつかないまま恐る恐る足を踏み入れる。
後宮内にはむせかえるような、華やかな香りが漂っている。
騎士団内では決して嗅ぐことのない女性特有の香りだ。
自分は今なんと恐れ多い場所にいるのかと改めて実感し、前を行くルドルフ様を恨めしく思う。
わたしはこのような場所には、相応しくない。
「あら、ルドルフ。え、まさか次はユリウスなのう?」
「まさかのユリウス!」
「ユリウスが来てくれたら、わたしも嬉しいかも。」
すれ違う妃達は、皆面識ある方ばかりだ。
「ほう、ユリウスか。」
この国から嫁がれた唯一の正妃様がゆったりと微笑んでいる。
この後宮を取り纏めるという正妃様に深く礼を告げようとしたとき、どこからか微かな叫び声が聞こえた。
「ノア様!」
血相を変えたルドルフ様が走り出す。
正妃様も、他の側妃様もさっと顔色が変わり、ルドルフ様が向かう先を心配そうに見つめている。
騎士としての習性だろうか、正妃様にさっと一礼だけすると、わたしも無意識のうちに急いでその後を追っていた。
回廊を走った奥の奥、見たこともない頑丈そうな両開きの扉がある。
叫び声は、ここから?
痛い、助けて…
微かに助けを呼ぶ声まで聞こえている。
扉は外からも鍵…
ルドルフ様が急いで開錠し、開いた扉の向こうに、
そこに、あなた様がいらしたのです。
現在のわたしがあるのはルドルフ様のおかげと言っても過言ではなく、その恩に少しでも報いるよう日々精進を重ねてきた。
ルドルフ様が特殊な任務に就き、騎士団に顔を出す機会が減ったのは三年前のこと。
まがりなりにもその頃にはルドルフ様の右腕と言っていただけるまでになっており、第一騎士団の副団長だったわたしは代わりに団長の職を引き継いだ。
片田舎から出てきた貴族の端くれが団長など、なかなか認めて貰えない。
ルドルフ様がいたからこそ、副団長として認められていたのだ。
三年間、必死に過ごした。
総司令官が急逝され、ルドルフ様が後継に命じられたと聞いた時、またその下で務められるのではないかとわたしの期待は膨らんだ。
しかし、呼び出されたのはわたしではなかった。
数人の騎士が、ルドルフ様から密かに呼び出される姿を何度か目にした。
皆腕のたつ寡黙な騎士たちで、わたしよりも歳上だ。
やはりわたしでは役不足なのだろうか。
ルドルフ様の右腕などと言われていたのは、もう過去のことだ。
ところが、興奮した様子で戻ってきた彼らは数日の間姿を消し、また姿を現したときには普段の変わらぬ姿に戻っていた。
呼び出されていたことを遠巻きに探ってみたが、皆なんのことかととぼけてみせる。
いや、とぼけているというより、記憶にないといった感じだ。
これ以上の詮索はならない。
これはきっと深入りしてはいけない何かがあると、わたしの勘が告げていた。
ルドルフ様から呼び出しがあったのは、それからすぐのことだ。
共に連れていかれたのは、王の元。
現王特有の薄紫色に光る目が、全身を舐めるように見回す。
あの目を前にすると、全てを見透かされているような不思議で恐ろしい気持ちになる。
「ユリウスと申したか?これから問うことに答えろ。嘘偽りは許さぬ。」
何か、してしまったのか。
王の気に障るような、何かを。
身体中から冷や汗が溢れ出た。
「そのように脅されてはユリウスも答えにくいでしょう。もう少し、答えやすいようお話し下さい。」
ルドルフ様からの助け舟で、少しだけ王の圧が緩んだような気がした。
この王に進言できるのは、正妃様とルドルフ様、このお二人しかいないと聞いたことがある。
「ついな。ノアを任せるのだ。吟味せねばならん。」
ノア……?
どこかで、お聞きしたような。
「そなた、婚約者や恋人は?」
「…いえ、おりません。」
なんだ、一体何を訊かれるんだ?
「懸想する者は?性的な対象は男か女か?これまでの人数は?」
「誰も、おりません。…女性でしょうか。経験はまだ…ございません。」
「ほう!お前今だに経験がないのか!それはそれで心配だがな。」
ずっと騎士になるために必死で、騎士になってからもそんな余裕などなかった。
「茶化すような言い方はおよし下さい。ユリウスは騎士として、ずっと真面目に過ごしてきた者です。そんな暇はなかっただろうと思います。」
「ふうん。そうか。まあ、いいだろう。とりあえず会わせてみろ。駄目なときは…よいな。」
「ユリウスは最後の砦です。ユリウスで駄目なら、もう他にはおりません。」
「それでも駄目なときは、駄目だ。そうなったら、わたしの元で過ごさせる。」
「それはなりません。」
王とルドルフ様が何を話されているのか、その時のわたしは何一つ理解することができなかった。
「ユリウス、ついて来い。」
王の間を出てルドルフ様に連れて行かれたのは後宮。
ルドルフ様が後宮に入るのを門番が咎めることはない。
許されているということだ。
わたしなどが簡単に入れるような場所ではない。入り口で躊躇するわたしに、早く来いとルドルフ様が目で合図する。
円筒形に聳え立つ後宮を見上げ、これから一体何が起こるのか、全く想像がつかないまま恐る恐る足を踏み入れる。
後宮内にはむせかえるような、華やかな香りが漂っている。
騎士団内では決して嗅ぐことのない女性特有の香りだ。
自分は今なんと恐れ多い場所にいるのかと改めて実感し、前を行くルドルフ様を恨めしく思う。
わたしはこのような場所には、相応しくない。
「あら、ルドルフ。え、まさか次はユリウスなのう?」
「まさかのユリウス!」
「ユリウスが来てくれたら、わたしも嬉しいかも。」
すれ違う妃達は、皆面識ある方ばかりだ。
「ほう、ユリウスか。」
この国から嫁がれた唯一の正妃様がゆったりと微笑んでいる。
この後宮を取り纏めるという正妃様に深く礼を告げようとしたとき、どこからか微かな叫び声が聞こえた。
「ノア様!」
血相を変えたルドルフ様が走り出す。
正妃様も、他の側妃様もさっと顔色が変わり、ルドルフ様が向かう先を心配そうに見つめている。
騎士としての習性だろうか、正妃様にさっと一礼だけすると、わたしも無意識のうちに急いでその後を追っていた。
回廊を走った奥の奥、見たこともない頑丈そうな両開きの扉がある。
叫び声は、ここから?
痛い、助けて…
微かに助けを呼ぶ声まで聞こえている。
扉は外からも鍵…
ルドルフ様が急いで開錠し、開いた扉の向こうに、
そこに、あなた様がいらしたのです。
398
あなたにおすすめの小説
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる