秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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ノアールとユリウス

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真帆はたった一度、ノア様を目にしたあの日から、やたらとノア様のことを気にかけるようになっていた。

あの人は何者なのか、わたしと一体どのような関係なのか、ことあるごとに根掘り葉掘り問いかけてきたが、いくら真帆でもそれに答えることはできなかった。

そのことがかえってノア様への関心を惹きつけたのかもしれない。

思い返せば、シロも同じようにいつもノアール様のことを気にしていた。

長い年月をかけ生死を繰り返す中、いつもどこにいても、大抵は一人だった。

ノアール様の記憶と共に、長い年月を過ごした日々の記憶と、真帆との静かな生活の記憶も蘇った。

真帆とシロはどこか似ている。

わたしへ抱く恋情を隠すことなく、純粋にぶつけてくる彼らのことを、心から嫌うことはできない。

同じような想いを返すことができればと思うが、ノアール様へ抱く感情以上のものを他の誰かに向けることは、この先ずっと不可能だ。

それならば、なぜ真帆と婚約したのか。

ルドルフ様からの問いが頭をよぎる。

シュヴァリエ様や、一部の貴族を手玉にとろうとした真帆には、王都での居場所は最早ない。

どういう訳かこんな所までわたしを追いかけて来たと言う真帆は、シュヴァリエ様の後ろ盾がなくなり、どこにも行き場がなくなっている。

記憶を取り戻した今、シロと同じように何度振り払っても付いてこようとする真帆を見捨てることは出来なかった。

さらに言えば、婚約に難色を示すノア様のため、陛下から名ばかりでもいいから婚約を結ぶよう命じられたことも大きい。

真帆には名ばかりの婚約になるが、それでも共についてくるかと、念を押して確認した。

真帆はそれでもいいと、頷いた。

この地で真帆が生き抜く地盤ができれば、華やかな生活を好む真帆は、いずれわたしの元を去るだろう。

それだけのことなのに、なぜこうも次から次へと問題が起きるのか…。

今こうしている間にも、ノア様と真帆が向かい合っているのかと思うと、ここに居てどうすることもできない自分にひどく苛立つ。



体調を崩されていたノア様に真帆が危害を加えるようなことがないかと、気が気でないまま、時をやり過ごす。

流石に危害を加えるようなことはないと思うが…

ずっと座ったままだった身体を起こすと、首にかけられたメダルがちゃり、と小さく音を鳴らす。

ノア様が下さったものだ。

ノア様とシオンの婚約も直に結ばれるとお聞きした。

これで思い残すことはもうない。

ノア様とシオンが並び立つ姿は、よくお似合いだった。

家柄的にも、誰も何も咎めることはない。

…あの当時は考えられなかったことだ。

今では、同性婚が認められている。

ノアール様はお世継ぎのことで苦労されていたが、ノア様はそのことで悩まれる必要もないだろう。

並び立つシオンに微笑みかけるノア様を思い浮かべる。

シオン、とノア様は声をかける。

シオン、シオン、とノア様がこの先呼び続ける名はシオンであって、ユリウスではない。

ノアール様の幸せを願っていた。

ノアール様の生まれ変わりであるノア様の幸せも。

なぜこうも胸がちりちりと痛むのだろうか。

ノア様はノア様であって、思い焦がれていたノアール様本人ではない。


『ここに宿しているのは、ユリウスとわたしの子です。いい加減お認め下さい。』


ノア様が発した、ノアール様としての言葉が頭をよぎる。

王族にだけ現れる、特異な存在…。

考えればすぐに思い当たった筈であるのに…。

ノア様が秘匿されていた理由は、きっとそれだ。

なぜ今まで思い当たらなかったのだろう。

記憶が混濁しているだけだと思っていたが、まさか、いや、そんな筈は…

ちりちりとした痛みが、ノアール様へのものなのか、ノア様へのものなのか、一番混濁しているのは自分自身なのかもしれない。



























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