67 / 102
ノアとノアール
65
しおりを挟む
「そして、建国に大きく貢献した騎士の名は、ユリウスだ。そうだよね、ユリウス。」
貢献した?
あの頃はただ、ノアール様をお守りするために剣を振るっていただけだ。
「これはただの偶然なのかな?君はどう思う?」
ニイナ様は黒い瞳を興味深げに潤ませて覗き込んでくる。
「さあ、どうでしょう…。」
「騎士家系の子には、剣豪として名を馳せたユリウスにあやかって、ユリウスと名付けられる子が多いと聞いたよ。君の親もそうだったのかな。」
あの頃からずっと、何度生まれ変わってもユリウスという名は変わらない。
ユリウスとは、ノアール様が付けてくださった名前だ。
「あらあ、それじゃあ二人は古からの縁で結ばれているのかしら。」
「ユリウスは伝説の剣豪だったのか。」
「ノアちゃんはもしかしたら王様だったのかしらねえ。」
「ユリウスはそのユリウスの子孫あるか?」
「そんなことより、ノアの様子が気になるわ。」
「ノアの様子とユリウスは何か関係があるのかしら…」
「ニイナ、勿体ぶらずに考えていることを話しなさい。」
のんびりとした妃と、真剣に考え込む妃とで反応が別れる。
「ずっと不思議だったんです。どうして私が此処に来たのか。あてがわれたように十人の妃がいて、十人の部屋があるのか。なぜ、ノアは…」
「…ああ、駄目じゃ。もう気がつかれてしまった。」
ナターシャ様がそう言うと、重い扉が開かれ不自然な笑みを浮かべた陛下がどかどかと部屋に入り込んできた。
「なあ皆んな、これは一体どういうことだい?」
ぐるりと部屋を見回すと、その視線はわたしの元でぴたりと止まる。
「ユリウス、どうしてお前がここにいるんだ。ノアとはもう会わないと、そう言ってきたのはお前だろう。」
不自然な笑みを浮かべたままの陛下からは、相当な怒りが感じられる。
別れの挨拶を最後に、ノア様にはもうお会いするつもりはなかった。
今日のことは想定外の出来事だ。
「…申し訳ございません。すぐに、退出いたします。」
「当然だ。今すぐ此処を去れ。」
立ち去ろうとするわたしと陛下の間に、妃らが立ち塞がる。
「お前たち、どう言うことだ?勝手にノアを此処へと連れ戻し、挙げ句の果てにユリウスまで呼び寄せるなど。
…ルドルフ、お前がついていながらこの有り様はなんだ?まさか、お前に裏切られるとはな。」
「あのままあそこにいても、体調が悪くなる一方じゃ。原因も分からないのなら、此処で安静にしている方がノアの為だと、何度も申したではないか!」
ナターシャ様が声を荒らげる姿は珍しい。それ程何度も陛下へ進言されていたのだろう。
「ルドルフへは妾が命じたのじゃ!ノアを此処へ連れてくるようにと。」
「ノア様は今やっと落ち着いてお眠りになった所だ。わたしとて迷ったさ。だが、この数日の間眠ることもままならない状況だったのに、今はやっと落ち着いてお眠りになられた。ナターシャ様の言う通り、此処へ連れ戻して良かったと思っている。」
「黙れ!」
陛下の一言で部屋の中はしんと静まり返る。
「ノアはやっと婚約を承諾したんだ。それをここへ連れ戻したせいで、また気持ちが変わるかもしれない。お前たちは何をしたのか、分かっているのか。」
「なぜそのように急ぐのじゃ!そのように急ぐ理由があるのか!」
「理由…。お前たちには、ノアの身体のことを話した筈だが?」
カタンと小さな物音に全員が振り向く。
「ノア!」
陛下が声をあげると、ノア様はお腹を抱えたまま、よろよろとわたしの元まで歩み寄った。
「ユリウス、ここに、いたのか…」
せっかく落ち着いて眠りについた所で、この騒ぎに目を覚ましてしまわれたのだろう。
足取りもおぼつかなく、苦しそうに寄りかかるノア様を突き放すことはできない。
陛下の前ではあるが、そっと支えるようにすると小さく笑みを浮かべてもたれかかってくる。
「父上が此処にいらしたと言うことは、お認めになってくれたと、そう思っていいのですよね。」
ノア様はまだノアール様のままなのだろうか。
いつものノア様の口調ではない。
陛下もその様子に訝しげに眉を顰めている。
「ユリウスは戻ってきました。父上はもう戻らないと仰っていましたが、ここでこうして支えてくれています。」
「ノア?一体何を…」
「ずっと世継ぎを作れと、そう仰っていたではありませんか。ですから教会に通って願い続けたのです。望み通り世継ぎができたと言うのに、何故反対なさるのですか?」
「………ノア、そなた自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
「自分のことは自分が一番よく分かっています。理解しようとしなかったのは、父上ではありませんか。」
ノア様の細腕にぎゅっと力が込められる。わたしの知るノア様の力ではない。
「ここに宿しているのは、ユリウスとわたしの子です。いい加減お認め下さい。」
驚いただろう?
そう言って見上げてくる薄紫色の瞳は、ただ無邪気に透明で潤んでいた。
貢献した?
あの頃はただ、ノアール様をお守りするために剣を振るっていただけだ。
「これはただの偶然なのかな?君はどう思う?」
ニイナ様は黒い瞳を興味深げに潤ませて覗き込んでくる。
「さあ、どうでしょう…。」
「騎士家系の子には、剣豪として名を馳せたユリウスにあやかって、ユリウスと名付けられる子が多いと聞いたよ。君の親もそうだったのかな。」
あの頃からずっと、何度生まれ変わってもユリウスという名は変わらない。
ユリウスとは、ノアール様が付けてくださった名前だ。
「あらあ、それじゃあ二人は古からの縁で結ばれているのかしら。」
「ユリウスは伝説の剣豪だったのか。」
「ノアちゃんはもしかしたら王様だったのかしらねえ。」
「ユリウスはそのユリウスの子孫あるか?」
「そんなことより、ノアの様子が気になるわ。」
「ノアの様子とユリウスは何か関係があるのかしら…」
「ニイナ、勿体ぶらずに考えていることを話しなさい。」
のんびりとした妃と、真剣に考え込む妃とで反応が別れる。
「ずっと不思議だったんです。どうして私が此処に来たのか。あてがわれたように十人の妃がいて、十人の部屋があるのか。なぜ、ノアは…」
「…ああ、駄目じゃ。もう気がつかれてしまった。」
ナターシャ様がそう言うと、重い扉が開かれ不自然な笑みを浮かべた陛下がどかどかと部屋に入り込んできた。
「なあ皆んな、これは一体どういうことだい?」
ぐるりと部屋を見回すと、その視線はわたしの元でぴたりと止まる。
「ユリウス、どうしてお前がここにいるんだ。ノアとはもう会わないと、そう言ってきたのはお前だろう。」
不自然な笑みを浮かべたままの陛下からは、相当な怒りが感じられる。
別れの挨拶を最後に、ノア様にはもうお会いするつもりはなかった。
今日のことは想定外の出来事だ。
「…申し訳ございません。すぐに、退出いたします。」
「当然だ。今すぐ此処を去れ。」
立ち去ろうとするわたしと陛下の間に、妃らが立ち塞がる。
「お前たち、どう言うことだ?勝手にノアを此処へと連れ戻し、挙げ句の果てにユリウスまで呼び寄せるなど。
…ルドルフ、お前がついていながらこの有り様はなんだ?まさか、お前に裏切られるとはな。」
「あのままあそこにいても、体調が悪くなる一方じゃ。原因も分からないのなら、此処で安静にしている方がノアの為だと、何度も申したではないか!」
ナターシャ様が声を荒らげる姿は珍しい。それ程何度も陛下へ進言されていたのだろう。
「ルドルフへは妾が命じたのじゃ!ノアを此処へ連れてくるようにと。」
「ノア様は今やっと落ち着いてお眠りになった所だ。わたしとて迷ったさ。だが、この数日の間眠ることもままならない状況だったのに、今はやっと落ち着いてお眠りになられた。ナターシャ様の言う通り、此処へ連れ戻して良かったと思っている。」
「黙れ!」
陛下の一言で部屋の中はしんと静まり返る。
「ノアはやっと婚約を承諾したんだ。それをここへ連れ戻したせいで、また気持ちが変わるかもしれない。お前たちは何をしたのか、分かっているのか。」
「なぜそのように急ぐのじゃ!そのように急ぐ理由があるのか!」
「理由…。お前たちには、ノアの身体のことを話した筈だが?」
カタンと小さな物音に全員が振り向く。
「ノア!」
陛下が声をあげると、ノア様はお腹を抱えたまま、よろよろとわたしの元まで歩み寄った。
「ユリウス、ここに、いたのか…」
せっかく落ち着いて眠りについた所で、この騒ぎに目を覚ましてしまわれたのだろう。
足取りもおぼつかなく、苦しそうに寄りかかるノア様を突き放すことはできない。
陛下の前ではあるが、そっと支えるようにすると小さく笑みを浮かべてもたれかかってくる。
「父上が此処にいらしたと言うことは、お認めになってくれたと、そう思っていいのですよね。」
ノア様はまだノアール様のままなのだろうか。
いつものノア様の口調ではない。
陛下もその様子に訝しげに眉を顰めている。
「ユリウスは戻ってきました。父上はもう戻らないと仰っていましたが、ここでこうして支えてくれています。」
「ノア?一体何を…」
「ずっと世継ぎを作れと、そう仰っていたではありませんか。ですから教会に通って願い続けたのです。望み通り世継ぎができたと言うのに、何故反対なさるのですか?」
「………ノア、そなた自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
「自分のことは自分が一番よく分かっています。理解しようとしなかったのは、父上ではありませんか。」
ノア様の細腕にぎゅっと力が込められる。わたしの知るノア様の力ではない。
「ここに宿しているのは、ユリウスとわたしの子です。いい加減お認め下さい。」
驚いただろう?
そう言って見上げてくる薄紫色の瞳は、ただ無邪気に透明で潤んでいた。
252
あなたにおすすめの小説
ギャルゲー主人公に狙われてます
一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる